神を持たずに砂上を歩く






世界が丸いとして、君がいる場所にたどり着くとして、何か問題があるんだろうか。一体どこにいるのかもわからないけれど。君に出会えるまで、あとどれくらいなんだろう。

わからないまま、今日も砂上を歩く。



街は砂漠になりました。

ビル群は森になりました。

海は、変わらず海のまま。

人間の数は見る間に減って行って、ほかの生き物たちは増えていきました。



君が生きているのかもわからない。それでも僕は歩く。

君を見つけられるかわからなくても。



砂が世界を覆う。すべてが風化していく。

少なくなってしまった人類は、さらに数を減らしていく。

それでも、歩く。


早く、君に会うために。





洞窟の中。周りを岩盤に囲まれた中に自然にできた、空洞の中に教会と呼ばれる場所があった。硬く分厚い岩盤の中腹にステンドグラスがはめられている。その意味はわからないし、誰がそれを施したのか、今の僕らにはわからなかった。真実を知らなくても、その場所は美しかった。

貴重な太陽光がガラスを通って、色とりどりのひび割れた光を乾燥して冷たい岩の地面に降り注いだ。



砂に埋もれて朽ちていくのを待っている多くの木製の長椅子、かろうじて原型を留めている祭壇、どこかの神を模した偶像は骨組みだけが奥の壁に縫い付けられたように在る。何かの罰のように。

その光景を目にして、僕は集まりだした人たちの間を縫って砂の世界へと再び歩き出した。





世界が丸いとして、君がどこかで生きているとして僕が君に会う日が来るとして。

例えばばかりの毎日の果てに、その終末に、果たして君は居るんだろうか。


この岸壁に囲まれた瓦礫の中の教会で、骨組みだけになってしまった貼り付けられたカミサマに祈ったとして、君ともう一度生きることができるだろうか。



答えが欲しいわけではない。この望みを否定されたら、きっともう歩くことはできなくなってしまう。君に会うことができなくなってしまうのではないか。その不安は僕の中で大きくなっていって、呪いのようにまとわりついて離れないから、もう何にも縋り付いてやるつもりはなかった。


僕はきっと、僕自身さえも信じていない。だからきっと、未来さえも思い描くことができないんだ。


岩の地面の上を砂がさらさらと流れていく。


人類が長い時間をかけて築き上げてきた物は、風と砂で削られてしまった。その欠片も、流れていく砂の中に含まれている。

もしかしたら、今まですれ違ってきたたくさんの人たちの欠片もこの砂の中に含まれていたとしたら?


いつか僕も砂になれるとして、そしてその中に君も砂になっていたとしたら、そしたら二人でどちらかわからないくらいに混ざり合うことができるのかな。

でもそれは嬉しくないなあ。つま先で流れていく砂を撫ぜると、跡が残って少し経ったら消えてしまった。


どちらかわからなくなってしまったらきっと悲しい。悲しいと感じていることすらも、分からなくなってしまう。だからきっと、悲しいね。































人類など、とうの昔に滅んでしまった。彼らが遺していった人類の遺物は地表にとどまったまま、風化するのを待っている。墓標のように見えるビル群。アスファルトを砕き根を張る木々や高層階に巣を作る鳥たち。

人間の残した古いネットワークを使って、人間たちを助ける名目で量産されていたアンドロイドたちが主を探して歩きまわっていた。人間を模して造られた彼らは、人間のためではなく自身のために、自身の意志で生きていた。


彼らの命は終わらない。内蔵バッテリーは外部の自然エネルギーを吸収する仕組みになっており、充電されてしまう便利な仕様となっているからだ。彼らがいくら死を望んでいたとしても、彼らの体は超合金と形状記憶素材で出来ており傷をつけることも困難である。


いつの間にか芽生えてしまった自我がネットワークで共有され、個々が人間と同じように考え、意志を持ち行動を始めた。


彼らに、神は要らない。

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