【期間限定公開】日和ちゃんのお願いは絶対・第1話
『日和ちゃんのお願いは絶対』第1話【恋物語】(1)
すべてのはじまりは――、
「――す、すきです!」
彼女の、こんな『お願い』だった。
「わたしと――付き合ってください!」
――水気を帯びた宝石みたいな瞳に、瀬戸内の日差しでちょっと焼けた頬。
肩に届かない髪が放課後の日差しに煌めき、口元は緊張できゅっと閉じられている。
セーラー服のリボンは風に舞って、両手は胸元で硬く握られていて、首筋はハッとするほどに白く透き通っていて――。
俺は無意識のうちに、短く息を呑んでしまった。
「……ご、ごめん! 急でびっくりしたよね!」
俺のリアクションに不安になったのか、彼女があわてたように声を上げる。
「で、でも、本気なんだ……。わたし、頃橋くんのこと、す、好きで……彼女にして、ほしくって……確かに、意外に思われるかもしれないけど……それでも――」
「あ、いや、別に意外ではなかった」
「――えっ!?」
「というか、そろそろ告られるかも、とも思ってた」
「えええっ!?」
自分で言うのもちょっと照れるけれど、うん、正直この告白は予想ができていた。
誰でもそうと分かるようなサインがこれまで何度もあったんだ。
彼女の背中の向こう――俺たちの暮らす尾道の街を眺めながら。
夕日のきらめく瀬戸内海と、山の斜面に張り付いている古い家々を眺めながら、俺は俺たちのこれまでを思い出す――。
――
この子は同じ高校に通い同じ教室で授業を受けている、俺のクラスメイトだ。
そもそも、春に同じクラスになったころから、かわいい子だななと思っていた。
目立つタイプではないけれど、ころころと笑う顔は無邪気で、誰にも分け隔てなく接する優しさも好印象で、よくよく見れば顔立ちもかなり整っていて――。
あからさまにモテるわけではないけれど、密かなファンが男子の中に多数いる。
葉群さんは、そんなタイプの女子だった。
転機になったのは、二学期最初に行われた席替えだ。
くじ引きの結果、俺と彼女は隣同士の席になり、
「――わー、隣になるの、初めてだね……」
「――なんか、ちょっと緊張する……」
「――ふ、ふつつか者ですが、どうぞ仲良くしてください……」
妙にかしこまった挨拶をされたのを皮切りに――あっという間に距離が縮まった。
毎日雑談をするようになって、特に話が合うわけでもないのに昼休みまで一緒にいるようになって、休みの日にはラインでやりとりするようになって――。
さらには、
「――こ、今度、広島に遊びに行かない……!?」
「――わたし、ちょっと買い物したくて……」
「――よければ、二人で行こう……?」
そんな提案までされた日――俺ははっきりとこう思った。
もしかして葉群さん、俺のこと好きなのでは……!?
何かしら関係の発展を期待して、俺にアプローチをかけてきているのでは……!?
自意識過剰なのかもしれない。思い上がりが過ぎるのかも知れない。
それでもこんなの人生で初めてのことで、俺は素直に動揺したし、浮き足立った。
そして、どぎまぎと広島デート(デート、って呼んでいいやつだよな……?)を終え、引き続き浮ついた生活を続けていたある日の昼休み。彼女はついにこんなお願いをしてきたのだ。
「……だ、大事な話があるの。放課後……時間もらえない?」
……来た。
これきっと、告白だよな……?
ついに葉群さんに、気持ちを伝えられるんだよな……?
しかも、放課後待ち合わせをした彼女に連れてこられたのは、学校のそばにある絶景スポット、通称『ポンポン岩』だった。こんな綺麗な景色を前にして伝えたい『大事な話』なんて、告白以外思い付かない。どうか、そうであってくれ。
そして実際――目的の場所にたどり着き、数分ほど彼女がぐにゃぐにゃと迷う時間があってから、ようやく俺に気持ちが伝えられたのだった。
感想としては――うん、嬉しい。
というか、ちょっとにやついてしまいそうなほどに嬉しい。
告白されるなんて初めてのことだし、それがこんなかわいい子だなんて、正直舞い上がってしまう。
……まあ、
「――え、何かしらあの子たち?」
「――地元の高校生じゃない……?」
「――もしかして……告白中とか!?」
「――男子ー! 頑張れ―!」
やりとりしている俺たちの脇を、時折観光客が通り過ぎていくのがすげえ恥ずかしいけど。
このポンポン岩、この尾道でも屈指の観光スポットだからな。葉群さん、告白するならもうちょっと、人目につかなくて景色の良いとこがあったんじゃねえかな。
あと今応援したやつ! 俺は告る側じゃなくて告られてる側だ!
葉群さんも顔真っ赤だし、よくよく見ればちゃんとわかるだろ!
「……はぁ」
気持ちを切り替えたくて、俺は一つ大きく息をついた。
返事をする前に、ひとつ確認しておきたいことがある。
「……何で俺なの?」
そうだ――そこがよくわからない。
「確かに最近仲良くしてたけど、俺のどういうところが葉群さんにとってよかったの?」
自分で聞くのも恥ずかしいけど、どうしても気になった。
葉群さんはどっちかというと、優しくてぽわんとした印象の女子だ。
誰かと言い合いしているところや悪口を言っているところなんてもちろん見たことないし、むしろ色んな場面で決断をできず、迷っているところをばかり見ている気がする。
「――んー、ジュース、何飲もう……ヨーグルト……ピーチ……梅……」
「――頃橋くん、お、お昼何食べたい? え、ど、どうしよう……この辺どういうお店があるのかな……」
「――選択授業どれにしよう、音楽、家庭科もいいけど……ううん……」
対して俺は、そういう事で悩まない質だ。
「――コーヒー飲む」
「――あそこのハンバーガーにしよう」
「――俺はプログラミングにするよ。ていうか、悩んでると期限間に合わなくなるよ」
そんな俺たちの会話は噛み合わない事も多かったし、葉群さんはやりづらさを感じていたんじゃないかとも思う。
なのに、なんで俺を好きになんて……。
「……うーん」
葉群さんは、見慣れた表情でゆっくり言葉を選んでから、
「……わたしにないものを持ってるから、かなあ……」
「葉群さんにないもの?」
「うん。ほら、わたし色んな事にぐずぐず悩んじゃうでしょう?」
あはは、と、葉群さんは困ったように笑う。
その表情に――なんだか、胸を衝かれた。
「優柔不断なとこあるから、それでチャンス逃しちゃったりもして……。でも、頃橋くんはわたしと真逆だよね。自分の意見をしっかり持ってて、ズバッと物事を決められて……」
言うと、葉群さんはまぶしげに目を細め、
「そういうところに――憧れたんだ」
――心臓が、大きく跳ねた。
自分の意見をしっかり持っている――。
そこを評価してもらえるのは、うん、うれしい。
他のヤツらには、無神経だとか冷たいだとか言われることもあるのだ。俺自身、そう見られても仕方がないのかな、と思うこともある。
なのにこの子は、そんな自分の一面を褒めて、憧れるなんて言ってくれている――。
「だから……お願いします」
もう一度そう言うと、葉群さんは小さく首を傾げ――、
「わたしと付き合って……?」
なるほど、と、大きく息を吐き出した。
確かに優柔不断な子ではある。
うじうじと悩みがちでじれったいところもある。
けれど――少なくとも、お願いをするのはずいぶんと上手いらしい。
「……ちょっと時間が欲しい。気持ちを整理するために、返事する前に一人で考えてもいいか?」
「時間? ……う、うん! わかった!」
葉群さんは、こくこくと何度もうなずいてみせる。
「そうだよね、すぐには決められないよね……。ちなみに、どれくらい考えたい? 一週間とか? わたし、一ヶ月でも一年でも待てるよ……!」
鼻息荒く、こちらに身を乗り出す葉群さん。
そんな彼女に俺は、今のところの見通しを伝える――。
「いや、一晩」
「早っ!」
*
――『世界』なんて言葉が乱用された時代がある。
乱用、だったんだと思う。
自分の身の回りの狭い範囲を指して。
あるいは、自分の届かないすべてに思いを馳せて。
そしてときには――その二つを混同して、沢山の人たちがその言葉を消費した。
それからずいぶんと時間が経って、現在。世界は当たり前のように、俺達全員の手の中に収まっている。
「――また台風、関東の方に行くのか」
スマホで最新ニュースを確認しながら、俺は自宅に向けて坂道を歩いていた。
一歩一歩階段を上りながら、一応周囲にも意識を配りながら、俺は画面の中の記事に思考をめぐらせる。
「気候変動、マジでそろそろやばいんじゃないのか? もう十月なのに、涼しくなる気配全然ないし。千葉の人たち、大丈夫なのかよ……」
帰り道、こうしてニュースアプリでその日の出来事をチェックするのが俺の日課だった。
画面上にずらっと並ぶ世の中のトピックス、動画ニュース、コラムにコメントに解説文。
葉群さんの告白には大分動揺したけれど。まだ鼓動は妙に早いし手足もそわそわしてしまうけれど、見慣れた表示を眺めていると少しだけ気持ちが落ち着く気がした。
「と、そういや首脳会談の結果。どうなったかな」
ひとりごちながら、メニューを『国内のニュース』から『世界のニュース』に切り替える。
「あー、それくらいの共同宣言で終わるのか。事実上の物別れ、ってことだろうな」
まあ、そうなるだろうという予想が世の中では主流だった。俺自身あの二国が、手を取り合ってやっていくイメージがわかなかった。
けれど今日の俺は、そのニュースになんだか妙に感じ入る部分がある。
「……実際、お互いの考えを一致させるって、難しいよな」
――葉群さんの告白だけでこんなに動揺しているんだ、国同士の利害のすりあわせなんて、どれだけ複雑で難しいことなのかと気が遠くなる。
ため息をつき視線をあげると――目の前には、古びた住宅に挟まれた狭い坂道が延々と曲がりくねっていた。
この尾道の街は、大きく三つの地域に別れる。
尾道駅周辺の商業地域。
そこから山の斜面に向かって広がっている、古い住宅と寺院の入り乱れる地域。
そして、瀬戸内海を隔てた向島の造船所と広い住宅街。
俺の自宅があるのはそのうちの二つ目、山の斜面の住宅街で――帰宅するには、古い家々の間を縫うように走る坂道を歩かなければいけない。
もともと煩わしいなと思っていたこの急斜面だけど、頭がいっぱいの今は一層それが邪魔に思えて――俺はまた、逃避するように『世界のニュース』に目を戻した。
――過去の人々は、『世界』という言葉にロマンを感じていたそうだ。
遠く手の届かない美しい場所――。
遙か彼方にある、永久に変わらない光景――。
かつて『世界』は、そういうものを想起させる言葉だったらしい。
けれど――それは間違いだ。
きっとそれはもっと脆くて、手当をしなければすぐに崩れてしまう。
そのことを、現代の俺達は誰だって知っている――。
考えているうちに、自宅に着いた。
絵本に出てくる小人の家みたいに小さな門を抜け、玄関で靴を脱いだ。
「――ただいまー」
「あーおかえりー」
短い廊下の向こうから、母親の雑な声がする。
「絵莉ちゃんあとで遊びに来る言うとったよー。ご飯あるけえ、よけりゃあ食べてってもらおう」
「ああ、うん……」
生返事してほとんどはしごみたいな階段を上ると――自室に着いた。
部屋というにはあまりに狭すぎる、三畳間。
小さな机と本棚と、薄型テレビとゲーム機。あとは、むりやり蒲団を敷くスペースだけで、手一杯の空間――。
坂の途中という立地のせいで、この家の敷地面積は平地の住宅に比べて驚くほど狭い。そうなると、高校生の自分にあてがわれるプライベートスペースはまあこんなもんだ。
古びた畳の上に寝転がり、ニュースの続きを眺める。
そして、並んでいる記事タイトルの中に――、
「……ああ、また〈天命評議会〉か」
見慣れたその文字列が目に入って、俺は思わず上体を起こした。
表示されているのは――極東の独裁国家の民主化に対しての続報だ。
さて、どうなったか――、
「――おいすー」
そんな思考を、部屋に割り込んできた声が掻き消した。
「……ノックくらいしろよ」
「別にいいでしょ。見られちゃまずいことしてたわけでもないし」
「事故ってからじゃ遅いんだよ……」
そう言う間にも闖入者はどっかと畳に腰掛け――勝手にテレビとゲーム機の電源を入れる。
「深春、早くやるよー」
言って、こちらにコントローラーを投げて渡す女子。
彼女は
ちなみに、保育園から高校生になった現在まで、クラスが別になったことは一度もない。
今日だって、つい数時間前まで同じ教室で授業を受けていたのに、さっそくこうして俺の家に遊びにきたというわけだ。
「……ていうか、またニュース見てんの?」
「おう。もう少しで読み終わるからちょい待って」
「早くしろし」
「だから待てし」
それだけ言って、俺は視線をニュースの記事に戻す。
民主化後のごたごたが続いていた件の元独裁国家だけれど、ここにきて軍のクーデターも国連の介入で抑えこむことに成功し、筋道が見えたところで今回の立役者である〈天命評議会〉が手を引くことになったらしい――。
〈天命評議会〉――この大げさな名前の組織は、最近よくニュースで見かけることになったシンクタンクのような機関だ。今回の民主化のように、不可能と言われた交渉を易々とこなし、国際社会でも大きな注目と期待を浴びている。
彼らの動きを追っていると、自分と考えが違うなと思わされることもあった。
詰めが甘いのでは? と感じることさえ何度もあった。
けれど、〈天命評議会〉が介入すれば、確実に状況は大きく動く――。
だからその実力はどうしたって認めざるをえないし、事実、彼らは今現在世界を最も動かしている組織と言える。
ちなみに、その素性はよくわからないところも多いらしい。
活動開始時期、構成員、所属する国家。そのすべてが不明。けれど一説には――ごく普通の民間人が寄り集まってできた組織だ、なんて話もあるそうだ。
「……すげえよなあ」
スマホから目を離し、俺は思わず深く息をついた。
「マジでこれが民間人だったら……本当にすげえ」
――デマなのかもしれないと思う。
その得体の知れなさから自然に発生した嘘情報で、ほんとはどこかの国の公的な組織なのかもしれないとも思う。
それでも――俺は〈天命評議会〉が、一般人の集まりであってほしいと思った。
ごく当たり前の人間が、世界を変える――。
夢みたいな話だけど、この時代ならそんなこともあるのかもしれないし――そうであってほしかった。
「……さっきから、すげえすげえって、何が?」
「いや、世界には本当にすげえ組織があるんだよ」
「……へえ」
卜部は興味なさそうな顔でゲームを起動させている。
けれど、俺の意識はまだニュース記事にあった。
いつか自分も――こんな風に世の中を左右できるようになりたいと思っていた。
世界にとって重要な決断ができるような、そんな人間になりたい。
そのためにも、まずは勉強だ。勉強して、知識をつけて、この街を出て大学に入って――そんな未来を手に入れなくちゃいけない。
だから自分は――こんな狭い三畳間に、いつまでもいるわけにはいかないんだ。
「……読み終わったの? だったら早くやろうよ」
「はいはい」
卜部にうながされて、現実に引き戻された。
スマホを置いてコントローラーを手に持つ。
「今日はどうする? モードは『マジゲー』でいい?」
「だなー。俺昨日ちょっと、試したい防衛方法見つけたし」
「おーマジかー」
そう言って、右手で髪を触る卜部。
シャンプーかなにかの良い匂いがして、ちょっと俺は居心地悪い気分になる。
小さな頃はただの無愛想なガキだった卜部は、ここ数年でめっきりきれいになった。
もともと怜悧に整っていた顔立ちにメイクを施し、切れ長の目は一層切れ味を帯びた。
墨のようにつやめく黒髪は入念にセットされ、制服の着こなしも最先端。
気付けば彼女は、俺のクラスの目立つ系グループの中でも中心的な人物になっていた。
……正直、ああいううるさいタイプが苦手な俺としては、複雑な気分だった。
卜部まであんな感じになっちゃったら、ちょっとやだな……。
ただ――そんな心配をよそに、卜部の俺に対する態度は全く変わらなかった。
「――おし、わたしが敵陣突っ込むわ。ゲージ溜まったし」
「――おう、じゃあミコシは任せろ」
「――頼む。他の人らも集まってるから」
小学校の頃からの習慣どおり、今でも卜部は頻繁にこうして家にやってきて、俺と一緒にゲームする。その座り方があぐらなのだって、短いスカートをはくようになった今も変わらない。
まあ、こちらとしては、しょっちゅうパンツが見えて目のやり場に困るんだけど。さすがにもうちょっと気を遣ってくれねえかな。
「……あ、深春、そっちスナイパー行った。多分狙われてる」
「マジか。うわほんとだ!」
「めっちゃ撃ってきてんじゃん」
「まだ全然塗ってねえんだよ。ここでやられるわけにはいかねえ。……ああっ!」
「あーやられた」
「すまねえ、フォロー任せた」
彼女やネットの向こうのチームメイトと連携して、自陣をなんとか守ろうとする。
けれど……なぜか俺は、普段の調子が出せない。
エイムはずれるし立ち回りも冴えないし、プレミ連発でチームの足を引っ張ってしまう。
そうしているうちに相手の侵攻はどんどん激しさを増し、陣地は徐々に削られていって、
「あー、負けたー!」
試合時間は終了。
ジャッジキャラの鳥くんが、相手チームの勝利を高らかに宣言する。
「ちくしょー、何がいけなかったのかなあ」
「いやまあ、最初からぼろぼろだったし、後半はずっと負け確な感じだったけどね」
悔しがる俺に、卜部はドライにそう言う。
ちょっとくらい慰めてくれてもいいのに、とは思うけれど、これくらいの率直さもそれはそれで好印象だ。
「よしじゃあ、次のゲーム行くぞ。今度はもっと集中して――」
「――ていうかさ」
それまでじっと画面を向いていた卜部の顔が――こちらを向いた。
「深春、どうした?」
「は? なにが?」
「変なんだけど」
「だからなにが?」
「いや全部。さっきからそわそわしてるしプレイも雑だし」
そして、卜部は怪訝そうに俺の顔を覗き込み、
「何かあった?」
――ぎくりとしてしまった。
もう平常心を取り戻したつもりだった。ニュースチェックと卜部とのゲームで、葉群さんの告白の動揺を、一旦打ち消せたはずだった。
けれど、
「……やっぱり、何かあったでしょ」
卜部はじっと目を眇めると、探偵みたいに眉を顰め、
「どうしたよ、深春がそんなにそわそわするなんて」
「いや、別になにも……」
「もしかして……」
と、卜部は一層顔をこちらに近づけ、
「……な、なんだよ?」
その距離感にどぎまぎと後ずさった俺に、こう尋ねる――。
「……告白でもされた?」
――動揺が、顔に出たと思う。
そこまでピンポイントで図星を突かれて、さすがに平常心はキープできない。
どう言い訳しよう、どこまで話そう……。
なぜか責められているような気分で言うべきことを考えていると、
「……まあ、いいけど」
ふいに卜部は、顔をゲーム画面の方に戻した。
「別に深春が誰に告られようと、誰と付き合おうと、構わないし」
……なんだよ。
だったら最初から、あんな風に迫ってこないでくれよ。なんか焦っちゃったじゃねえか。
でもまあ、そうだよな。
「……ふぅ」
ひとつ息を吐き出し、俺は小さく安心する。
俺達の関係はそういう色恋沙汰とは数万光年離れている。
幼なじみ同士の恋愛なんて別世界の話としか思えないし、それは卜部にとっても同じだろう。だからこそ、この関係は心地いいし、ここまで長続きしたんだ。
「よし、次は勝とうぜ」
それだけ言うと、俺はもう一度コントローラーを強く握り、次の試合のマッチング画面に移った――。
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