第4話
今私がいる部屋は広い。そこには本棚、机、ソファ、その他様々な瓦礫が散乱しており、他のどの場所よりも荒れ果てている。昔はさぞかし立派な部屋だったのだろう。しかし、今は見る影もない。ここでは赤黒い色をした記憶がじわじわと蘇ってくる。
ああ、思い出した。ここであった出来事を。
ここは旦那様、つまりこの辺りの領主たる我が主の執務室。旦那様はいつもここでお仕事をされていた。私もよくこの部屋に呼び出され、様々な命令を仰せつかったものだ。
旦那様ははっきり言って、暴君だった。たとえその年が不作であろうと農民に重税を課し、逆らう者は容赦なく処刑し、邪魔者には毒を盛って殺した。旦那様は目的のためなら手段を選ばなかった。そして、私はそれを成し遂げるために暗躍する懐刀であった。
その日も私は旦那様に呼び出されていた。旦那様から仰せつかった命令は、妻である奥様を病に見せかけて殺せというものだった。
流石の私もそれは何故かと問うた。すると旦那様はこう申した。「今のあやつはわしのやり方に反対ばかりする。わしにとって、もはや邪魔者でしかない。だから消えてもらうのだ」
私はその命令を受けて涙した。あれだけ慈愛に満ちた奥様を殺せと申すか。私にはできないと思った。しかし、主である旦那様の命令に逆らうことは決して許されない。それは私にとって死を意味する。私は懊悩し、自分自身が毒を飲み、死のうかと思った。だが、結局私が毒を飲むことはなく、旦那様の命令通り奥様のお食事に毎日少しずつ毒を盛っていった。狙い通り、奥様は少しずつ体調を崩され、しまいには亡くなった。旦那様と奥様との間に、愛はなかった。少なくともこの時点では、お互いに笑顔ではいられなかった。だから、彼は彼女を不穏分子としてあっさりと処断することできたのだ。私はそれに加担することに罪悪感を覚えながらも、主の懐刀であり続ける道を選んだ。
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