かちかちかち

さようならさようならと唱えながら、

かちかちかち。

安物の蛍光灯の光をたっぷりと反射して、

それから、惨めな私の顔もまざまざと映し出す。

ああ、そんな目で見ないで。

私は――を、殺すだけよ。


剃刀は嫌いなの。

簡単に切れてしまうから。

そうじゃなくて、私は断罪が欲しい。

痛みで、許されないと断ち切って欲しい。

だから、簡単に切れてしまっては意味がない。


今日も生きた。

明日もきっと生きることになる。

死にたいと唱えながら、叶えることはなく私は日々を死んでいく。

毎日毎日私を殺しながら、私はなんとか毎日を生きている。


「だったら勝手に死ねばいいじゃない」

「きっとそんな人生誰も悲しまないよ」

「あんたの人生、そんなもんだったんでしょう」

「誰にも迷惑をかけずに、早く」


簡単に死ねないからこうやるしかなかった。

誰にも言えなかったからこうやるしかなかった。

逃げ道なんて、許されない。

私は悪い人間だから、許されるはずなんてないんだから。

暗がりの中だってわかる自分の動脈のありか。

わざとそんな場所は狙わない。簡単に死んでしまっては意味がない。

だから、死なない場所を断ち切るの。

ねえ知ってる?

人間は首をはねられても、数秒は生きているって。

ねえもしかして、私もあなたもその数秒を生きているとしたら?

何もできない、そのわずかな数秒を、生かされているとしたら?


こわくて、涙も出ないの?

笑わせてくれるじゃない。

ねえ、あなたが私をこうさせたのよ。

私を壊したのはあなた。

ねえ、まったく違う人間だと思ったのは何故?

ヒトの鼓動は同じよ。逃げたって一緒。此処が切れれば、人は立てなくなるの。知っているでしょう?


ねえ、震えた瞳に私を映してどう思うの?

あなたの前に立つ私は、あなたにはどう見えるの?

さあ、息を吸って。カウントはしない。どうせカウントしたって、結果は同じよ。

痛くないわけがないじゃない。

見えない傷だけが、痛いとでも思ったの?


さあ、早く、さようなら、さようなら。

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