第28話「取るに足らない愚物だよ?」
第二十八話「取るに足らない愚物だよ?」
あの
「うむ、そもそも
ーーー
ーー
ー
彼女の話を要約するとこうだった。
千年ほど前、京の都に生まれた、えっと……ここでは便宜上、
その後、女ながらに圧倒的な陰陽道の才で宮廷内、時の政府の中枢へと
時代柄、女であったことも相まって、世の人々の恐れと嫉妬を受けて失脚……結果、左遷され隠遁生活を送ることになる。
その後は元々の陰陽師としての研鑽に勤めていたが、術を極める過程で”ある秘術”を取得し、事実上の不死を手に入れたらしい。
ーーで、近年、
ーーなんか……思った以上に壮大な話だ……
彼女の伝説の一つ、それが”
この話は実際、創作部分が大部分であるものの、後世までの知名度と人々の印象が特に強いため、現在の彼女はその姿と能力を保っているらしい。
ーー現在の彼女……つまり、彼女の秘術、”不死”とは肉体を捨てて精神体となること。
そして、その存在を維持するために、ある程度以上の人々の”認識”が必要だという事だ。
ーー”世の如何なるモノも、その存在は認識されてこそ、その存在たり得る”
とでも解釈すればいいのだろうか。
正直この概念は俺の思考するところとも一致する。
俺も
この点は同じ道の先達……ある意味、求道者としての大先輩として、実証された例を目の当たりに出来るのは、ひとりの
で、その他の事はというと……
「…………」
まぁ、色々と突っ込みどころは多いとは思うが、事実そういう状態で彼女が存在しているのだから、しょうがない。
「じゃあ、
俺は簡単に
そもそも彼女の昔話の真偽なんて俺には関係無いし、俺が知りたいのは、むしろここから先の話だ。
「それは事実じゃ、しかしの、子を成すほどの自己存在を確立させるためには、
「…………」
俺は沈黙する。
「……ほほっ、恐らくその後は
俺の考え通り……
そして、その祖母を誇りに育った
ーー
彼ら、彼女らが自らの力で生み出して戦うという神器。
それは”聖剣の召喚”とも呼ばれるらしいが……
そもそも……召喚?……それってどこから?
「…………」
答えは簡単、自身の内からだ。
自身の優れた潜在能力を形にし、具現化させる。
「…………ちっ」
ーー
ーー極めて悪質で、最悪な力
それを考える俺の口元は、きっと歪んでいただろう。
世界で最も力のある存在が、その力を歯止め無く、余すこと無く、際限なく、無力でちっぽけな世界に解き放つ……
それはある意味、悪夢と言い換えても良いだろう。
「…………」
ーー……俺はその”聖剣”なる不遜な存在に一家言がある。
ーー見たことも無い存在に何故?
ーー俺の言い様はまるで聖剣の存在を疎ましく思っているようだ?
ーーその通りだ、俺は”聖剣”なる存在を嫌悪している。
「……
俺は目の前のヨーコを睨みながら予測した考えを披露する。
「うむ……死……過去に霧散しておった
ヨーコという桁外れの人物、その下地があったとはいえ、不完全とはいえ……既に消え去った死人をも蘇らせ、自らの剣の糧にする……
その”グリュヒサイト”なる論外の存在は……”聖剣”のその理不尽な破壊力たるや、想像に難くない。
「それが……なんで」
俺の声は震えていた。
多分、嫌悪から来る感情の昂ぶりがそうさせていたのだろう。
正直、”聖剣”という
しかし、俺はそれを尋ねる。
「
「……」
そう、簡単だ、実は想像することは難しくない……
でも、だったら……彼女は……
「
「……」
そうだ……そこまでは予測出来た事だ、だから、ヨーコはここに存在する。
”聖剣グリュヒサイト”としてでは無く、
「けど、
「自分に都合の悪い事実を消し去る……自身の記憶の改ざんなど、よくある事では無いのかえ?」
「!」
やはり……最悪だ……
彼女の身に、それを手放すほどのトラウマが降りかかりその記憶を封印した……
彼女の今の目的、”聖剣”を再び取り戻すこと、それはそれを掘り起こすことであり、彼女にとってそれが良い事の訳が無い。
もともと”聖剣”絡み、この俺にとっては……関わりたくない案件のダントツ一位だったが……これは……ここに来てこれは……
「……………………ふぅ」
俺は大きく息を吐いて天を……ほこり臭いボロい天井を仰いでいた。
ーーそもそも、見つかるわけがないんだよ……
ーー自身が切り離したモノを……捨てたモノを……
ーー他に求めても、見つかるわけがないんだ……
「…………」
黙り込む俺をじっと観察するような瞳で見るヨーコ。
彼女はその持ち前の異能で俺の思考……思い出したくも無い、惨めな負け犬の過去さえもお見通しなのだろうか?
「……
「……」
しかし、ヨーコが口にしたのはやはり
俺はそのまま下を向き、首を横に振る。
「俺が関わるような問題じゃ無い……それは、もう既に俺の管轄外だ」
ーー…………
古びた店舗内を思い沈黙が支配していた。
「そうかえ……なら、話はここまでじゃな……」
ヨーコはどういった感情かも解らない瞳で……それだけ口にする。
「ははっ、相変わらず卑屈で卑怯だね、
そこまで
「…………」
「
「……」
俺は黒頭巾の罵倒とも、侮蔑ともとれる……いや、そうとしかとれない言葉を背に……
言葉の主のボロイ店を後にしていた。
ーーー
ーー
「随分と辛辣じゃな……傍観者よ」
「そうかい?
「ふふっ……」
あきれ果てた
「?」
「傍観者たる貴様が、随分と肩入れするものじゃな、
”語る価値も無い”、
「……」
黒頭巾はその指摘にも、それが?と言うような雰囲気だ。
「まぁ、それでも
それを認識しつつも、ヨーコは意地悪く、妖艶な紅い唇の端を上げていた。
「……」
ーーそして
”傍観者”、
第二十八話「取るに足らない愚物だよ?」END
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