第3章_舞踏会_

 城へと無事に潜入できた双子は、女王を油断させるため、国のために必死に働き、たった二年でヘントロートは女王の召使にラインフォートは、軍の第一師団団長にまで上り詰めた__。その頃の双子の年齢は、16歳になっていた。

 しかし、そんなあるとき事件が起こった。それは、女王のメイドの一人が女王を殺そうとしたのだ。女王の、飲み物に毒を盛り、女王を殺そうとしたがその殺害計画は女王のそばに居た大臣によって失敗に終わった、そして企てたメイドは、民衆の前で吊るし首になった。

「彼女は、かつて滅ぼされた国の市民だそうだ。復讐のためにここへ来たらしい…。」

 ヘントロートはそう言うと、ラインフォートが、

「そうか…俺達と一緒だったんだな。」

 しばらく沈黙が続いた…。

「まぁ、今日は寝よう!明日は女王のそばで一日中つかないといけないしな。」

 明日は、この城で舞踏会が行われる。それには、民衆も参加するためいつどこから女王が暗殺されるかわからないので強く賢い双子を女王のそばに置くことになっている。

 翌朝、双子は朝日の昇る前に目を覚まし、顔を洗う。ヘントロートは、そのまま一日のスケジュールを確認し、ラインフォートは、剣を持ち中庭へと出て修業をする。それが彼らの日課。

 女王を起こす時間は午前7時、女王の部屋に訪れ朝の紅茶を入れる。

「本日のご予定は、午前はピアノのレッスン。午後は、ダンスの練習がございます。そして今夜は、舞踏会がございます。」

「ええ、分かっているわ…。今夜は一緒に居てね、ヘントロート。」

「かしこまりました。それでは、お食事の料理ができておりますので、着替えが終わりましたら、食堂の方へお越しになってください。それでは、失礼いたします。」

 ヘントロートはそう言い、女王の部屋から出ていき、代わりに、着替えを手伝うハウスメイドが数人入っていった。

 そして、ヘントロートは、食堂へと向かい、食事の準備を進め、盛り付けまでを完璧にこなしその数十分後に女王様があくびをしながら入ってきた。

「女王様、本日の朝食は______。」

 女王が朝食を食べ終わり、ピアノのレッスンが始まる。

 女王のピアノレッスンはラインフォートが教えている。ラインフォートは、音楽や美術などの芸術センスには目を見張るものがある。

 そうして、ピアノレッスンが終わり、ランチの時間になり女王が食堂へと入ってきた。食堂には、すでに料理の準備が整っており、ヘントロートの姿もあった。

「午後からは、ダンスの練習がございます。」

「ええ、そうね、もちろんお相手は、あなたなのでしょう?」

「あなたが望むのであれば。そうなりますが。」

 ヘントロートは、そう言って女王の前に跪き女王の手を取り口を近づける。

「今は、私とあなたの二人きりなのだから、敬語外しなさいよ…。」

「いえ…そんなわけには…メイド長に叱られてしまいますよ…。」

「じゃぁ!女王の命令よ!…これでいいでしょ?」

 その言葉に、ヘントロートは、苦笑いで「わかったよ…」と言った。

 二人きりの時は以前からこうしてお願いしてくることがあるのだった。

「ねぇ、ヘントロート…私は、ほんとに、生きていていいのかしら…」

 急な、質問に驚き、少し顔を歪めるヘントロート。

「……どうしてそんなことを…?」

 そう聞くと、リジーは、椅子に座った状態で自身の膝を抱え、その膝に顔をうずめて、呟いた。

「だって、私は、大臣達に言われるがままに、国を滅ぼしていったのよ…?きっと、先日吊るし首になった人も…私が、命令して滅ぼされた国の人だと思うの…。きっと…私が……。」

 その先の言葉は、聞き取れなかった。しかし、いつも、強気な女王が、これほどまでに弱々しい姿は、数年一緒に居たヘントロートも見た事は無かった。ヘントロートは、リジーのそんな姿を見て、女王が考えていたことを初めて知り、本当に、女王に復讐するべきかを改めて考え、ラインフォートにも相談してみようと考えた。

 ランチが終わって。食堂から小さなダンスホールの方へと移動した。

「それでは、ダンスのレッスンでもしましょうか。」

「えぇ…!」

「そこ、右足前ですよ。」

「わかってるわよ!」

「そこは_____

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

「大丈夫ですか?」

 女王は、息を切らしているが、ヘントロートは、全く息を切らしていない。

「ワルツも踊れないんですか?」

 ヘントロートがそう言うと、女王は、ヘントロートを、キッ!と睨み付け、怒り出した。何ともほほえましい光景である。

 その後、休憩を挟みながら、ダンスのレッスンは、続いた。

 舞踏会の始まる前にドレスへと着替えるために、更衣部屋へと移動し、ハウスメイドが手伝い着替えが終わり、更衣部屋から出てきた女王は白く美しいドレスをまとっていた。

「私は、赤が好きなのに…。」

 女王は不満そうだが、他の者は、女王の姿を見て、頬を赤く染めた。白い肩出しのドレス、スカートの部分にはふんだんにレースとフリルがあしらわれていた。極めつけは、腰元にある大きなレースのリボンだ。

 だが、女王は、何処からか、赤いバラの髪飾りを取り出し、ヘントロートに着けるよう言った。

「ヘントロート、着けなさい。」

「かしこまりました。」

 そう言い、ヘントロートは、女王の後ろに回り、器用に着け始めた。女王の、白い髪によく映える赤いバラに、皆も納得のようだった。

 この国のトップである、リジーの家系は、代々魔法使いで、氷属性の魔法を使うため、その副作用のようなもので、肌や髪色が、人間離れした白さで、とても美形なのだ。

「それでは女王様、そろそろ移動しましょうか。」

「えぇ、そうね。」

・ 

 そして、舞踏会の舞台となる、城の中の大ホールへとやってきた。

 午後六時ごろから人が来始めた。皆美しいドレスやタキシードをまとってはいるが、女王とその召使であるヘントロートには及ばない。

「それでは、大臣、今夜の宴の挨拶を…」

「紳士淑女の皆様、ようこそお越しくださいました。どうぞ今宵の舞踏会を存分にお楽しみください。」

 そう大臣が言い終わると、見計らったように音楽が鳴り始めた。しばらくして、他の国の国王や王子が女王のもとに挨拶に来た。どれも、女王の魔法の力が目当てだった。だが、それがわかっている女王は、適当にあしらい召使のヘントロートと、下のフロアへと降りて行った。

「踊っていただけますか?」

 ヘントロートがそう問いかける。

「えぇ、よろしく頼むわ。」

 二人は、一曲踊り終え、その場は大臣達に任せ、中庭へと出た。中庭には、ベンチと噴水があるだけだ。

 空からは、美しい満月が顔をのぞかせていた___。

「月がきれいね。」

「そうですね。」

 唐突にそう言った、女王の顔は、ほんのり赤い。

「何かの書物に、書いていたのだけれど…あなたのことが好きということらしいわよ……。」

「………それはつまり……。」

 ヘントロートは、意味が分かったのか徐々に顔を赤く染めていく。女王は、そんなヘントロートの顔を見て、面白く思い笑い出した。

「私は、あなたがほしいわ、ヘントロート…。」

 女王の笑いが治まった頃に、女王が、言い直した。

「いけませんよ…。私は、召使です…。」

「それでも、私は、貴方のことを…」

 ヘントロートが、その先は、言わせないと、自分の人差し指を女王の口元へと持っていき、黙らせた。

「女王…その先は、言わせませんよ…。」

「意地悪な人ね……」

 女王はそう言い、頬を膨らませる。ヘントロートは、そんな子供っぽい女王の表情を見て、もうほとんどの復讐心は、無くなっていた。そして、今一度、兄に相談しようと考えたのだった_________________。

 

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女王と双子。 尾道 洋 @hannaritouhu

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