第45話「悪趣味《キッチュ》も良いとこよ?」
第四十五話「
「
「ああ、俺には何のことやらだが……
「……」
俺があのフィラシス人から聞いた単語をなにやら神妙な顔で受け止める
あれから、ホテルの超豪華な一流レストランで食事を済ませた俺達は、これまた超豪華なスウィートのソファーに腰掛け、お互いの情報交換と今後の対策を練っていた。
「フィラシス公国の
ーーなるほど……なら、後の単語は簡単に推測できるな……
「じゃあ、
「なんか、見えない武器を操っていたみたいだけど、あれは魔剣の
「……そうね、魔剣……魔装具と言った方が良いかしら、でもフィラシス公王家に代々伝わるそれらの魔装具は国宝級の武具で、
「王家に代々伝わる……ね」
えらい大層な代物が出て来たな、と俺は呆れ気味に鼻息をならす。
「
俺の態度を不真面目だと感じたのか、
「魔剣の
それは解るし、さらに俺の心情を気遣って該当の人物、そこら辺を
ーー”あのひと”……つまり”
「確かに今その事実を知るのは、俺本人と
俺は
「…………」
「…………」
少し驚いた、意外だという色合いを見せる少女の
「……あと、
「……」
ただ、俺はその補足には苦笑いする。
存在自体が意味不明だし、そもそも自称”
「面倒くさいなぁ……まあ、取りあえずそっちは良いだろ、今はあのフィラシス人が何を目的に接触してきたかだろ?」
だから俺は、その件には当然の如くそう応える。
「また貴方は……それに自分のことをそんな雑に扱って……」
ーー自分のこと……
そうだ……
「ほんとに……もぅ……」
あなたの命に関わる事なのよ!と言わんばかりに身を乗り出してくる少女。
俺達が対峙して座る間にある、小さい大理石のテーブルを飛び越して俺の顔の直ぐ傍まで近づく美少女の端正な顔。
ーーおぉ!ちかいっ!ちかいって!
まつげの長さまでわかるほどの距離に迫った美少女のご尊顔に、俺はドギマギと心臓を跳ねさせていた。
「いや、た、多分バレてないって俺の事は……フィラシスには……」
「……ほんとに?」
そのままの距離で上目遣いに俺を覗う翠玉石の瞳と若い桃の花のような甘酸っぱい香りをほのかに漂わせる白い首筋……
ーーこいつ……わざとやってるんじゃ無いだろうな……
俺にそう疑わせるほど、彼女の行動は大胆で……無防備だった。
「
「そ、それより!ジャンジャンタベールがだな……」
心臓を跳ねさせつつも、俺は話を強引に元に戻す。
舐めるなよ!お、俺だって!……たまに彼女がとる、この距離感……わざとなのか天然なのか、それは解らないが……それに多少なりとも耐性がついてるんだ……よ。
「それを言うなら”ジャンジャック・ド・クーベルタン”でしょ?」
ーーいや、すみません!全然冷静じゃ無いし耐性なんてついてませんでしたぁっ!
俺は心の中で、少しばかり見栄を張っていた俺自身に、誰というでも無くとにかく謝罪させていた。
「だから……
ーー”ぼー”としている半分以上はお前のせいだろうが!
という発言を心に仕舞った俺は、仕切り直して
「詳しいな、
表面上は冷静に、なんでも無い様に問いかける。
ーーそうだ、確かに
「知り合い?……やめてよ、あんな”人でなし集団”、
「
ーー聞き慣れない言葉だ……って当たり前か、ファンデンベルグ語だしなぁ
「わたしの国ではそう呼ばれてるわ、卑劣漢の代名詞、手段を選ばない方法で強者を倒し、容赦の無い無慈悲な方法で弱者を
ーーそれは……確かにえらい非道そうな奴らだな……
しかし
「えっと……じゃあ?」
今日の相手の事を識っているような
「
ーー”
そしてそれは、俺の記憶にも一致する。
ーー見えない槍……確かにアレは何か強力な武器に貫かれたような感覚だった……
「しかし……あの射程は槍ではありえないだろう……寧ろ弓とかの飛び道具というか……」
「ううん……槍よ……誰も確かめた者はいないらしいけど、そう言われてる……フィラシスで、不可視で射程が無限の槍使いっていったら……」
「ジャンジャンタベ……ジャンジャック・ド・クーベルタンって男なわけか」
ーーなるほど……納得だ
けど、人物は俺に名乗った通りだとしても……”
ーー実際喰らった俺が感じるのだから自信はあるのだけど……なら、なぜ槍だと言い張っているんだ?……奴……いやフィラシス公国は……
見えない無限の射程を誇る槍ってだけでかなり驚異的な兵器だろうに、その真実を隠蔽するのは、まだ他に何か理由が……隠し球があるってことだろう。
俺は多少の疑問を抱きながらも、今は推測するとしても材料が少なすぎるし、どうしようも無い事から、それは一旦置いておく事にした。
「で、ジャンジャック・ド・クーベルタンってのはどんな男なんだ?」
「さあ?、いくつかの噂だけしか知らないけど……どうせ碌でもない男でしょうね」
「…………」
なんだかな……
そして、その二国は現在休戦中という事らしいが、それも形の上だけだろう……
国家として仇敵同士……軍籍の
「そもそもね、
黙り込んでいた俺に、彼女は急に雄弁に語り出していた。
「ねぇ?聞いてる?
ーーな、なにか……プラチナブロンドの美少女は色々とたまっているご様子だ……
「あ、ああ……」
それだけ返す俺に彼女はその後もフィラシスの悪評を並べていく。
「あとね……でね……それから……」
「…………」
「で……という訳なのよ……ねぇ、
フィラシスの話をしているのに、所々ファンデンベルグ語が混ざってややこしいったら無いが……今それを指摘するのはあまりにも命知らずだろう。
「キッチュってたしか……」
「悪趣味!紛い物!下品な物!最低、最悪!フィラシス人のことよ!」
ーーうわぁー完全に言い切ったよ……最後は絶対、差別だよなぁ……
「
呆気にとられている俺の顔をのぞき込む
「いや、その通り!フィラシスってのは昔からそうなんだよなぁ、キッチュだよきっちゅ!」
さしたる根拠も無く、目の前の美少女に迎合する、ホントに立場の弱い俺。
そしてそれを見て、上機嫌でうんうんと頷く
ーーまぁいい、本題はここからだ
俺は表情を整え、改めて真剣に問いかけた。
「
「しらなーい」
ーーは?
美少女は魅力的な
「……え……と」
ーーも、もしかして……なんの根拠も無い相手にあんな罵詈雑言を?
「……」
マジマジと見つめる俺に無邪気な笑顔を返すプラチナブロンドの美少女。
ーーマジかよ……
俺はこの時、この少女だけは敵に回してはいけないと心に誓った。
暫く変な空気の中見つめ合った二人だが……
「これは憶測だけど……多分ね、狙いはわたしだと思うの、わたしが”聖剣”を所持していない事をどこかで知って、今のうちにって……だいたいそんな感じだと思う」
「襲われたの俺だけだけど?」
「それも多分、わたしと一緒にいるから……ファンデンベルグが送った日本での支援者だと勘違いされたんじゃないかな?……それで」
「……なるほど……な、まずは簡単に仕留められる方からって事か……」
ファンデンベルグ帝国とフィラシス公国の関係は、どうやら俺が思っているよりもずっと切迫した状態らしい。
世間一般では
「ごめんね、
状況を整理するために少し黙り込んだ俺に、少女は申し訳なさそうに言った。
ーーまぁ……それは今更だしなぁ……俺自身、自ら首を突っ込んでいる節もあるし……
「いや、そんなことより……そいつ、”聖剣”が無いのを良い事に、
俺はそんな彼女に俺なりの主張をする。
俺を気遣う彼女に対しての言葉ではあるが、もちろん紛れもない俺の本心でもある。
「
「いや、俺の責任だ!それに俺も一度殺されかかってるしな、無関係じゃない、あと……」
あと……
そう……あと……俺は
彼女が戦うには……少なくとも今の彼女には俺の剣が必要なのは明白だから……
「……ごめんね、ほんと……本来だったら絶対に巻き込んじゃ駄目なのに……」
彼女自身それを熟知しているのだろう、申し訳なさそうにだが、俺の言葉を受け入れる。
「大丈夫だって、俺の
俺は出来るだけ明るくそう答えていた。
「
潤んだ
その少女に優しく微笑み返す俺。
……いま、なんか映画の主人公みたいで格好良くない?俺。
ヒロインに信頼され、それがそのうち愛情に変わって……
それで……お……おぉっ!
「胸はだめだからね!」
「…………」
……いや、愛情以前に信頼にもなっていなかった。
「は……はは」
俺はガックリと項垂れると、乾いた笑い声を漏らして渋々頷いたのだった。
第四十五話「
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