夢の前に


あーあーあー、誰かぶち殺してくんねぇかな。

もうこの際痛くてもいい。とびきり痛くて、叫ぶほどでもいいからさ。

手っ取り早く、きれいさっぱりぶち殺してくんねぇかな。



できたらきれいな死体になりたい。

頭蓋半壊して中の大脳ぶちまけるよりは、もうすこしましな死体がいいな。

あぁ、それから内臓撒き散らすのも、できたら回避したい。

内臓撒き散らしても、脳ミソ半分でも、最悪生き延びちゃうから困ったもんだよね。



なんて願いながら、死に怯えてるんだから困ったもんだ。

大切なものを見つけたから、死ぬに死ねないこの現状。

今これを手放したら、きっと未練たらたら地縛霊コースまっしぐら。



逃げなのはわかってる。

それ自体が悪いわけでもないことも。

ただ走りすぎたのだ。

がむしゃらに走り抜けて、独りだと自覚して一気に力が抜けたんだ。

この願望は悪い癖。なかなかなおらない、悪い癖。




だからそのかわり、小さな痛みを欲した。

惨めな代替行為。

私にしかわからない、これは楔。

打ち込んで、塞いでなんかやらない。私の意地。

塞ぎかけた穴にわざと太い楔を突き刺す。痛いと言うよりは、これは苦しいに近い。

ああ、そうだ。

苦しいね、くるしい。

ということは、生きていたんだ。

生きていたんだった。

耳元で金属が揺れてちりんちりん音がなる。

これは私の虚勢。

それでも、胸を張って生きるための必要な虚勢。




耳元の冷たい金属に指先で触れる。温度はない。冷えた指先と同じ温度。

ああ、今私が例えば死んで、このピアスを外せる人は居るのかしらなんて、

馬鹿みたいなことを考える。

ボディピアスの外し方なんて、つけることがないと知らないんじゃない?

じゃあ火葬される瞬間まで耳元の楔たちは、ここに打ち込まれたままなんだろうか。

それとも切開してでも取り除くんだろうか。あーあーあー、今まで大層可愛がってきたピアスホールたちが、ただのびらびらになっちゃうのー?

なにそれ、ちょー悲しい。

んははは、ばっかみたい。




私の肉と骨を灰にして、その中にぎらぎら光るサージカルステンレスがキラキラ光を乱反射するんだろうか。

つやつやとしたステンレスのひんやりとした温度ごと、誰かが記念に持って帰ったりするのかな?


ああ、ばかだな。

そこに意思はないのに。



それとも骨のひとかけらを大事に大事にこっそり持って帰って飲み込んだりするのかしら。

そしたら、その人に私の骨が溶け込んで、ああきっといつまでも一緒にいれるなあなんて。




ここまで考えて馬鹿馬鹿しくて嫌になる。眠る前に、夢の前に。


頭のなかは卑屈で矮小な虚勢と願望だらけ。

見つけても放っといて。

見つからなかったら探さないで。

こんな人間がいたこと。

こっそり生きていたこと。


どうか忘れて、骨は拾わずに埋めちゃって。

きっと獣たちが食べてくれるよ。骨だけを残して。





さあ、朝が来るまえに。

明日が今日に、なる前に。

悪夢でも良いわ、私に夢を見せて。

おやすみなさい。

私。

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