第31話



 文化祭の出し物が、テンションを売る店に決まった高志のクラス。

 文化祭までの残り三週間、クラスで一丸となって準備を進めていた。

 主に、放課後や休み時間に皆でセットや道具、小物を作ったり、テンションの上がる事を話しあったりしていた。

 

「今日も遅くなったな」


「仕方ないよ、色々と話し合う事も多いし」


 高志と紗弥の帰宅時間は、前よりも遅くなっていた。

 今の時刻も既にに二十時を過ぎていた。


「なにがテンションの上がる店だよ……普通に飲食店した方が無難で良いんじゃないかと思うんだがな」


「那須君、クラス賞狙ってるんでしょ? なら、普通の店じゃダメだと思ったんじゃない?」


「それはあいつの自業自得だけどな……」


 優一の話しによると、芹那のクラスが高志達のクラスよりも、クラスの出し物ランキングの順位が高かった場合、優一は芹那と付き合う事になってしまったらしい。

 どうにも、文化祭の出し物の話しになった時に、芹那が仕切りに「うちのクラスの出し物は凄い!」と言うもんだから、優一も対抗して「二年の意地を見せてやる」と言ったのが始まりらしい。


「由美華が言ってたよ、私何もやることないから、楽だって」


「あいつがほとんど全部やってるからな…いつもは面倒くさがるのに、今回に限っては負けられないからだろうけど」


 いつにも増して、優一は積極的に行事に参加していた。

 道具の調達、店の風貌など、優一はかなり細かくこだわっていた。

 そんな話しをしていると、いつの間にか別れ別れ道に着いてしまった。

 最近は帰りが遅くなる事が多いため、紗弥は家に寄っては行かない。


「んじゃ、また明日な」


「うん」


 最近ではこんな感じで別れるのがほとんどだった。

 高志は少し寂しさを感じながら、家に帰って行く。


「ただいま~」


「あらおかえり、ごはん出来てるわよ」


 リビングに行くと、既に風呂から上がってさっぱりとした母親と父親が居た。


「いや、まず風呂に入るよ、汗かいたし」


「にゃー」


「ん? チャコ、今日は紗弥はこねーぞ」


「にゃぁ……」


 リビングのドアの前で、もう一人の主人を待つチャコ。

 高志が帰って来たときは、しっぽをピンと立てていたのに、今は垂れ下がっている。

 最近紗弥と会えず、寂しいのだろう、鳴き声にも元気がない。

 高志はそんなチャコの頭を撫で、そのまま部屋につれて行く。


「ごめんな、今は忙しくて、お前の相手をしてやれないんだ」


「にゃ~」


 いつもよりもチャコの鳴き声は小さい。

 高志は、文化祭が終わったら、少し遊んでやろうと思いながら、風呂場に向かった。






 文化祭の準備が始まって、早い物で三週間、早いもので来週の金曜日に文化祭が迫っていた。

 高志達の学校の文化祭は、金曜日から日曜日までの三日間執り行われる。

 一日目は学校内だけの開催、二日目と三日目は一般公開となっており、一日目は練習で、二日目と三日目が本番だと言われている。

 高志達のクラスも大体は準備が整いつつあった。


「優一、そっちをもってくれ」


「おう」


 今は最後の大仕事、店の外装のパーツを作っていた、高志と優一。

 高志達のクラスは、集客を上げる為、隣の空き教室と自分たちのクラスをつなげて一つの店にする事にした。

 

「にしても、このメニューなんだよ……写真撮影とか、情報の提供(校内の学生に限る)とか、校内のイケメン紹介しますとか……」


「お前、可愛い女子と写真撮れたり、その子の情報を手に入れられたら、嬉しいだろ? テンション上がるだろ?」


「その子にしたら迷惑だわ……」


「安心しろ、そこら辺はうちのクラスの女子の中でも、許可を得た人物に頼んでいる」


「根回しが良いな……」


「代わりに、俺は近隣の他校のイケメン君の情報を集めてきた」


「なるほど、ある意味ウインウインな関係なのな…」


「俺のありとあらゆる人脈をフルに使い、出来る限りのお客様の望みを叶える……完璧だろ?」


「あぁ、お前の必死さが良くわかるよ…」


 高志は呆れた様子で、優一の話しを聞きながら釘を打つ。


「まぁ、色々と気持ちはわかるが……別に良いんじゃないか? 付き合っても」


「あほか! あんな変態と付き合って、俺まで何かに目覚めたらどうするんだよ!」


「まぁ、確かにそれはあるかもな…」


 あの芹那を見てしまった高志も、流石にそれ以上は言えなかった。

 しかし、彼女はそう言う性癖を除いても、優一を随分気に入って信頼しているようすだった、


「あれが無ければ……完璧なんだが……」


「あれが大きいもんな……」


 二人は苦い顔をしながら、あの日の彼女の発言を思い出す。

 人の趣味をとやかく言う気のない二人だが、流石に実害がありそうだと感じてしまうと、放ってもおけない。


「付き合ったら変わるんじゃねーの?」


「俺があいつの性癖を変えろと?」


「あぁダメか、童貞だもんな」


「うっせぇ!」


「ま、俺もだけど」


「なら言うなよ! ってか…お前と宮岡ってまだなの?」


「あぁ、そう言うのは大事にしたい」


 話しが高校男子らしくなって来たところで、優一は高志に少しいいずらそうに聞いてきた。 そんな優一に、高志は平然とそう答える。


「そ、そうなのか……やっぱり健全なお付き合いが一番だよなぁ……そう言う事はけ…結婚をしてからだよなぁ」


「え? そんなに待つの?」


「当たり前だろ! 軽々しく考えてんじゃねーぞ! 子供が出来る行為なんだ、慎重にしないと大変だろ!!」


「元不良が何を言っちゃってんの?」


「関係ねーだろ! それに、もしも出来た時に、十分な収入、安定した生活環境が無いと、子供が可愛そうだ!」


「お前の性格が、最近俺は良くわからん」


 意外に純な優一の考えに、高志は少し感心していると、隣の教室から由美華と紗弥がやってきた。


「こっちは後どれくらい?」


「あぁ、もう少しで完成だ、そっちは?」


「こっちも後数日ってとこかしらね、皆頑張ってくれてるわよ」


 高志と優一は、空き教室のセッティングと掃除の班で、紗弥と由美華は教室で小物類の作成の班だった。

 基本的には男女で別れて作業をしており、みんな文化祭前とあって、テンションが上がっていた。


「あとは、メニューの確認だな……こればっかりは皆の意見も入れないと……」


「優一、なんで俺とのツーショットなんてメニューがあんだ?」


 高志は優一の持っている、メニュー表の下書きを除き込んで尋ねる。


「悔しいが、お前はある特定の女子に最近人気がある」


「その特定の女子ってなんだよ……」


「オタク系の女子だな、お前は宮岡と付き合うまで、目立たなかったが、宮岡と付き合いだして有名になって、ファンが増えたようだ。むかつく話しだが、集客の為に協力しろ」


「却下だ! 大体こんなん、紗弥が……」


「一万あったら、何枚取らせてもらえるかしら?」


「紗弥?! そんなん無料で何枚でも取らせてやるから!!」


 どうやら、ファンに頼らなくても、紗弥だけで結構な金額の収入が望めそうだった。

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