第12話 49階での告白
今から思えば、私は何を思いながら闘い続けていたのでしょうか。
毎日、毎日「昨日同じことを経験したはずだけど、感覚的には初めて」と感じ続けてきました。
なぜ自分はこの世界にただ1人、闘い続けているのか。なぜ言葉や人間社会の常識や知識を知っているのに、自分以外に人が誰もいないのか……そんな疑問は1日経てば捨てられてしまい、降りかかる敵をただ無機質なロボットのように払うだけ。
根拠は有りません。
君を初めて見た時、ただ直感しました。
物憂げな瞳を携えてニヒリズムに満ち溢れた君が、この世界に対する違和感を払拭してくれる。そしてその鍵を解いてくれる人物なのだと。
この世界に永遠なんて存在しない。
それは君が現れたことで証明してくれました。
私が1階に閉じ込められていた中、2階への扉は開き、夜が明けても昨日のことを自分が歩んできた記憶として実感できるようになったのです。
そして。「ジャメヴ」が解けようやく「私」を実感できるようになれました。
ただ、それはいいものの君がこの塔の頂上にたどり着いたらどうなるのでしょう。
一緒に行動する中、徐々に私の疑問は確信に変わっていきました。
この世界は、生きることが下手な君が作り出した世界。
あのヘリオンと名乗った天使さんはここは辺獄であり君の心象世界と言いました。
49階を越え、屋上にはこの臨死体験を終わらせるドアが待っているのでしょう。
――それでは一体私は?
月白イツカという私の意識は、進みだした時間の元、途方も無い孤独を強いられるのでしょうか?
◇
ゴゴゴと鈍い音が終えた後、扉が開く。
ようやく49階の扉をくぐることになる。
(そうか、もうこれで終わりなのか)
この世界での時間が終わることにがっかりしている自分がいる。
この7日間。長かったようであっという間だった。
月白と一緒にこの塔の階段を駆け上がっていくことに必死で、時間など忘れていた。”1日は24時間”なんて人間がいつしか勝手に作った尺度であり、幻想なのだ。
1人で退屈に過ごす時間は永遠と錯覚する長さを感じ、気が通じ合う誰かと一緒にいる時間は刹那なのだと思う。
階段と49階を繋ぐ扉をくぐる。そこは今までのような回廊が続く造りとは異なっていた。フロア全体が上へ続く階段以外何も無いシンプルな広間だった。奥側の階段を登れば屋上へ行けることが分かる。希望が確信に変わった、その時。
「やっぱり脱出してしまうのですね」
背後から彼女がそう発言する直前、意識の隔絶――及び繰り返しの感覚に襲われた。
デジャヴ。「物語」が進行したのだ。
今までは、脱出に向けての前兆としてそれを前向きに捕らえられたけど、今回は不気味さを感じたのだった。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
振り向いて質問する。
「だって、水無くん、元の世界を嫌がっていたんでしょう?
グーに握った右手を胸に当てながら、視線を逸らして言う。
「確かに、私は辛い時は逃げてもいい。でもいつかは向き合わなきゃいけないと言いました。
……でもそれは、ていの良い教科書的な答えを述べただけに過ぎなかったと思います」
月白は続ける。
「それに戻った後、どうするのですか? また虚しさしか感じない世界に戻るだけでしょう」
俺は答える。
「それはそうだけど」
何だろう?
月白はこの塔を登るのに協力してくれていたのに、この様子だとまるで俺が脱出するのを引き止めているみたいじゃないか。
「私は戻って欲しくない。だって……だって私は記憶を保ったまま、永遠にここに取り残されてしまうから」
そうか。
俺がこの塔から脱出して現実世界に戻れば、彼女の言う通り、彼女は永遠に取り残されたままなのだろう。
しかも、俺と会うまでは「ジャメヴ」なる現象によって、毎日の出来事をあたかも初めて体験するものだ、と錯覚させられていた。それによって彼女は延々と同じ時間を強制される苦痛を和らげてきた。
でも、今の彼女には「ジャメヴ」がないという。どういう理屈かは分からないが、俺と会うことによって「ジャメヴ」は解けたのだ。
ここで彼女も脱出する手立てがなければ、この世界が強制するルール「永劫回帰」なるものに絶望を与えられ続けるのだ。
……背筋がぞっとするレべルではない。
彼女の気持ちは痛いほど分かった。
もし仮にこの世界で1人ではなく、気の知れた誰かと2人と過ごすのならどうだろうか。
水や食べ物などなくても生きていける。経済的な心配をする必要がない。
ただ、影という存在に注意すればこの世界で過ごすだけだ。
外界から隔絶されている、という意味ではそれは聖書のアダムとイヴのエデンの如く、アーサー王伝説のアヴァロンの如く。
……いや地獄みたいに肉体的に延々と苦痛を与えられるわけではないとはいえ、ここ辺獄は天国とは程遠い存在であり、決して楽園ではない。
2人で一緒だとしても、この世界に取り残されることは大きな苦痛を感じるだろう。その時間が終わるという希望すら持てない。
……それでも1人で過ごすより比べ物にならないほど、遥かにマシなのだ。
だからこそ、次の彼女の言葉を発することは容易に予想出来た。
「ここは
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