第3話 攻略の手法

「…俺の名はアシタカ。こんなところで悪いが、協力を願い出たことを感謝する。後日、報酬とその他の面を説明するよ」


 アシタカ。

 〈ARM〉を起動し、先ほどまでの姿とは一手替わる。黒髪で寝ぐせが直っていない髪型をしていたのが、光の一線の視界を経て、彼(アシタカ)の姿は黒髪から茶髪へ返還され、痩せた体は少し太く、筋トレしているかのような肉付きへと変えている。

 人見の色も黒から紺色へと代わり、頬に羽ペンの模様が加えていた。


 〈ARM〉すなわちゲームでありオンラインゲーム。

 違うのはVR(仮想空間)でもなく現実世界でもなく、AR(拡張現実)によって生み出された世界。

 電脳体と呼ばれる肉体とは別で生身である肉体を復元し、作成され、肉体として存在させる電脳体という技術。


 電脳体となった体は、現実における怪我などすることも治すという手間もない。電脳体はデータの集まりで構成された肉体であり無敵に近い体でもある。


 VRとARの違いは、仮想空間と呼ばれる別の世界・宇宙・空間に飛ばされるということ。ラノベで使われる異世界ファンタジー、転生、転移系(全部ではない)で使用される(あくまで個人のみかいです)。


 VRは身体に装着する機器や、コンピュータにより合成した映像・音響などの効果により、3次元空間内に利用者の身体を投影し、空間への没入感を生じさせる。


 空間内では移動や行動が可能で、利用者に動作に応じてリアルタイムに変化や応答が得られる対話性を備えている。

 例題に、SAOやログホなどが上げられる(他もある)。


 現実世界にある肉体を置き、痛覚や五感などをコンピュータの世界へ渡り歩くという風に考えるべきだろう。

 逆にARは生身のまま、動き回りコンピュータが処理する世界で情報を得ることができると考える。

 例題、電脳コイル、ワートリなどがあげられる(個人的見解)。


 ARは現実ファンタジーに分類されると思う。

 ARはコンピュータがカメラやマイク、GPS、各種のセンサーなどで得たその場所や周囲の状況に関する情報をもとに、現実世界から得られる画像や映像、音声などに書こうを施して利用者に提供するシステムのことである。


 またメガネなど肉眼で見れるものに対象物に関連する文字や画像、映像などを重ね合わせて表示させることもできる。肉眼ではただの置物、芸術品、漫画に見えたとしても、ARでは映像として立体に見えたり、そのものがなんなのか説明分や音声で読み上げてくれるというものである。

 例題に、電脳コイル(個人的に知る限り)。


 AR(オーグメンテッドリアリティ)/拡張現実。

 VR(バーチャルリアリティー)/仮想現実。


 *


 ARで作られた世界は、デバイスによって人体、脳へとデータが送られ、五感でそれを知り、処理することで〈ARM〉の世界をより体に伝わるようになっている。


 VRでは体は住まいや建物内に保管し、意識だけ移動する傾向にあるが、ARでは電脳体を覆った身体で身動きをとることとなる。

 つまり、あまり無茶なことをすれば現実にも怪我や病院という重大なことに発展するという欠点を持つということだ。


 つまり、攻撃主である矢に当たれば、多少の痛みともに電脳体に仮称の怪我を負うが、体はそこにあり、石に躓くなり相手の物理的攻撃を受ければ傷つくということだ。


「――理解できたか」


 ノエルは首を左右に振りすべて納得できたわけじゃないと述べた。

 アシタカは「一発で覚えきれないのは常識、一発で覚えきれる奴は頭のねじが飛んでいる」と告げ、相手の攻撃が届かない竹藪の中へとノエルを連れて移動する。


 打ってくる矢を弾き飛ばしながら、相手の攻撃してくる場所を探りながらノエルと二手に分かれて移動する。

 相手の攻撃主はアシタカだった。


 未知なる相手であるノエルは攻撃しない。無視しているというよりもあえて出方を待っているという感じだ。


 相手はノエルの存在を知らない。

 ましてや、突然出現したという認識に近いかもしれない。


 マップにはアクティブスキルによってマーカーを付けることができる。つけられた相手は距離を一定以上離れるか離脱(戦闘不能含む)しないと解除されない。

 マップにはおそらく二人の位置は確認できていた。けど、アクティブスキルも固有スキルも不明であり、なおかつ〈ARM〉を起動していなかった人がいた。


 もし、民間人ならルール違反で最悪アカウントがBAN(永久凍結)される可能性もあった。しかし、アシタカはその人を守りながら戦い、なにかを教えている素振りを見せていた。


「民間人・・・なのか? しかし、本物なら・・・」


 相手の仲間かただの民間人なのか。その判別ができず戸惑いつつ、民間人を含めて敵として認識し攻撃を仕掛ける。もし、民間人なら、矢は貫き、血がでるなり痛がるはず、誤射であったとしても死ななければ問題はない、そういう考えだった。


 二手に分かれ、アシタカを集中し、ノエルの動向を探るという選択肢に出たのは理由がある。アシタカは近年、ランキングを上り詰めているチームのひとりであり、隙を見せたら即殺されるという噂を持つ相手。


 矢の数を惜しむことなくアシタカを妨害し、隙をついてアクティブスキルを使えば勝利に見込めると確信した。

 一方でノエルはまだ初心者のようである。


 敵が近くにいるときは武器を瞬間的に装備されるが、初心者でまだ初めてばかりの人は武器が公式に配っている最弱武器を無料で配布される。

 見た目は安っぽくいかにも初心者だと認めているかのような作りだ。


 マップのマーカースキルによってノエルはまだ先に倒す必要はないと踏まえたのだ。それに、初心者は最初、アクティブスキルがなにを取得しているのか明白にされていないことも上げられる。


 ゲームを始めたばかりの人は、運営からP15から60以内で習得できるアクティブスキル(以下、AK)をランダムで1種類だけ無料配布されているからだ。

 40以上のPを支払うAKは未知数なものが多く、オークションに出品されているケースは非常に少なく重宝されやすい。


 非常に危険なのだが、AKは使うまで、実態を把握することができないため、一度でも使用すれば対処は可能となる。

 それに、非常用のアイテム〈反射する鎧(カウンターバリア)〉によって、一度だけAKによる攻撃を反射することができる。


 アシタカさえ押さえておけば、ノエルの攻撃を喰らってもAKでいくらでも対処が可能だということだ。


「っく、ノエル…作戦今から言うぞ!」


 アシタカがなにかノエルに語り掛けている。

 遠くで口が動いているのはわかるがそれがなにを伝えているのかわからない。相手の言葉を認識できるAKを習得しておくべきだったか…悔やむところだ。


「――わかった」

「悪いな、いきなり危険な行為をさせちまって」

「絶対、勝利しよう」


 ノエルが動く、こちらに向かって急接近してくる。

 だが、アシタカは動かない。囮か。けど、アシタカの把握しているAKの〈影移動〉は危険だ。


 〈影移動〉は、自身または相手の影を利用し、影のなかを移動する技術。〈転移系統〉に所属され、重宝されやすい。影が存在する場所から自由自在に移動が可能で、相手の隙をついて攻撃することができるという。奇襲に最適なAK。


 〈反射する鎧(カウンターバリア)〉があっても、二度目の攻撃を弾くことはでき兄。つまり、スキルの発動を見逃せば確実に勝機はないということだ。

 こんなことだったら、複数の相手を狙い打てるAKを習得するべきだった。Pはおよそ30弱。命中精度は低いが混乱させるには十分な威力を持つ〈飛び跳ねる矢(ラビットアロー)〉。まだ、29Pしかない。

 この戦いで補給するはずだった。


「ノエル、俺が支持するまでそこを動くなよ!」


 ノエルの影が追えなくなる。

 こんなことだったら応援を呼ぶべきだった。

 しくった。ひとりなら楽勝だと思っていた。連戦していたのが仇となってしまったか。


 それに、アシタカが影移動してしまったら、最終的にどこから攻撃を仕掛けられるのかわからない。アシタカを見逃すわけにはいかない。

 冷や汗が顔に出る。ここまで緊張し、考えたのは久しぶりだ。アイテムの補充はない。アシタカを追うことで使い切ってしまった。


 竹藪に逃げ込んだ時、チャンスだと思った。

 俺のスキルなら、この竹藪ではいつでも奇襲・妨害することができる。

 甘かったのは自分自身だった。アシタカを一人で倒せたと報告ができるという思いが裏目に出てしまった。


「っぐ…どうする。アシタカを無視して、ノエルという新規をやるか!? いや、アシタカのスキルは未知数なものが多い。それに、〈影移動で〉で一気に勝負を仕掛けられた時、俺は対応できるのか? 否――いつもの俺なら冷静で判断したはずだ」


 腕がぶるぶると振るえる。

 まるで冷たい何かに覆われ、体から力が抜けていくのが分かる。


「クソッ! 腕さえ震えてくる…。どこか来る? どこから向かってくる?」


 矢の位置をアシタカに向けながら、周囲をくまなく探す。なるべく片方の眼だけでもアシタカに向け、片方の目でノエルを追う。無理でも無理を通さなければ勝利できない。



「攻撃してこなくなった…」


 茂みに潜み、耐える。

 視界に弓使いの男が矢を構えているが攻撃を仕掛ける様子はない。

 誰かを探しているかのように目の視点だけが動いている風にも見えた。


「奴はぼくが見えていないのか? なら、どうして位置を把握できたんだ」


 ノエルは考える。

 頭の思考を現状の離脱から敵のことを考え、どうして攻撃してこないのかを敵になり切って考えてみる。

 敵は弓を構えているが攻撃を仕掛けていない。

 それはどうしてか? 敵は攻撃できない呪い、もしくは束縛系のなにかに付与され、動けないでいる。 それか、アシタカのなにかに恐れを抱いているのか。

 現に、相手はアシタカにしか攻撃を向けていなかった。


 新人であるノエルを差し置いてアシタカを集中攻撃をする。つまり、アシタカを放っておくと危険であるということ。アシタカの能力(スキル)は不明。相手もスキルも不明、ぼく自身のスキルも不明だ。


 相手はアシタカのスキルのことを知っている。

 だから、二手に分かれてもぼくに対して攻撃を仕掛けてこなかった。


 なら、なぜ二人に対しての攻撃を加えてこない。

 AKがあるのならいくらでも対応ができたはずだ。

 しかし、それをしなかった。なぜなのか。


 理由はある程度理解できる。

 AKはPを消費しないと習得できないことと、他者に対してのAKの情報はほとんど上げられないということ。それに、使用時間・使用回数などもあり、使うまでは知ることもできない。


 相手が使用してこないのはこの使用時間・回数かPがまだたまっていないのどちらかに当てはまり、使用してこなかったということになる。


 範囲系の技は使えない。

 相手はそれを承知で、この戦いに挑んでいる。

 なら、考えられる戦法は自身の周囲にわざと近づかせることで発揮するAKを習得しているということ。


 それなら話がつく。

 自分自身に対するAKを習得しているのであれば、あえてぼく自身を狙わず、アシタカだけを集中していた。もし、ぼくが奴に攻撃を加えていたら、確実にやられていたということだ。


 クソ。これじゃ、動けないじゃないか。

 なにか作戦はないのか?


「…打ってこなくなった。弾切れ…いや、矢切れか。誘っているのだろうか。けど、ちんたらしていたら、どちらもヤバくなる。それに、Pを減らされるのは勘弁してほしいし、こうなったら切り札を出して攻撃を加えるか」


 手に持っていたナイフを宙に投げ、指示でノエルが隠れ潜んだ茂みに向かって投げる。攻撃が片手手薄になってしまうが、確実に隙は生まれる。


「あれは、ナイフ!? アシタカの武器か? あれを使えってことなのかな?」


 宙に投げられたナイフは竹藪からささやかな光によって神々しく輝く。光の粒。水の粒。流星の粒をまといながら地面へ落下した。


 ノエルに投げ入れるはずだったナイフは宙を切ってノエルから少し離れた場所に落下した。

 敵の矢がナイフを弾き、吹き飛ばしたからだ。

 この攻撃でアシタカの意図は外れた。しかも、ノエルに伝えるべき作戦を伝えられず、ナイフという武器はアシタカの攻撃力を半減させてしまった。


「やはり、なにか仕掛ける気でいたか!!」


 再び矢の連射が始まる。

 片手ではじくのがせいっぱいなアシタカに容赦ない矢の雨が降り注ぐ。矢という鋭いつま先の木が流星となって降り注ぐ。それを致命傷を裂け弾いている。

 今までない経験で矢を正確に避けていた。


「アシタカ!?」


「やはり、さっさと攻撃するべきだった!! ナイフを手放して、なにを仕掛けるのか不明だったが、自ら防御力と攻撃力を半減させるとは思わなかったぞ!」


 放たれた一本の矢がアシタカの左目を貫いた。

 丸く黒ずんだ穴が奥の景色を映しだす。アシタカは手を地面に置き、見えなくなった目を片手で隠すようにして相手を睨みつける。


「致命傷だな。片目ではよけ切れなくなった。つまり、アシタカ、今日が命日だ!」


 指をさしながら高笑いする弓使いの男。

 そこにアシタカが笑みを浮かべた。

 不意打ちだったのだろう。黒い闇のローブに身を包んだ背が高き男が弓使いの背後に現れたのだ。


「!?」


「油断大敵だぜ、俺はあのナイフで指示を送ったんだ」


 つまり、あのナイフはノエルに指示を送るのではなく、この男を奇襲させるための合図だった。つまり、あのナイフが投げられた時点で、背後からの攻撃は決まっていたということだ。


「クソ! 〈囲う弓門番(アローズゲートキーパー)〉!!」


 !?

 矢を構える守護者のような精霊を呼び出した。弓使いの男を囲むかのように姿を現す。四方に矢を構え、敵だと判別次第、矢を射抜き攻撃する。


 ローブの男の攻撃によって、アシタカから視界を奪われてしまったが、このAKによって敵がどこにいようと確実に攻撃を続けるという最強の矛盾。

 ローブの男は精霊の矢によって砕け散ったが、〈反射する鎧(カウンターバリア)〉ははがされてしまった。

 二度目は使えない。矢の攻撃による消滅か反射による消滅か不明だが、これでアシタカを含める敵はノエルの二人だけとなった。

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