第10話 ちょっと照れくさい話

 実家に帰省する度に、俺に纏わりついて来るミミとハナ。今回もソファーに座って寛いでいると、どこからともなくやって来た二匹が、俺の膝や肩に飛び乗って来た。


「なぉ~ん」

「うなぁ~」

「おい、こら! お前達、本当に俺に対して遠慮が無いよな!? 重いって、何度も言ってるだろうが!」

 ゴロゴロ喉を鳴らしながら、俺の身体の上に居座っている二匹に文句を言うと、母さんが笑いながら宥めてくる。


「太郎が来るのはいつも久しぶりだから、二匹とも歓待しているつもりなのよ」

「本当かよ……。クッションか座布団扱いじゃないだろうな? 初対面でこんな扱いだと、絶対怒るぞ」

「初対面で怒るって、誰が?」

「ああ……、うん。その……、なんと言えば良いか……。父さんが来たら話す」

 思わず口を衝いて出た台詞に、母さんが怪訝な顔で尋ねてきた為、咄嗟に気持ちの整理がついていなかった俺は誤魔化した。しかしここで間の悪い事に、父さんが庭から戻って来る。


「戻ったぞ。胡瓜とトマトはもう十分だな」

「ありがとう。太郎が何か話があるそうよ?」

「何だ? 昨日こっちに来たのに、まだ何か言っていない事があったのか?」

 ウッドデッキで長靴を脱いだ父さんが、不思議そうに作業着のまま目の前に座る。まさかここで言う羽目になるとは予想していなかった俺は、微妙に視線を逸らしながら口ごもった。


「……ちょっとタイミングが合わなくて、言いそびれたんだよ」

「はぁ?」

「だから何を?」

「にゅあ~ん」

「なぁ~ご」

「あのさ! 夏の間にこっちに連れてくる奴がいるから、会って欲しいんだけど!」

 両親に加え、猫達からも不思議そうな視線を向けられた俺は、ここで思い切って話を切り出した。しかしその反応は、俺の予測をあっさりと裏切ってくれた。


「友達か? 別に構わんし、一々断りを入れなくてもいいが」

「こっちに来てからは、太郎が家に友達を連れて来るのなんて、初めてね」

「いや、そうじゃなくて!」

「にゃっ! にゃ~っ!」

「にゅあっ? なうっ!」

「お前ら、五月蠅いぞ!」

 何で、そんなに淡々としてるんだよ!?

 二十代後半の息子が、あって欲しい人間がいるって言ってるんだぞ!? 少しは察しろ、それでも親か!!

 ほら見ろ! 絶対ミミとハナの方が、分かってるよな!?

 楽し気に鳴き声を上げて、尻尾を振っている猫達を見て漸してくれたのか、ここで漸く父さん達が反応した。 


「うん? あ、太郎。ひょっとしてお前、結婚するつもりなのか?」

「あらあら、まあまあ……。相手の女性を連れてくるって事なの?」

「だから! そういう事だから、双方が都合が良い日に連れてくるから、よろしく!」

「にゃっ!」

「うなっ!」

「お前らは返事しなくて良いから!」

 あああ、顔が赤くなってる気がする! 心なしか、ミミ達に生温かい視線を向けられている気がするぞ!?

 それでも取り敢えず、言うべきことは言ったと安堵していると、父さんが余計な事を言い出した。


「そういう事なら太郎、さっさとその人に電話しろ」

「は? 何でだよ?」

「俺達は気楽な無職生活だしな。相手の人は、働いているんだろう?」

「ああ。普通にな」

「だからそちらの休みに合わせて、来れば良い。俺達は幾らでも都合を合わせるから」

「それをお話ししつつ、まず電話でご挨拶をしないとね」

 にこにこと笑いながら話を進める両親に、俺は盛大に待ったをかけた。


「いやいやいや、いつでも大丈夫って事は、俺がちゃんと後で連絡するから!」

「後でするなら、今しても構わないよな?」

「そうよね?」

「な~っ、にゃっ!」

「みゃう~!」

「とにかく! 佳代にはちゃんと会わせるし、話もさせるから! 取り敢えず放っておいてくれ!」

「あら、佳代さんって言うの」

「楽しみだな。彼女を連れて来るのをすっ飛ばして、嫁さんを連れて来たか」

「まだ連れて来てないから! 日本語がおかしいぞ!」

 どう見ても面白がっているとしか思えない二人と二匹に言い聞かせ、その場は何とか話を終わらせる事に成功した。

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