ここにおいで 君の××な君と一緒に



君が捨てていった君の欠片を、拾って歩く。

廊下の先、海の底、枕の下、丸めたバスタオルの中、靴箱の上、サドルの後ろ、カバンの底。

記憶の中の指先の桜色、跳ねた髪、伝う汗。

そのどれもに、君の欠片。


ひとつひとつ拾っては、大事に仕舞う。

君がいつか必要になったときのために、君が空っぽになってしまった時のために。

大事に大事に仕舞っている。

宝物みたいに。


きっと君は嫌がるけどそれでも拾い集めた欠片。

その脱げかけた猫の隙間から見える瞳がおびえているのを知っている。

君がそこから出たくなったら出ておいで。

君が脱ぎたくなったら脱ぎ捨てて。

それまでここで待っているから。

でも、できるだけ早い方がいい。

早く君の背中を撫でたいから。


君が捨てた君自身の欠片を今も大事に持っている。

届かない場所で、見えない場所で、それでもどうか幸せになっていてほしい。

どうか、笑っていて。

君の嫌いな君は、少しずつ食べちゃうから。

なかったことにしても、大丈夫。


君が嫌いな君も、痛いと泣いた傷も、悪い癖の話も。

全部全部食べてあげるから。

全部愛して、食べてあげる。


君は気づかないままでいい。

君は知らないままでいいよ。

だからどうか、笑っていて。














無理して笑う君のことだから、きっとまた疲れているんでしょう。

疲れたんならここにおいで。

止まり木くらいにはなれるから。きっと大丈夫。

背中なら、押してあげる。

頭を撫でてからそっと、守るように押してあげる。

だからほら、ここにおいで。また、あの頃みたいに甘えにおいでよ。




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