第44話「泊まっていく?」
第四十四話「泊まっていく?」
「
俺は立ち上がって叫んでいた!
茂みの中から……なけなしの勇気を振り絞って……
「……」
そんな俺を一瞥だけした異国人は、構わずゆっくりと
ーーくっ、……完全にターゲットを変えたのか!?
そうしている間にも異国人……自称、フィラシス公国所属、
プールサイドでキョロキョロと俺を探していたプラチナブロンドの美少女は叫んで立ち上がった俺に気づいて場違いにもニッコリ微笑んで手を振る。
ーーちっ!
俺に選択肢は無かった!
「
薄いブルーのパーカー風ラッシュガードを羽織った美少女。
太もも丈まであるそれから、眩しい白い水着とさらに透き通るような白い太ももがチラリと覗くなんとも眩しいプラチナブロンドの美少女……
俺は
ーー俺が行ったところでどうなるものでもないのは、さっき受けた攻撃で十分承知している……
けど、いま!丸腰で無防備な
「……貴方?」
殆ど重なる距離……すれ違いざまに、
「…………」
俺の位置からも……一瞬で”ピリリ”と空気が張り詰めるのが解る。
「……ここで事を構えるつもりは無い……ファンデンベルグの”
「……!」
男の碧眼は油断の無い光を発しながらも、落ち着いた口調でそう言い残してそのまま遠ざかっていった。
「……」
暫し、その異国人の後ろ姿を見送るプラチナブロンドの美少女。
「…………はぁ」
安堵と拍子抜けで肺の中の空気を吐き出した俺は、踏み出した格好のままその場で固まっていた。
ーー……な、なんとか……助かったのか?
少しして、此方に歩いてくる
ーー必要以上の騒ぎは予定外なのか?
何事も無く済んだことに胸をなで下ろす俺だが、疑問も残る。
「
「
俺は
「……
腑に落ちない表情で俺を見る美少女。
何となく俺は、
「おおおっ!滅茶苦茶、可愛いじゃないか!その水着!」
俺は大きなジェスチャーで直ぐ近くにまで来ていた彼女に歩み寄った。
多少わざとらしいかもしれないが、正直な感想でもある。
そうっ!こんな眩しすぎる!周囲どころかプール中の男の視線を集める美少女の水着姿を褒めない訳がない!
白いワンピース型の水着は、清楚でありながら艶っぽくもあり、美しいボディラインを奥ゆかしくも薄いブルーのパーカー風ラッシュガードを羽織って遮るところはもどかしくもあるが、それ故に余計にそそるモノもある……
ーーものすごぉぉぉぉく解ってるじゃないか!
「百点満点だ!スウィーートエンジェル!」
俺は思わず満面の笑顔と共にそう言うと親指をグッと差し出していた。
「…………なんで、葉っぱまみれなの?」
しかし、当のプラチナブロンドの美少女からは、なんとも冷静な質問が返ってくる。
「…………」
「それは……夏がそうさせるからだ」
俺は親指はそのままに、ガックリと項垂れてそう答えた。
「そう……なんだ?夏も大変だね……」
「…………」
そう言った後、
「あと……なんか、わざとらしい大げさな褒め方なんだけど?」
夏の日差しに輝くプラチナブロンドの変形ツインテール……その合間に見える白いうなじが……僅かに朱を帯びていた。
「……」
ーーこれだよ!くぅぅ!キュンキュンさせやがるぜ!さすが伯爵令嬢様!
俺は意味不明のハイテンションで訳の分からない納得の仕方をして、ニヤリと笑った。
「それは夏……いや、
そう……
ーーー
ーー
ーーザヴゥゥゥゥゥゥーーーーン!!
「わぁぁ--!!」
「きゃぁぁーー!!」
黄色い悲鳴が
「いやー思ったより凄かったな、あのウォータースライダー、どうだ?もう一回?」
「そうだね、でも、もうちょっとスピード出るともっと面白いのに」
「なんだ?
「それはヤダ、なんだか後ろから変なとこ触られそうだから」
そして、凄く失礼な事をしれっと言う。
「おいおい、俺を見くびるなよ、俺は遊ぶときは遊ぶ男だ!」
「ホントに?」
うんうんと自信満々に頷く俺をじっと見つめる
そしておもむろに、プラチナブロンドを靡かせてクルリと白い背を向けて見せた。
「…………」
ーーなんだ?この白くて、良い香りがして、柔らかそうな生き物は……
ーーってか……濡れたうなじが滅茶苦茶色っぽい……
俺は暫しそれを見つめて目の保養を十分に済ませる。
「や、やっぱり…………やめとこう」
そして彼女の華奢な肩に両手を置いてから、ぐいっと引き離して前言撤回していた。
「遊ぶときは遊ぶ男じゃなかったの?」
俺を試しておいて……無邪気に聞いてくる茶目っ気たっぷりの美少女。
「遊ぶときは遊ぶが……俺は”触るときは触る”男でもある!」
「…………
断言する俺を、少女は呆れた
「それほどでも……」
「褒めてない!」
結局、俺達は夕暮れまで散々プールで遊び、かなりの疲労状態でラウンジに戻って来ていた。
「ふぅーー」
俺は満足した息を吐き出す。
「はぁぁ」
やけて火照った肌にヒンヤリとした室内の空調が心地よい。
「……うう、軽いめまいが……」
そして俺は眉間の辺りを親指で押さえながらラウンジのソファーに腰掛けた。
「それは、あれだけはしゃいでたら疲れもするわよ……ほんとに、小学生ですか?キミは?」
呆れながらも、自販機で買ったばかりの冷たいスポーツドリンクを俺の頬にぐいぐい押しつけてくる
「いて、いて、ひゃっこい、……って、やめろって」
「ふふ、せっかく買ってきてあげたんだから、ちゃんと堪能しなさい!」
ーーグイグイ!
「いふぁ……ドリンフは……のふもので……」
ーーグイグイ!
「だから!ドリンクは飲み物で、頬にぐいぐいする代物ではなーーいっ!」
俺はそれを奪うように受け取ってからプルタップを開封し、一気に咽に流し込む。
「うわーーすごいすごい!」
「ふふ、恐れ入ったか……本来、缶ジュースとはこういった飲み方が正しい……」
ーーいやウソです、ごめんなさい、正しくないです!
*一気飲みは非常に危険なので決して真似はしないで下さい、この男の一連の行動は、専門家と医師による立ち会いのもと、十分な検証の結果……
ーーそれもウソです、重ね重ねすみません!
「ふっふっふっ!……ふっふっ……うーーーん……」
勝ち誇った俺だったが、そのままフラリと二、三歩、
「
流石に驚いた
「大丈夫だって、ちょっと昨日、徹夜気味だったのを忘れててな……」
「……それって!?」
はしゃぎすぎて少し恥ずかしくて目をそらす俺の言葉に、彼女の
ーーああ、コレは
ーー
咄嗟に俺はそう考え、改めて言い直そうとする。
「ああ、気にするな、俺が勝手に……」
「あの
「って、なんでやねん!剣だろ!おまえに渡した剣!どう考えてもそれだろうが!」
「あ!……えっと……」
途端に”しまった”と言うような顔をするプラチナブロンドの少女。
ーーというか、ボケで無くて本気だったのか……それはそれで結構非道いな……
「ご、ごめんね……いつも、わたしのために……」
「い、いや、今のは売り言葉に買い言葉だ、気にするな、半ば俺が好きでやってることだから……」
二重の意味で謝罪される俺と恐縮する
「……」
「……」
「じゃ、じゃあ俺は帰るよ……そろそろ晩飯だしな」
会話が途切れたのをきっかけに、俺はそう言って背を向けた。
この微妙な空気から退散したいと言うのもあるが、実際ホントにそろそろ帰って寝た方が良いだろう……俺は昨日から一睡もしていないのだから。
「あの、あのね……
「?」
全然気にしていないアピールをしつつその場を去ろうとした俺を、引き留める少女の声。
「部屋!……その、宿泊券、ペアだから……泊まっていかない……かな?」
モジモジと……紅葉する目の前の美少女の白い肌……
「…………え、えーと?」
ーーなんだ?泊まってって、誰が?俺が?
ーーどこに?このホテルに……
ーー誰と?……
少し……いや、かなり混乱気味の俺の視線は俯いたままの目の前の少女に釘付けだ。
「あ、あのね、今日一緒に来る予定だった、あ、
「いや、だからって俺は……」
「実は話したいことがあるの……ちょっと気になることが……それに昼のプールでのフィラシス人……
「……」
しっかりと勘づかれていたのか……なら……そう言われると俺の立場は弱い。
「誤魔化せていたわけじゃなかったか……ああ……悪かった……」
俺は心の中でもう一度考えを整理する。
昼間のフィラシスの男は放置するには危険すぎるだろう……どっちにしても対策は必要だ。
それに元を正せば、今日持ってきた俺の造った剣の説明も近いうちにしようと思っていたところだ。
なにより、昼間プールでその話に触れなかったのは、現時点で丸腰の
正直……せっかくの
少なからず俺は、そんな
「もちろん、今夜は
難しい顔で考え込む俺に、プラチナブロンドの美少女は優しく諭すように提案する。
「…………そう……だな」
正直、俺がここに泊まらなくても、明日このホテルにもう一度訪れれば良いだけだ。
けど、それでも……それに乗じる訳では無いけど……なんだか俺はそうしたいと思った。
彼女が恥ずかしいのを必死で堪えて、訴えているのに……
俺自身、そうしたいと思っているのに……
不思議と俺も、いつもの様な
「あの……」
もう何も言葉が思いつかないのだろう……困って、ただ、怖ず怖ずと俺の顔色を覗う少女。
ーーちっ!
そうだ、いつだって汚れ役は
「うぉぉぉーーー」
「えっ?きゃっ!」
いきなり目の前で唸り声を上げる奇異な男に、少女は軽く悲鳴を上げて半歩後ずさった。
「スウィートだとぉぉ!ロイヤルベイホテル、三つ星ホテルのスウィートに泊まれるなんて、どんなご褒美だよぉぉ!」
「あ、あの……
「そうと決まれば
「え?えっと……え?」
俺は瞳を白黒させる
「あの、
「ふふふ、
「……」
いや、
「お客様、申し訳ありません、他のお客様もおられますので……」
そのやり取りが、俺の声が若干大きすぎたのか、歩き出した俺達に、近くにいたホテルマンからやんわりと注意が入った。
ーーちょっとテンションが高すぎたか……
すれ違いざま、俺は素直にそのホテルマンにペコリと頭を下げ……!?
「……」
「……」
「は、はげた?」
「……貴様は
「……
俺の驚いた声……ホテルマンの怒りに染まる声……そして、そんな二人を交互に見る、キョトンとした
「い……」
俺の張り付いた表情から声が漏れる。
「い?」
「い?」
「今は逃げるぞーーー!」
「え?え?えーーーー!」
握った白い手を引っ張り気味に俺はダッシュする!
「ま、まて
ーーどうもするかっ!てか、どうかできるなら教えてくれ!
すっかり
ーー兎に角走った!
それはとても徹夜で疲れきった……先ほどまでの男と同一人物とは思えぬほどに……
ーー走り去った!
ーーっっ!
そして次第に
「…………」
その間も、不思議な沈黙で”じっ”と握られた自身の手を見つめるプラチナブロンドの美少女。
「……
俺の後ろで手を引かれる少女がボソリと呟いていた。
ーーそれは俺があの気まずい状況を肩代わりした事への……
俺は……もちろん聞こえないふりで走り続ける。
「取りあえず
「両替?」
握られた手を見ていた優しげな瞳が、キョトンと変貌して俺の顔に移動する。
「スウィートのテレビはきっと見たことも無いくらいデッカいだろうから、視聴するのに一回、百円じゃ効かないぞ!……俺の予測では、多分五百円玉はいるだろうからな!」
我ながら気のつく男だと、後ろの少女にどや顔の笑みを見せる俺。
「……
「は?
余裕の笑みで相手の事を気遣ったつもりで……そして忠告も聞かずにホテル内の店で、フロントで、両替をお願いする俺。
ーーその後……
無事スウィートに入った俺達……いや、俺は……
六十五インチ、最新ハチケーテレビの前で、大量の五百円玉を抱えて途方に暮れることになるのだった。
第四十四話「泊まっていく?」END
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