第64話「上に乗って、堅くなって?」
第六十四話「上に乗って、堅くなって?」
廃校舎の四階から暗闇の外界へ落下した男がひとり……
ーーその瞬間
「あっ!」
「あーーあ」
「!ぼっ僕は何を……」
そしてーー
暴れ狂う悪魔の腕……
「ありがとう!どーどーくん、あと、この場を少しだけ任せるね!」
教室中央から駆けてきた
ーーヒュォッ!
左手にボロボロの魔剣を握った少女は、左右のプラチナブロンドを靡かせて闇の底に消えていく。
「く、クイーゼルさん……僕は”どーどー”じゃなくて
結局、元の木阿弥……プラチナブロンドが眩しい美少女の彼に対する認識はその程度で……
ドカァァァーーー!!
「くおっ!?」
そして、彼には焦がれるプラチナブロンドの美少女の言葉を訂正している暇は無いっ!
ゴロゴロと転がって、その一撃を躱した
ーー
ー
「……………」
「……ぅ……ん……?」
ーーし……んだのか?
ーーいや、俺は……生きてる?
ーーあの日……九年前のあの時から……生きているのかも怪しい存在だったけど……
「……くん」
「
ーーあ……あぁ……そうだ……生きてる……
「
この娘の……この少女に巻き込まれたせいで……おかげで……それを実感できた……
「もう!早く目覚めなさいっ!
俺の視界には心配そうに見下ろす二つの瞳……こんな
「…………」
俺は、あまり優しくない口調を浴びせる天使の声で目を覚ました。
「
「…………」
ーー土のにおいがする……
どうやら俺は今、草むらの上に寝っ転がっているらしい。
「
俺は草むらに葉っぱ
「おれ……生きてる……生きてるぞ?」
意識と感覚がイマイチ繋がらない俺は少しだけ混乱していた。
そして、興奮気味に忙しく自身の手足を確認する俺を、
「当たり前でしょ、
「”
自身の手足を確認して、指をにぎにぎしたり、膝をかくかく曲げる俺。
俺の
「だから
「……クーベルタン?どこから?」
その時、俺は
……なんだか未だ頭が”ぼぅっ”としているようだ
キョトンとした顔で尋ねる俺に、
「……」
ーーた、たしかに……そう言われてみれば、フィラシスの大騎士ジャンジャック・ド・クーベルタンのターゲットは
「……で、俺にどうしろと?
あるよな?……あったら良いなぁ……
…………なかったら殺……いや、胸を揉む!!
「……うん、やっと本題に入れるよ、あのね、
彼女は少し安堵の表情を浮かべると続ける。
ーーヒュン!ヒュオン!
そして左手の片手剣を二、三度振った。
ーーキン!
今まで通り、鈍い光と共に”その剣”の刀身は新たなものとなる……が……
「”五番”は駄目みたいだな……」
”
そして、果たしてその予測は的中し、”五番目”の剣は見事にボロボロの
「…………」
ーーヒュン!ヒュオン!
ーキン!
再び剣を振るう
「”六番”も駄目だ……」
続いて彼女の手元を確認した俺の指摘に……
ーーヒュン!ヒュオン!
ーキン!
ーーヒュン!ヒュオン!
ーキン!
「”七番”も”八番”も……」
現れるそのどれもが見るも無惨な状態の剣……
ーー
俺の脳裏に最悪の結果が浮かんだときだった。
「っ!」
「駄目だ……
そう言って上方を見上げる
視線の先は、校舎の上方……俺達が落ちてきた窓だ。
「くそっ!」
どうやら
ーーあいつら……無事だと良いが……
「
「…………へ?」
状況から、残してきた連中の心配をしていた俺に意味不明の事を言う
そして間抜けな声を漏らす俺。
彼女は……
ーーえっと……
暫し思考する俺……
ーー”わたしの上に覆い被さって!それで堅くなって”
「……………………」
真っ白になった。
「なっなんですとっ!!」
そして、少し間を置いてから、思わず大声を上げる!
「は、はやく!」
プラチナブロンドの美少女はさらに俺を急かす!?
ーーいや……はやくって……状況解ってるのか!?
因みに俺はサッパリだ!
月光の下、プリーツスカートが重力で地面の方に下がり、彼女の白い太ももの形を浮かび上がらせている。
そして、”
ーーゴクリ……
青白い月明かりに照らされた陶器のような肌と滑らかな至上の曲線……
「はやく!
「乗って?」
「そうよ、さっきから言ってるでしょう!それで堅く……」
「乗って、堅く?」
「…………」
「…………ぁ!」
そこまで言って初めて
「あぁっ!」
「ちっ!ちがうの!そんな意味じゃ!いえ、そんなっていうか!つまりエッチな意味じゃ無くて……」
「えっち?」
俺はなんというか、聞き返しながらも彼女の肢体から目が離せない。
「ちがーーう!そうじゃなくて!!……う、う……うわーーーん!」
「…………」
遂には起き上がって、魅惑的な肢体を隠すように
ーーもう暫く眺めていたい気もするが……
ーーいや、あんまり虐めるのも可愛そうだろう
「わかったよ」
俺は短く応え、起き上がった彼女の上半身をそっと草の上に倒す。
「…………ぁ」
朱に染めた頬のまま、為すがままに再び横たわる彼女。
「…………」
俺は、腕立て伏せのように両腕を突っ張って出来るだけ
「……うっ……」
朱に染まった顔のまま瞳をそらす
「で、どうすれば良い?作戦なんだろ?」
俺はそのままの体勢で聞く。
「ひゃっ!その……あの……耳元で……は、やめて……」
「ああ?……わ、悪かった、位置的にちょっとな……気をつける」
そう言いながら少し顔を離す俺だが、実は意図的だ。
ーーそれに、こんなチャンスはなかなか無いしな!役得だよ、役得……
「えっと……えっとね……”あれ”が近づいてきたら
「ああ!堅くなれってそう言うことか!」
ーーけど、また動けなくなるとはどういう……?
一部まだ疑問が残るが、おおよその合点はいったとばかりの俺の言葉に、俺の下の
ーーおぉぅ!可愛い!最高に可愛い!
恥じらいと羞恥に頬を染める美少女!
それをこんな間近で!俺はこの瞬間のために生まれてきたと言っても過言では無い!
「あの……
「!?ああ、わるい、ちょっと浸っていた」
またもや俺の思考はお留守になっていたようだ、俺の悪いクセだな……要反省だ!
「……?」
「悪くない策だ!俺の”
そうだ、相手は俺が動けないと思っているに違いない。
自身の攻撃が防がれることは無いと確信しているからこそ、躱されないように至近距離まで一気に、無防備に、突っ込んでくることだろう……
そこを狙ってヤツの、
「後の問題は剣が……」
ガッシャッーーーーン!
どうにかそこまで俺達が準備を整えたとき、上空で何らかの破壊音が響いたかと思うと……
バラララッッーー!
大量のガラス片が降り注いできたっ!!
「!ぐっ……うぅ……」
同時に、
再び重力に押しつぶされるように俺の
ーーくそっ!
ザシュッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
ーーい……痛ぇ……
両腕を突っ張り、なんとか俺の下の
俺はガラスの破片を背で受けて
グォォォォーーーーーーー!
「ちぃっ!」
休む暇無く、巨大な影が……他の落下物とは比較にならない巨大で、異形な物体が……獣のような咆哮をまき散らしながら飛来する!
ギャギャギャーーー!
ギャギャギャーーー!
ギャギャギャーーー!
ギャギャギャーーー!
巨大で”ドクンッ!ドクンッ!”と脈打つ気味の悪い”悪魔の四本腕”が、夜空を席巻する。
「マジかよ……」
この
と、まるで星無き空を行くが如し、上空でやりたい放題に暴れ廻る大蛇のような腕……
それらは本物の大蛇の様にのたうったかと思うと、一転今度は
ギィィーーン!
ギィィーーン!
ギィィーーン!
ギィィーーン!
ーーがはぁぁーー!
だが俺は……耐える……ひたすら……
「なっなにぃぃぃぃぃぃぃーーーーー!!」
勢いよく天から振り立つ四本の凶悪な楔!
だが!それらを全て弾き返す俺の”
「いけぇぇ!
叫ぶ俺の胸の中で、
ーーダッ!
「ぬぅっ!?」
攻撃の要たる悪魔の腕を四本ともあらぬ方向に弾かれ、磔になった聖人の様な無防備を晒して落下してくる異形の
今の
ーートンッ!
片足で地を蹴ったプラチナブロンドの美少女は、月の煌めく夜空に軽やかに舞い上がる。
ヒュン!ヒュオン!
キン!
上昇する過程の少女の左手で、魔剣の刀身が鈍く輝き!
そこから、刃こぼれ一つ無い綺麗な九番目の
ーー使えるっ!”九番”は使えるぞ!
「
ギャギャギャーーー!
ギャギャギャーーー!
ギャギャギャーーー!
ギャギャギャーーー!
だがその時ーー
ーーっ!
ガシィィ!
ドカァァーー!
同時に少女の華奢な
「くっ!
ーザシュゥ!ーーズバァァ!ーードシュッ!ーーバシュッ!ーーズシャッ!ーーザシッ!ーーシュバッ!ーードスッ!ーーグシャッ!ーーズバシャッ!ーーズシュゥゥゥー!
瞬時に、同時に、瞬く間に、四方八方!縦横無尽!矢鱈滅多ら!網の目の如く!
「がっ!はぁぁぁっ!!ぐはぁぁっ!」
その数多の
ーーそうだ……”九番”は
幾つものあるべき、いや、遭ったかもしれない可能性の
何本もの同じ剣を、幾つもの同じ剣撃を、数多の唯一の世界を重ね合わせて一瞬だけ同時刻、同じ場所に存在させる可能性の剣……
ーー今度こそ!今度こそ終わりに……この”
ブシャァァァァァーーーー!
「ぎゃっぁはぁぁぁぁぁーーーーー」
夜闇に踊っていた四本の悪魔の腕は根元から破壊され、続いて自前の両腕と両足を切断、最後に信じられないと驚愕の表情を浮かべた頭が夜空に舞った。
ーーカシャァァーーン!
最後にその男が握っていた、例の金属で出来たコの字型の”
ーーうごく!?動くぞっ!
その瞬間、俺の
「
ーーボタッ!
ーードサッ!
ーーバタッ!
俺は天空から降り注ぐ、肉片と血の雨を躱しながら落下する少女を追った。
攻撃の瞬間、
彼女の華奢な
ーーくっ……そこか……!!
月明かりを頼りに、ひらひらと舞い落ちる一輪の月華を求めて走る俺。
ーーがしぃぃ!
ずざざぁぁぁーー!
俺の腕にズッシリと重みが掛かり、俺はそれを大事に抱えたまま、その勢いのまま、草の上を滑って転けていた。
「
そして草の上に尻餅をついたまま、大事に抱えた少女に……
俺は自分の腕の中でぐったりと力なくその身を横たえる少女に必死に声をかけていた。
第六十四話「上に乗って、堅くなって?」END
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