文化祭と気持ち

第30話



 六月に入り、高志達の学校では文化祭の準備が始まっていた。

 高志達の通っている学校の文化祭は、七月の始めに行われる。

 六月いっぱいで準備を進め、生徒は皆、奮起する。


「はーい、じゃあ文化祭何やりたいか、意見だしてー」


 黒板の前に立ち、意見を聞いているのは由美華だった。

 文化祭の実行委員である彼女は、クラスの意見をまとめ、生徒会に申請書を書いて提出しなければならず、こうして本日最後の授業でクラスの出し物の案を募っていた。


「やっぱり、無難にお化け屋敷とか?」


「いや、メイドカフェだろ!」


「ちょっと、男子何言ってるのよ、メイド服が見たいだけでしょ?!」


「いや、お前のメイド服とかどうでも良い……俺が見たいのは……」


 そう言って男子生徒の視線は、紗弥の方に集まる。

 紗弥はスマホを弄って何かをしていた様子だったが、視線に気がつき、皆の方を見る。


「着ても良いけど?」


「「「おぉぉぉ!!」」」


「高志の許可が出れば」


「「「あぁ………」」」


 紗弥の言葉で、クラスの男子のテンションは、一気に上がって、一気に落ちた。

 そんな様子を端から見ていた高志は、苦笑いで嫌な予感を感じていた。


「高志! 彼女に言ってくれ! メイド服を……いや! ナース服を着てくれと!」


「ちょっと待て! それならミニスカポリスも!」


「馬鹿! そこはレディーススーツを着ていただいて、先生のコスプレを!」


「一体何の店だよ……」


 高志は色々と言ってくる男子達に呆れた様子で言う。

 しかし、高志も男。

 どうせなら、いつもと違う紗弥を見てみたい。

 しかし、ながら他の男にそんな姿を見せるのは少し抵抗がある。

 その為……。


「紗弥のそう言う格好は……ちょっと見せたくないかも」


「あぁ~はいはい、言うと思いましたよ~」


「仲よろしいですもんね~、二ヶ月目に入って、イチャイチャ度が増したんじゃないっすか~?」


 交際が始まって、もうすぐ二ヶ月が経とうとしていた、高志と紗弥。

 すっかりクラス内では、バカップルに認定され、皆から暖かい目で見守られている。

 しかし、男子からの嫉妬の視線も、未だに健在だった。


「もぉ! 話しが脱線してるよ! とりあえず、今出た案はこんな感じ!?」


 黒板には、喫茶店、お化け屋敷と書かれていた。

 正直どちらもありきたりだ。


「う~ん、高二の文化祭だし、去年以上の事をやりたいよなぁ~」


「お前、一年の時、クラスで何やった?」


「休憩所」


「うん、それ以下の出し物は無いから安心しろ」


 皆、色々と意見を出すが、中々決まらない。

 そんな時、最近芹那に猛烈なアプローチを受けて、毎日つかれている優一が、目を覚まして話し合いに参加し始めた。


「はぁ~……よく寝た」


「那須! アンタなに寝てんのよ!」


「うっせぇ! 俺が毎日どんな目にあってるかもしらねぇくせに!!」


 この間の告白騒動以後、優一と由美華は仲が良くなったようで、前より随分砕けた感じで会話をする。

 まぁ、大体は喧嘩口調なのだが、本当に喧嘩と言うわけではないので、基本は仲が良い。


「文化際の出し物ね~……喫茶店に、お化け屋敷か……どれも代わり栄えしないなぁ~」


「文化祭の出し物なんてそんな物でしょ?」


「どうせなら、面白い事やって集客増やしたいだろ? 売り上げだって上がれば、その後の打ち上げが豪華になる」


「なら、アンタ良い案でもあるの?」


「あぁ、とっておきがあるぜ……」


 優一はそう言うと、黒板の前に進み出て、黒板に大きく文字を書き始める。


「まずは、文化祭とは学生が行う祭りだ! 祭りと言ったらなんだ? 赤西!」


「は? 俺かよ」


 高志と同じクラスの男子である赤西君、一年の時はクラスが別だったので、高志はサッカー部の人と言う認識しかなかった。


「祭りつったら、出店だろ? それに馬鹿騒ぎするイメージだ」


「なるほどな、じゃあ土井!」


「あん?」


 またしても優一は、クラスの男子に話しを振る。

 土井は卓球部で、基本あまり話しをせず、必要な時以外は黙っているクールな生徒だった。


「出店、馬鹿騒ぎ、それ以外に祭りに関して何か連想するものはあるか?」


「ん? ……祭りの時の異常なハイテンションとかか?」


「そう! それだ!!」


 優一は、土井の答えに大きく反応し、黒板にデカデカと書く。


「ようするに、当日は祭りのテンションで、皆テンションが異常に高くなる! そこでだ、俺は飲食店は飲食店でも、客のテンションが更に上がる飲食店を提案する!」


 優一は、一番大きく「テンションマックスナ店」と黒板に書く。


「祭りで、賑わってる店には、自然と人が集まる……そう言う店はテンションも、祭りに合わせて高い、俺らもそれで行く」


「まって、私もそうだけど、アンタ以外誰一人として、理解出来てないわよ?」


「今からそれを説明するんだよ、じゃあ御門」


「な、何よ?」


「お前のテンションってどう言う時に上がる?」


「い、いきなり何よ? ん~……紗弥と遊んでる時とか?」


「じゃあ、俺がお前と宮岡、二人っきりで遊べるように取り仕切ったら、テンションあがるか?」


「そりゃあ上がるわね」


「そういうことだ!」


「は?」


「つまり、俺が提案する店は、食べ物を売るわけでも、恐怖を売るわけでもない! テンションを売る店だ!」


 優一は声高らかに宣言する。

 言われたクラスの面々じゃ口をそろえて、疑問の声を上げる。


「おい、優一。それは具体的に何をする店なんだ?」


「例えばだ、テンションを上げる為に、女の子と話しをしたい! と言う男子生徒がきたら、うちのクラスの女子とお話させてやる。そうすれば、その男子生徒のテンションは上がるだろ?」


「あぁ…なんとなくわかった……つまり、客の要望を叶えて、満足してもらうってことか?」


「そういうことだ! まぁ、エロい事や金銭がらみの事はNGにしようと思ってる。色々とうるさいだろうからな。これなら、飲食店みたいに料理をしなくても言い上に、準備も楽だ! どうだ、俺の案は?」


 優一はそう言って、クラスの皆に尋ねる。

 すると、クラスの一同は意外にも面白そうだと言い始めた。


「まぁ、要望によるけど、楽しそうじゃない?」


「テンションね~、確かに元手はゼロだしな」


「だろ? 要望については検討していきながら決めよう、どうだ? 俺の意見で良い奴挙手!」


 そう言った瞬間、クラスの生徒がちらほらと手を上げ始める。

 高志は、正直どうでもよかったが、まぁ変な事をする訳でもないから、良いかと手を上げる。


「良し! ほぼ全員賛成だな! じゃあ、用意する物を決めて……」



「実行委員でも無いくせに、何を取り仕切ってんのよ。ここからは私の仕事」


 そう言って、由美華は優一を一旦席に戻らせる。

 席に戻ってきた優一に高志は後ろを向き、声を掛ける。


「お前ってそんなに、こういう行事好きだっけ?」


「何言ってるんだ高志! 人気が一番高かったクラスは、表彰されるんだぞ? しかも賞金も出る。目指すなら、てっぺん目指したいじゃん?」


「ふーん……で、本音は?」


「秋村と文化祭のクラス出し物の人気勝負するって言っちまった」


「負けたら?」


「秋村と付き合うことに……」


「なんでそんな事に?」


「売り言葉に買い言葉で、思わず……」


 要するに、優一の自業自得に、クラスの全員が巻き込まれてしまった様子だった。

 

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