第32話




 文化祭を二日後に控えたとある日、高志達は最後の準備に入っていた。


「眠い……」


「寝るなよ、お前がいないと始まらないんだから」


「だ、大丈夫だ……俺の……未来の為にも! 眠る訳には……」


「あぁ、はいはい」


 優一は人一倍、文化祭の準備を頑張っているうえに、準備をする上でも中心になって、あれこれ準備をしていた。

 いつもは使わない体力を使っているからだろう、日に日にやつれている気がする。

 

「そんなに嫌かね……」


「おい、高志! こっち持ってくれ」


「ん? あぁ、今行く」


 高志はクラスメイトの男子生徒に呼ばれ、そっちの手伝いに向かう。

 

「なぁ、八重って実際、宮岡さんと何処までやったの?」


「いきなりなんだよ、ちゃんと仕事しろよ」


「いやいや、俺らの紗弥ちゃんを横から掻っ攫って行ったんだ、経過を報告するのは義務だろ?」


「そうだぞ、どうなんだ八重?」


 その場に居た、クラスの男子生徒が高志の元に集まり、尋ねてくる。

 今、高志は空き教室の方で作業をしており、教室内には男子しか居ない。

 女子は隣の自分たちのクラスで、小物づくりの真っ最中だった。


「どうって……ハグくらいしか……」


「「「はぁ??!」」」


「急に大声を出すなよ……」


 その場に居た男子生徒は、高志の言葉に全員大声で反応する。


「え? まだキスて言うか……ちゅう的な事はしてないの?!」


「まぁ……ちゃんとはしてないかな?」


「いやいや、付き合って二ヶ月だろ?」


「二ヶ月なんてそんなもんじゃないのか?」


 高志は作業を進めながら、その場のクラスメイトの男子に尋ねる。

 そんな高志に、クラスメイトの男子は皆で顔を合わせながら、話し始める。


「お前、付き合った事ある?」


「あぁ、あるぞ……二次元だが」


「それは無いのと同じだろ…」


「俺も……無い」


「俺は画面の中に嫁なら…」


 話しを聞く限り、クラスの男子のほとんどが交際経験が無い様子だった。

 しかし、そんな中に一人だけ、余裕の表情で高志の言葉を掛ける者がいた。


「ハハハ、皆想像で話しをしすぎだよ」


「お、お前は……」


「クラスで唯一のイケメン、茂木(もてぎ)!」


 笑みを浮かべながら颯爽と現れたのは、クラス内での唯一のモテ男こと、茂木だった。

 茂木は高志の前に、出ると笑みを浮かべながら、話し始める。


「八重君、スキンシップを取り過ぎるのも行けないけど、偶には自分からスキンシップを取ることも大切だよ」


「そうなのか?」


「あぁ、そうさ。女性は愛されたい生き物なんだよ、だからあまり放って置いてばかりだったり、構ってあげなかったりしたら、逆に女性は不安になってしまうんだよ」


「そう言うもん……なのか?」


 得意げに話しをする茂木。

 高志は、そんな茂木の話を聞き、最近の事を思い出す。

 ここ最近、文化祭の準備だなんだであまり話しをしていない気がする。

 最近では登校も下校もバラバラになっていた。

 高志は最近、優一の手伝いで朝は早くに学校に来て、帰りも文化祭の準備で遅くまで残っていた。


「ここ最近、君たちからは距離を感じるよ? 文化祭の準備で忙しいからって、ちゃんと二人の時間を作らないと、大変な事になっちゃうよ?」


「……そういもんかな?」


 茂木の言葉が、高志の胸にぐさりと刺さった。

 確かに最近、前よりも一緒に居ないし、なんだか距離を感じる高志。

 スマホでやりとりは、毎日しているが、それも前よやりとりは短くなっていた。


「茂木、そういうお前は、宮岡さんに振られたじゃねーか」


「ぐはっ!! や、やめてくれないかな? そ、そのことは言うのは……」


「いや、八重。振られた奴の意見なんてあてになんねーぞ?」


「モテない君たちの意見よりはましだと思うけど?」


「「「喧嘩売ってんのかこの野郎!!」」」


 茂木のこの一言により、高志に向いていたクラスの男子の意識が、すべて茂木に集まった。


「……二人の時間か…」


 なんとなく、紗弥が居ない寂しさを高志は感じていた。

 二ヶ月間、ほとんど一緒毎日一緒にいたからだろうか、高志はここ最近、何かが足りないような感覚で、毎日を過ごしていた。


「おい、高志! 買い出し頼む!」


「ん、あ…あぁ!」


 高志は優一に言われ、買い出しに向かった。

 明日にでも、久しぶりにちゃんと紗弥と話しをしようと、思いながら。





「紗弥……紗弥!」


「……え? どうしたの、由美華」


「それはこっちの台詞よ、ぼーっとして」


「私、ぼーっとしてた?」


 私は由美華にそう言われ、聞き返す。


「そうよ、何回呼んでも気がつかないし……どうかしたの?」


「ん……なんて言うか……ちょっと何か足りない感じがして…」


 由美華に聞かれ、私は答えた。

 何かが足りない、漠然としたことしか言えなかったが、何が足りないかは、自分でわかっていた。

 

「はぁ……」


「溜息を吐きたいのはこっちよ……このままじゃ、準備が整うのはギリギリね……」


「……文化祭か」


 去年とは違うクラスメイトやる文化祭。

 私にとっては、もう一つ去年とは違う事があった。


「そう言えば、今年は紗弥は八重君と文化祭回るの?」


「え……う、うん……そうしたいけど…」


「そう言えば、最近あんまり一緒に居ないわね……もしかして破局?」


「そうじゃないわよ……ただ……忙しいだけよ」


「……っち……」


「由美華、何か言った?」


「何でも無いわ。まぁ、文化祭の準備もあるし、仕方ないんじゃない?」


 由美華は私になぜか笑みを浮かべながらそう言う。

 なんで笑顔なのかは気になったけど、私を安心させようとしての事だと気がつき、あまり気にはしなかった。


「そうよね……でも、なんだか不安になって……」


「なんでよ? いつも仲良しじゃないの?」


「……そうだけど……なんか、最近はあんまり話して無いし……そのうち、忘れられるんじゃないかって……」


「はぁ……紗弥は心配しすぎよ、悔しいけど、八重君はそんな事するような人には見えないけど?」


「そうだけど……人間なんて何があるかわからないし……」


 私は不安だった。

 彼は自分の事をどう思っているのか、彼の好きという気持ちは、私と同じ意味の好きなのか、不安で不安で仕方が無かった。

 でも、そんな事を彼に言って、鬱陶しいと思われるのも嫌だった。

 だから、私は彼の前では普段通りに振る舞う。

 でも、心の中ではいつも不安だった。

 こんな私に、いつか彼は愛想を尽かすのではないかと……。

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