追記 近道(二)

 ボルデュック領から王都に戻ったアナに、ある日ジェレミーは昔のミラ王妃の部屋から何冊か本を持って来て渡す。彼はそのうちの一冊『淑女と紳士の心得』という題名の本を指差した。


「お前には色々教えこまないといけないからな。超初心者はこれから読み始めるのがいいだろう」


「これは……礼儀作法の本でございますか?」


「あ、ああ。まあそんなもんだ。とりあえず今のところは第一章だけで我慢してやる」


「???」


 その本を初めて開いた時、挿絵が目に入ったアナは悲鳴を上げて卒倒しそうになった。まあ作法には違いないが、ねやでの技術を磨くための本だったのだ。


 第一章は女性の純潔を損なわないで楽しむ方法、第二章は基本的には何でもありで、女性が身籠らないようにする方法などもあった。第三章は紳士と紳士バージョン、第四章はなんと淑女と淑女である。



***



「オイ、あの本読んだかぁ?」


「……ハ、ハイ」


「じゃあ、どのくらい習得したか見てやる。第一章で読んだテクの中で何でもいいからヤッてみろ」


「あの、ジェレミーさま、今まで田舎の領地で生まれ育ったので王都の方々の風習はあまり存じません。やはり都会の方々は奔放なのですね。この本に書かれてあることを皆さま実践されているのですか?」


「いや……まあ、人によると思うが」


「ジェレミーさまをお悦ばせしたいのは山々なのです。でも私不慣れなものですから、全然自信がなくて……上手く出来ないかもしれないと思うと……」


 真面目なアナだった。


「いや、別に俺もお前の気が乗らないのに無理強いしようとは思ってないし……(俺って何気におあずけばっかじゃねえか!)」



***



 王都に夏がやって来た。


「もうそろそろ第二章に入ってもいいよな!」


「えっ、私たちまだ婚約中ですけれど……」


「いや、だからもう式まで一か月切ったし!」


「……あの、王都の方々はそのように見切り発車なさるのですか? アメリや王妃さまに聞いてみ……」


「オ、オイ、それだけは頼むから止めてくれ! すみません、式まで待ちます!」


「ええ、式が楽しみですわね、ジェレミーさま。白い近衛正装の貴方さまのお隣に花嫁として並べる私は幸せ者ですわ(そしてそのお姿のジェレミーさまと初夜を迎えられるなんて……きゃー♡)」


「お、お前、なんか目がイッちゃってないか……」


 まあそんなこんなで無事式の日を迎え、二人は結婚しその後仲睦まじく暮らしましたとさ。めでたしめでたし。



******



セバスチャン「旦那様、奥様、御婚約中から他の登場人物の方々から問い合わせが続出です! 出番が大幅に削られた、降板されられた、という苦情まで!」


フロレンス「お兄さまったら柄にもなく大恋愛の末、電撃結婚なんて羨ましいですわ」


王妃「貴方たち、本当はどうやって知り合ったのよ? 何か怪しいのよねぇ。アナ、今度お茶にご招待するわ! とことん語り合いましょうね!」


国王「へぇ、あの親愛なる義弟君がねぇ? ルクレールの御両親が『アナたぁん♡』『ジェレたん♡』なんて呼び合ってるっておっしゃるんだよ。本当かどうかともかく、彼の顔見る度に吹き出しそうで笑いを我慢するのが大変なんだよ」


クロード「俺達のこと、婚約期間が異様に短いって揶揄からかってくれたよなぁ、ジェレミー。お前らの方がよっぽど短いじゃないか!」


サンドリヨン「ポッポッポッ!」


ビアンカ「サンドリヨンと動物たちが活躍の場がなくなったけれどアナさんが嫌がらせを受けなかったのは良かったって言っています。(それに……すぐにおめでたい知らせが聞けそうね)」


リュック「おーい、ルクレールよぉ! 俺達には『このバカップルが! お前らもうヤッたか?』なんて散々言ってくれたよなぁ? なんか本編ではさ、あまりに素っ気なくてイジれなかったんだよね。ヒヒヒ」


アメリ「そうよそうよ、ジェレミーさま? ご婚約おめでとうございます! 貴方たちはもうあの本の第二章まで入ったのですか? それとも第一章止まりですかぁ? ウフフ」


マチルダ「晩餐会でも式でもジェレミーさまがあの女にベッタリ。嫌がらせも出来なかったわ! キィー!」


マチルダ手下男「本当は嫌だったんだよな、こんなコト引き受けるのは」


酔っ払い「で、俺の相手をしてくれるっていうカワイコちゃんはいつ現れるのかなぁ、グフフ」


マチルダ手下女「そこの酔っ払い、アンタは大恥かかなかっただけましと思いなさいよ!」


御者のヒュー「お坊ちゃまは少し前まで美少年を追いかけておられました。婚約されて以降はいつも馬車の中でアナ様とイチャイチャされていますよ。穴はないですけれどちょっと叫んでいいですか? 『奥様は制服フェチー! 実は旦那さまもー!』あ、これ私が申したことは内緒にしておいて下さい」


モード「花嫁衣装に細工をしていたところ、アナお嬢さまに犯行現場を押さえられて諭されました。私を雇った悪人たちの息のかからないアントワーヌさまのお屋敷に引き取られました」


ドウジュ「若、今作でマチルダを懲らしめる役、なかなかダークで結構気に入っていたんですが……」


アントワーヌ「僕は愛しの彼女の姿絵が手に入らなかった……しょうがないね、ドウジュ、次作で巻き返しを図るしかないね」


ロイックの悪妻(マチルダ二号)「ロイック、ルクレールさまたちと最近お出かけにならないのね。(ジェレミーに接近する機会がないじゃないの!)」


ロイック「ラブラブ新婚家庭の邪魔は出来ないよ」


シャルボン「私、登場する必要がなくニャりました。けれど屋敷の使用人達の前でもジェレミーさまとイチャイチャしたいのです。時々現れますニャ!」


アナパパ「で、本編と同じように孫の顔はすぐ見られるのかなぁ?」


ルーシー「お姉さまったら何だかんだ言ってラブラブで羨ましいなぁ」


テオドール「姉上がお幸せなら私はそれでいいのです」


フランシス「僕って変わらず二人のキューピッド役だけど、後半の出番が削られて良かったよ。だってさ、ルクレール中佐に壁ドンされるなんてちょっとキツかったんだ」


イザベル「ニッキーがあっという間に寿退社してしまったわ! あの子目当てに来店されてたのはルクレール中佐だけじゃなかったのに、もう!」


バーテンダー「記憶力の良い私は本編ではニッキーの正体の鍵を握る功労者だったというのに役を下ろされました……」


ニッキー「大混乱を招いてしまって……皆さんお騒がせしてすみません。そういう私も出番が大幅に削られました。でもニッキープレイのためにこれからも時々出現します!」



     ――― 近道  完 ―――



***ひとこと***

どっちにせよ、最後二人はラブラブバカップルでした!

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