第6話

 私は廊下に出て、そこから階段を下る。階段は石でできており損傷は少ないが、そこに敷かれていたカーペットの焼け残りが所々に見られる。その階段を下ると大広間が見える。大広間の正面は玄関になっており、大きな扉があった痕がある。だが、派手に壊された後のようだ。その他、壁のあちこちに穴が空いており、ここからでも外の様子をよく見ることができるほどだ。この惨状を見れば、ここでかつて何が起こったのか容易に推し量ることができる。

 ああ、思い出した。ここであった出来事を。

 ある日、私の元に一通の手紙が届いた。それは我が主と主従を結んでいたある騎士からの手紙だった。その手紙には、「内密に」としたうえでこう書かれていた。

「この領地の農民は、作物の不作と重税ため日々飢えに苦しんでいる。そのために、毎日多くの領民が亡くなっている。どうか彼らに配慮してやってはくれまいか」

 私は一瞬、なんて不届きな奴だ、と思った。わざわざ領主に盾突くことを書いて送ってくるなど、よほど死にたがりのようだ。普通なら、その場で手紙を破り捨て、旦那様に報告するところだ。

 だが、私はそうしなかった。私はかねてより旦那様に対して不信感を抱いていた。昔から彼の悪逆非道ぶりには辟易していた。しかし、私は旦那様のしもべ。逆らうことなど考えてはいけない。だから他者を殺し、己をも殺し、従い続けた。奥様を毒殺したときもそうだった。長年、それが私にとって最善の生き方なのだと思い込んでいた。

 この手紙の終わりには、「後日、そちらへ伺います」と記されていた。彼は私の元を訪れ、返答を聞くというのか。殺されるかもしれないのに、このような手紙をよこしてノコノコとこの城に現れるなど、極端な自信家か、自殺願望者か、馬鹿のどれかであろう。

 しばらく経ってから、本当に彼は城に現れた。お供の兵士を数人引き連れて玄関に姿を見せた。幸い、旦那様は外出しておりご不在であった。私は騎士を城の中に入れ、応接間へと案内した。

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