第3話「お前の……は手に負えない?」
第三話「お前の……は手に負えない?」
ーーカラーンカラーン!
翌日の学校……それも終了して、晴れて自由の身の上だ。
俺は平凡な学生だ。
いや、つい数年前までは周囲に影響力の無い、至って普通の……いや、ちょっぴりだけ平均以下の学生だった。
その俺が、世間の羨望の的、”
そう!憧れの
ーー
ーー
…………なるわけは無かった。
「……」
代わり映えしない日常。
だが!今日の俺の一日は、ひと味違っていた。
”悪い話と良い話、どっちを先に聞きたい?”
よくドラマなどで使われる台詞回しだが、俺なら断然良い話しだ。
良い話だけ聞いて、後は聞かなかったことにする!
聞いていないことは無いのと同じ、同じなんだよぉぉ!
「…………コホン」
兎に角、俺は良い話である処の”案件”を済ませるため、家路を急ぐ途中だった。
だが、しかし、俺の本日最大のイベントは、実はその先に待っていたのだ。
ーー学校帰り、校門前に……
ーーー
ーー!
「いた!……本当に」
校門前で、下校途中である学生達の注目を必要以上に集める少女。
「マジかよ……」
時間にしてほんの少し前、俺は帰り際にクラスメイトらしい学生達の噂話を小耳に挟んだ。
ーーなんだか校門前にもの凄く可愛い娘が立っているらしい
ーーそして、その娘は誰か待っているみたいだと
ーー尚且つ、その娘の制服は、名門女子校である
と……ここまで聞いたら、既に勘の良い者で無くても予測できるだろう、その人物を……
因みに情報源の”クラスメイトらしい”と言うところは、俺は一度も話かけられたことも、話しかけたこともないからだ……
……いや、蛇足だったな、うん、これは……うぅ……
兎に角、予想通りというかそれでも意外というべきか、俺の知る彼女がそこに立っていた。
ーーザワザワ!
既に多くの野次馬達が遠巻きに集まり、校門前に佇む少女を興味本位に眺めている。
それは無理も無いことだろう、そこに佇む少女はあまりにも目立ちすぎるのだ。
「…………」
プラチナブロンドに輝く長い髪を、整った輪郭の白い顎下ぐらいの位置で左右に纏めてアレンジしたツインテールに、人形のように白い肌とほのかに桜色に染まった慎ましい唇。
身に纏った、清楚な淡いグレーのセーラ服は、襟部分に可憐な白い花の刺繍が施されている。
それは言わずと知れた、この界隈では有名なお嬢様学校である””
視線を少し落とした
ーーうぅ……実際、超可愛い
俺は二度目ではあるが、またあの時とは違った雰囲気の少女に、思わず
「あっ!」
そんな時、視線の先の、整った桜色の唇が不意に小さい声を漏らした。
ーーうっ!
「ふふっ……」
プラチナブロンドの美少女の桜色の唇は綻んで、自身の
そして、スッと美しいご尊顔の直ぐ近くまで手のひらを上げる。
「うわっ!」
俺はぎこちなく固まっていた。
ーーニッコリ
彼女は白い手のひらをこちらに向けて”ふよふよ”と数回、小さく振る。
「なんだあの男!」
「あの
「似合わねーー」
多種多様のごもっともな意見が聞こえてくる。
周りの視線が痛い。
ーーいや、無理だろ、これ!
俺は即座にきびすを返して校舎の方へ進路を取っていた。
正直、具体的には決めてはいなかったが会う約束はしていたし、会えるのはうれし……いや、
自慢じゃ無いが俺はメンタルが弱いんだ。
こんな人前、しかも俺の日常に関わりのある人間関係の場所での誹謗中傷には耐えられない。
ーーそもそも何で俺の学校で……
「あれ?」
彼女であろう声に、背中を向けていた俺は、歩を進めながらチラリと後ろを確認する。
「あ、やっぱり!」
彼女の整った容姿がぱっと晴れやかな表情になって、今度は頭の上で大きく片手を振っていた。
「おーーい、気づいてないの?、おーーい」
僅かにつま先立ちになって、頭の上でブンブンと手を振る少女、左右に束ねたツインテールがサラサラと輝いて揺れる。
ーーくそっ、なんて可愛らしい仕草で引き留めようとするんだ……悪魔め!
俺はかまわず歩を進めようとした。
「ねえ、まってよ!
ーーザワッ
後ろ向きでも、周りがざわめくのが解かった。
「ぐっ……」
空気読め!このプラチナ美人!
いや、全然悪口になってない……
ーーくるっ
ーーザッザッザッザッ!
俺は一も二も無く振り返ると、百八十度回頭して、殆ど走っているようなスピードの早足でプラチナの悪魔に詰め寄っていた。
「
「あ、やっぱり
俺の様子にはお構いなしに、にっこり少女は微笑む。
「
俺は剣幕はともかく、声量の方はあくまで控えめに、彼女に可能な範囲だけ近づいて、小声で訴える。
「……もしかして……おこった?」
少しだけ表情を曇らせて、俺を見上げる少女。
「うっ……いや、怒ったとか……じゃなくて……あの」
至近から
「良かった!」
無防備にニッコリ微笑んだご尊顔があまりにも眩しい!
「だ、だから、何でだよ」
俺は目をそらし気味に文句を言うが、もう最初の勢いが無い。
「……お礼だよ」
「お礼?」
プラチナブロンドは当然のようにそう答えた。
「ほら、この前の人狼戦、協力してくれたでしょ?だから……」
「いや、これのどこがお礼なんだよ?」
俺にはいまいち理解できない。
「え、だって……」
彼女はそう言うと、つま先立ちになり、すいっと唇を俺の耳元に寄せた。
ーーわっ近い!近い!
「……人前で私みたいな美少女に親しくされたら、自己顕示欲が満たされるでしょう?」
「なっっ!!?」
悪戯っぽく微笑む彼女は、俺の頭から一瞬で思考という存在を蕩けさせてしまった。
「…………」
そのまま、まるで誘導されたかのように、視線だけが目の前の美少女の整った顔に吸い寄せられる。
プラチナブロンドの美少女は、そんな俺を見てクスリと
「おっおまえなーー!」
「冗談だよ」
ーー!
即座に帰ってきた言葉に、俺はまたもやなにも出来ず、ただ口をぱくぱくさせていた。
ーーどうした?俺!……防戦一方じゃ無いか!
「あ、えっ……と」
俺は何とか言葉を絞り出そうとする。
ーーそうだ!頑張れ!人として、真っ当な権利を取り戻すんだ!
「フフッ、いくら何でもそこまで自惚れてないよ、わたし」
しかし次のターンもやはり彼女だった。
少女はそう言って、”とんっ”っと両足で可愛らしく半歩後ろに飛び退いた。
ふわりと緩やかに、プラチナのツインテールと清楚なプリーツスカートの裾が踊る。
「本当にお礼に来たんだよ、少し……お話もしたいし」
はにかんだ表情でこちらを見るプラチナブロンドの美少女がひとり。
「……………………だめだ……」
そして、ようやく俺の口から漏れた言葉。
「だめ?」
少女は少しだけ残念そうにこちらを見上げている。
「駄目だ……
本気でそう呟いた俺の言葉を彼女は冗談と受け止めたのか、”ぷっ!”と控えめに吹き出した後、親しみのある優しい笑顔で応えてきた。
「ほんと面白いね、
第三話「お前の……は手に負えない?」END
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