追記 長男(一)

― 王国歴1036年秋


― サンレオナール王都



 皆さんこんにちは! 僕の名前はギヨーム・ルクレール、六歳です。家族は父上、母上、弟のアンリに妹のミレイユです。僕はもう大きい男の子ですからこの間から貴族学院初等科に通い始めました。時々宿題も出て、一日中遊んでばかりの弟や妹と違って結構忙しいのです。


 父上は王宮で近衛騎士として働いています。年に一度の騎士道大会に出場する父上はそれはそれはカッコイイのです。でも母上はもっとカッコイイのです! 何てったって魔術師なのですから! でも母上に魔法を使って見せてくれるように頼んでもいつも駄目だと言われます。


「魔法というものは遊びで使ったり人に見せびらかしたりするものではないのですよ、ギヨーム」


「そうなのですか、母上」


「良く言うぜ、アナ=ニコルさんはよぉ。遊びで使うな、なんてどの口が言ってんだか。ギヨーム、昔コイツな、魔法使いまくってて俺すっかり騙されてたんだぜ!」


「だまされた?」


「えっ、旦那さまったら、ギヨームの前で!」


 母上は何だか少し慌てています。


「父上と初めて会った時、変幻魔法で違う姿をしていたから私だと分かってもらえなかったのです。でも最後には私が父上の愛を勝ち取ったのですよ」


「何かすっげえ端折はしょってねぇか?」


「わあ、母上が勝ったのですか? 母上は魔法を使うと騎士の父上よりお強いのですね!」


「それはちょっと意味が違いますけれど……」


「いやだから俺が負けたわけじゃねえって。それにチートな能力と純粋な騎士道を比べられてもよぉ……敵うわけねぇじゃねえか!」


 僕はもう大きい男の子なので、呑気に悪戯ばっかりしている弟やまだまだ赤ちゃんの妹と違って、こんな風に父上や母上と少し難しい話も出来るようになったのです! 父上はいつもぶっきらぼうで威張っていますが、母上とはとても仲が良いのです。ルーシー叔母様によると『らぶらぶ』と言うそうです。




 僕は時々学院から帰ってくると庭の東屋に行きます。弟のアンリがギャーギャーうるさいので、一人になりたい時もあるのです。


 アンリと一緒に遊ぶと大抵はいたずらの手伝いをさせられるのです。ミミズや蛙を捕まえて、妹のミレイユや侍女たちを驚かすとかです。執事のセバスチャンがいつも言っています。


『アンリお坊ちゃまは全く、子供の頃のどなたかにそっくりでいらして……私ももう若くありませんから、いたずらっ子を追い掛け回す体力はございません!』


 誰にそっくりなのかは知りませんが、僕は遊ぶならもっと知的なことがしたいのです。僕は何と言ってもジキコウシャクですから。父上の次にコウシャクになるのが僕なのです。ココロガマエというものが必要なのだそうです。僕に比べると弟のアンリは二番目だからか気楽そうです。でも従兄弟のエティエンには言われました。


『王太子の方が次期侯爵なんかよりずっと窮屈だよ、ギヨーム。毎日毎日勉強に剣の稽古、もう少ししたらダンスまでやらされるようになるんだ。お前の気持ちも分かるけどさ。まあとにかく長男はつらいよな』


 確かにオウタイシの方がずっと大変そうです。エティエンは将来王様になるのです。学院には行かず先生達がエティエンの所へやって来て、朝から晩まで色んな勉強をさせられています。だから僕も文句は言いません。




 僕が庭の東屋に居ると、たまに黒猫のシャルボンがやって来て僕の隣に座ります。僕はそういう時シャルボンの背中を撫でながら話を聞いてもらいます。


 野良猫のシャルボンは一番父上に懐いていて、父上を見ると駆け寄っていつも抱っこされています。僕とミレイユは時々背中を撫でさせてもらいます。アンリは乱暴なところがあって、いつかシャルボンの尻尾を引っ張ろうとしたので、それからシャルボンはアンリを見るとサッサと逃げるようになってしまいました。


 シャルボンに聞いてもらうのは学院のことや、友達のことです。時々ミシェルの話もします。アンリと同い年のミシェルは母上同士が友達で良く一緒に遊ぶのです。彼女はとっても可愛いくて、お喋りです。


『アンリみたいなガサツな男はキラい! でもギヨームはね、いまいち押しがよわいっていうか……二人とも私のキジュンにはミたないのよ! 男はやっぱりセージツでホーヨーリョクがあって、イザという時にはカッコよくきめる人じゃなきゃ』


 ミシェルは僕も知らないような言葉をいっぱい使います。実はミシェルはお母様のアメリおば様やお祖母様達の言葉を真似ていただけで、本人も良く分からず言っていたみたいです。ある日ミシェルに色々言われて落ち込んでいた僕に母上がそう教えてくれました。




 今日もシャルボンがやって来たので僕は学院であったことを話していました。


「僕は学院の皆と仲良くなりたいのだけど、あいつはダンシャクケだからシシャクケだから仲良くするなとか言う友達も居てね。そんなの別に気にしなくてもいいじゃない」


「ニャン」


「お前は良いよな、ジキコウシャクだから、なんてことも言われるよ」


「ニャー」


「学院生活も時々大変なんだ、シャルボン」


「ミュー」


 シャルボンは僕が言っていることを分かっているみたいに返事をしてくれます。その時、正門が開いて馬の蹄の音が聞こえてきました。立ち上がって見るとやっぱり父上でした。


「シャルボン、父上がお帰りだよ、行こう」


「ニャン!」


 シャルボンは走ると僕よりずっと速いのです。


「もう待ってよシャルボン!」


 シャルボンはあっという間に玄関前に居る父上の腕の中に飛び込んで行きました。


「父上、お帰りなさい」


「おう、ギヨーム」


 父上はシャルボンに頬ずりをしています。そしてシャルボンは父上の顔を舐め回しています。


「ニャーニャー」


「やめろシャルボン、コラ、くすぐったいぞ!」


 父上はそうおっしゃりますが、とても嬉しそうです。


「アンリとミレイユは?」


「二人ともさっきは居間に居ました」


「じゃ、アイツらの顔を見てから着替えるとすっかな」


「母上はまだお帰りではないみたいです」


「そうみたいだな。なあ、シャールボン」


 父上はニコニコしながらシャルボンの額にキスまでしています。


「ニャァーン」


 そして父上はシャルボンを抱っこしたまま屋敷に入っていきました。時々僕は父上とシャルボンの仲の良さがうらやましいです。



長男(二)に続く



***ひとこと***

本編終了後すぐ後、初等科に入学したギヨーム君視点のお話です。登場人物皆さん、相変わらずですね。

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