第7話「剣の無い英雄?」

 第七話「剣の無い英雄?」


 「……わかった、そっちの方はおいおい話し合いましょう」


 「っておいおいかよ!」


 突然押しかけて、終始自分のペースで話を進めるプラチナブロンドが眩しい美少女は、そう言いながらニッコリ微笑んだ。


 「このわたしのサポートが出来るなんて光栄なことだと……」


 「思わない!」


 「!」


 そして、俺はスッパリ断定してやる。


 可愛いからって甘やかしたらトコトンつけあがるからな、俺は意外とこういうところはきっちりしているんだ!


 「じゃあどうすれば……」


 美少女の翠玉石エメラルドの瞳が少し不安げに揺れていた。


 ーーうっ……


 「えっと……あれだ、武具提供の方は報酬しだいで引き受けるけど、もう一方はノーだ、前にも言っただろ、そっちには触れられたくない」


 とはいうものの、その瞳をされると正直弱い……ってか、別に俺が軟弱だからじゃ無いぞっ!お、男なら誰でもそうだろ?


 「……わかった……今のところはそれで我慢するわ」


 ーー今のところ……ね


 なんだかあきらめが悪い少女の悲しげな顔を見て少し胸が痛くなるが、こっちもこれが出来る最大の譲歩だ。


 「だったら……」


 プラチナブロンドの少女は少し躊躇いながら、こちらをチラチラと覗い、”ある”言葉を口にしようとする。


 「だったら話を聞く必要があるな、どんな秘密があるんだ英雄級ロワクラスのお嬢様には?」


 相手の言葉を遮って俺は確認した。


 言いにくそうだったので俺から切り出してやったってわけだ。

 自分から”事情”を話そうとするところとか、なかなか真摯な態度だし、それくらいの度量は俺にだって会っても良いだろう。


 「!貴方……何か気づいて……ていうか、知っていたの?わたしの事」


 「まあね、それによく考えたらこの間の俺の剣の不甲斐なさも不自然だし、こうやって枸橘からたち女学院に通う、外国の貴族のお嬢様で、容姿端麗、成績優秀なクウォーター美少女様が俺如きの住処にわざわざ足を運んで下さるってのは、どう考えても怪奇現象並みにありえないからな」


 俺は昨日知ったばかりの情報を、さも知っていて当然のように答えていた。


 「貴方に一目惚れって事もあると考えないの?」


 「……」


 「……」


 「ごっごめんなさい!」


 彼女の軽口に対する俺の反応を見て、彼女、羽咲うさぎは慌てて謝っていた。


 「いやいや、失礼だろ!そっちの方が失礼だから!」


 俺の指摘に、あははと苦笑いを返すプラチナブロンド。


 「……まあ、それはいい……で、世界に八人しかいないという英雄級ロワクラスのお姫様は何で丸腰なんだ?」


 羽咲うさぎ・ヨーコ・クイーゼルの苦笑いは、そのまま趣旨の違う同種のものに変わっていた。


 「やっぱりその話題になるのね……」


 「そりゃそうだろ、戦士ソルデア系の最高峰である英雄級ロワクラスの八人が他の人間と決定的に違うのは”聖剣”の存在だろう。それを所持していないって事は、気になって当たり前……!」


 そこまで言いかけて、俺はその先の言葉を飲み込んでいた。

 羽咲うさぎの表情が俺にそうさせたのだ。


 やや俯き加減で曇る表情、美しい翠玉石エメラルドの瞳が悲しげに揺れているように見える。


 「いや……言いたくなければ別に」


 慌ててそう言い直す俺。


 ”聖剣”とは、文字通り最高、最強の能力を秘めた剣の事だ。


 全ての能力者がその力を発揮するために必要な武具、それは職人フォルジュ系の能力者である武具職人アルムスフォルジュが製造し、供給している。


 しかし、戦士ソルデア系の最高峰である英雄級ロワクラスの八人だけは例外だ。

 ”聖剣”と呼ばれる最強の武器を召喚し、それを駆使して想像を凌駕する圧倒的な力を発揮するというのだ。


 ただし”聖剣”の行使には多量の能力を消費するため、普段は他の能力者と同様に武具職人アルムスフォルジュが製造した武具を使用する場合が殆どではある。


 ーーとは言っても……先日のあの状況で”聖剣”を召喚しないのは……な、それに通常の武具も所持していないみたいだったし……


 俺の疑問はもっともだと言えるものだった。


 「大丈夫、ちゃんと説明するわ……協力してもらうわけだし」


 羽咲うさぎはそう言って微笑んだ。

 出会ってから今までで、一番ぎこちない笑顔だ。


 「まず最初に、わたしの”聖剣”……グリュヒサイトは、今は召喚できないの」


 「今は?」


 「ええ、今は……二年ほど前までは出来ていたのだけど……それからは」


 ”聖剣”が召喚できない英雄級ロワクラス?そんなのがあり得るのか?

 俺の納得行かない顔を横目に彼女は続ける。


 「理由は聞いても無駄よ、わたしも……いいえ誰にも解らない事らしいから」


 この間の状況下でもそれをしなかったことからウソだとは思えない。

 何より今の俺の情報量では、そう言われてしまえば納得するしか無い。


 「俺の剣が……なんていうか……」


 俺は質問を変えるが、何となく言いよどむ。

 自身の作品が不出来なだけだったのではないかといまいち自信に欠けるからだ。


 「貴方の剣が一振りでああなったのは貴方のせいではないわ……わたしが通常の剣を振るうと何故だかああなってしまうの……いいえ、今までは一振りどころか用を成すことさえ出来ないのが普通だったから、寧ろ貴方の剣は別格と言えるくらいで……」


 なるほど、そうか、だから彼女は俺の処に……


 「もしかしたら羽咲うさぎ、お前のポテンシャルはとんでもなく高いのかもな……それで通常の武器は耐えきれない……」


 そう分析しながらも、俺は悪い気はしていなかった……いや、どちらかというと多少調子に乗っていたのかも知れない。

 

 誰の武具でも駄目だった、どんな武具職人アルムスフォルジュが製造した剣も用を成さなかった……


 俺の剣を除いては……


 「うん……そうかも……ね」


 一方、ポテンシャルが高いと褒められても表情の暗い少女。


 その時俺は、自身が調子に乗っていて気づいていなかった。

 彼女が今まで味わってきた不便さに。


 英雄級ロワクラスという立場にありながら”聖剣”を失い、りとて通常の武具も扱えず、ろくに戦うことも出来ない悔しさに。


 「状況は大体解った、それで、俺に剣を作れって?」


 「ええ、だけど……」


 彼女の言いたいこと、”だけど……”の先は解る。


 いくらましだからといっても一振りで壊れる剣など、用を成しているとは言えない。

 いわば、一発しか弾の入っていない銃で戦場に赴くようなものだ。


 「…………」


 「そうだな、俺にも武具職人アルムスフォルジュとしてのプライドがある、お前に応えられるような剣を作るのは願ったりだ……そうだな、少し時間を……」


 「……ごめんね、あまり……それは無いみたい」


 「?」


 ーーどういうことだ?


 「あの……ね、また……巻き込んじゃったみたい」


 彼女の申し訳なさそうな言葉を聞いたとき、何故だか俺の背中の辺りがゾクリとしていた。


第七話「剣の無い英雄?」END

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