第2話
それぞれが部屋で適当に過ごしているのだろう。隣の部屋では荷物を整理しているであろう物音がガサゴソと聞こえてきているし、一階からは親父と明乃さんの話し声も微かに聞こえてくる。
同じ家に住むことになったからといって、俺の生活のリズムが変わるわけではない。普段の休日は部屋でゴロゴロしながら無作為に時間を潰し、適当な時間になったら飯の用意。
親父が外で働いているとあって、家の家事は基本的に俺の仕事だ。料理洗濯掃除等の家事は出来るつもりだ。
そして現在午後三時、休日は大体この時間から夕食の用意を始める。一階に降りるとリビングでは親父と明乃さんが談笑をしており、俺が一階に降りてきたのに気が付いたのか、こちらを見たので軽く会釈をしておく。
うちは台所とリビングは扉で仕切られている、つまりは別々なのだ。台所に入りリビングを隔てる扉を閉める、
行平鍋に水を入れ、昆布を沈め火にかける。火にかけている間に冷蔵庫を物色し何を作るか考える。鳥の胸肉とモモ肉が目に入り、卵もまだまだ余裕がある。玉ねぎ、青ネギもあるので今日の献立は親子丼で良いだろう。
胸肉とモモ肉を取りだしある程度解凍させておく。その間に玉ねぎを薄切りにして皿に置き、モモ肉の筋を取り、胸肉の皮を剥ぎ、玉ねぎとは別の皿に置いておく。
フライパン途別の小さめの鍋に少量の水を張り火にかけ、モモ肉の皮を下にして焼き色を付ける。焼いている間に胸肉を適度な大きさに切り、小さめの鍋のお湯が沸いたら胸肉の皮を茹でる。そうすることで皮がプルンとした食感になるのだ。
その間に行平鍋の湯が煮たって来たため鰹節をその鍋に入れて再度加熱、沸騰したところで昆布、鰹節を掬い上げる。
その出汁は親子丼の方でも使うので、ボウルにお玉大さじ十二杯程の量を取っておく。
本来、昆布は沸騰する前に取りだし、鰹節は濾すものなのだが店に出すようなものではなく、一般家庭の夕飯だ。ある程度適当でも問題ないだろう。
塩、薄口醤油で先程の出汁の味を整えて汁物の方は一旦終了。食べる直前に他の具材を準備して、その出し汁を上から掛ければ完成だ。
汁物が終わった段階で、モモ肉の方にも焼き色が付いてきたため、フライパンから上げて皿に置いて粗熱を取っておく。本当に表面に焼き色がついてる程度だ。後でまた火を通すので今の段階で中まで火を通す必要はないのだ。むしろここで火を通しすぎると肉が固くなってしまう。
茹でていた皮も取りだす。胸肉、粗熱を取ったモモ肉、皮を適度な大きさに切る。
先程取った出汁に出汁、醤油、みりんを2:1:2の割合で割下を作り、その割下をフライパンに入れて火にかける。そこに先程切った玉ねぎ鶏肉を入れて煮たたせる。肉に火が通ったら火を止めて、食べる直前に卵を入れれば完成だ。
すべての工程が終了し、あとは米を研いで二十分ほど水に着けずに置いておく。そうすることで炊飯器の釜にベットリとくっつきづらくなるのだ。
米を炊飯器にかけて夕飯の用意は殆ど終了した。
休む間もなく今度は風呂の用意をする。浴槽を洗い、栓をしてスイッチを入れる。やることと言えばこれくらいなのだが。
* * * * * * * * * *
浴槽に湯が溜まり、風呂の用意は完了した。荷物の整理を終えた沙織さん、明乃さん順番に入り親父、最後に俺だ。
親父が風呂な入った時点で夕飯の最後の用意を始める。ワカメを茹でて色出しをして汁物用の器に四人分に分ける。具がワカメだけというのは寂しいので絹ごし豆腐を冷蔵庫から取りだし小さめに切って器に入れる。余った分は冷奴にでもすればいい。
冷蔵庫から青ネギを出して、親子丼用に薄く斜めに、冷奴用に細かく刻む。冷奴の上に細かく刻んだネギを乗せて完成、めんつゆでも醤油でも好きなものを掛けて貰う。
調味をした出汁、親子丼のフライパンを火にかける。卵を3つ冷蔵庫から取りだし黄身を軽く潰す程度にかき混ぜる。親子丼の方が煮えてきたら卵を流し入れ蓋をして数分置いておく。汁物の方は沸騰したところで器に入れる。それと同時に親子丼の方も完成したので、三人分のどんぶりに米を盛り親子丼の具を上にのせ、先程切った青ネギを散らして完成。
夕飯が出来上がったタイミングで親父が風呂から上がった。まぁタイミングよくすべての料理が完成したのはいつも親父が風呂に入ってる時間を逆算してのことだ。
三人がリビングの机に座っていたため、親子丼と汁物をお盆に乗せて持っていく。沙織さんが席を立ち手伝おうとしたのを手で制した。特に理由はないが、配るだけの行程なので人手が足りないと言うことはないのだ。
「これを拓海さん一人で作ったんですか?」
「ええ、いつもやっていることなので。先に食べていてください、俺は後で食べるので。食べ終わった食器は流しに置いてくれれば大丈夫です」
三人にそういい、俺は自室に引き上げ風呂の用意をする。
俺が風呂から上がる頃には三人とも食べ終えていた。俺も自分の分を暖め直しさっさと食事を済ませる。食べ終わった食器を洗おうと流しに行くと、すでに三人分の食器が洗われていた。親父はこういうことは基本的にやらないので、明乃さんか沙織さんが洗ってくれたのだろう。
「拓海くん、夕飯の用意全部任せてしまってごめんなさいね」
「お気になさらず。いつもよりも人数が増えただけですから。お口にお合いしたのなら幸いです」
「ええ、とっても美味しかったわ。御馳走様。それと拓海くん、そんなに畏まった言い方はしなくてもいいのよ?まだ慣れないかもしれないけど、私たちは今日から家族なんだから」
「・・・・・・まぁ、そのうち」
明乃さんに一礼し、自室へと戻る。現在夜の七時、しかし勉強はしない。テスト前にやれば赤点は回避できる。受験のことはまだ考えていないが、そのうち本格的になるのは間違いない。
受験シーズンに入ったら本格的に勉強をするから、今の時期に遊ぶだけ遊んでおく、というダメ人間街道まっしぐらだが、やる気がないときに勉強をしても身に付かない。
それだけやる気というのは重要で、自分の好きなことはすぐに覚えられるが社会の単語や英単語をなかなか覚えられないのは単にやる気の問題なのだ。しかもこのやる気というのが根底に染み付いてしまっていて、やろうと思っても根っこの部分ではやる気が起こっていないため、結局勉強ができるかどうかはその人の素質によるところが大きいだろう。
閑話休題
ベッドに寝転がり、夕方に読んでいたライトノベルを捲るが数十分で読み終わってしまった。
枕元に置いてある携帯を手に取りネットサーフィンをするが、それもそこまで長く続かない。だからと言って寝るにはまだ早すぎる。明日は日曜で休日なのだ。
本棚から別の本を取り出そうとしたところで部屋の扉がノックされた。親父は基本的にノックはせずにずかずかと早に入ってくるため、沙織さんか明乃さんだろう。
「どうぞ」
部屋に入る許可を出すと遠慮がちにゆっくりと扉が開かれ、沙織さんが姿を表した。
「ええっと・・・・・・こんばんは?」
髪がまだ乾ききっておらずしっとりと水分を含み、ピンクのパジャマに身を包んでいた。髪の毛乾かさないのかと思いながら、
「何か家について分からないことでもあった?」
「ううん、そういう訳じゃないの。ただ、ちょっと・・・・・・」
「とりあえず、髪の毛乾かしたら?早く乾かさないと髪の毛痛んじゃうよ?」
机の引き出しに仕舞っていたドライヤーを取りだし、机に付いているコンセントに繋ぎ、座りやすいように椅子を引く。椅子をポンポンと叩き座るように促すと沙織さんはこちらに歩みを進め椅子へと座った。
俺はドライヤーは基本的に使わないが、親父に押し付けられたため、机で眠っていたのだ。
ドライヤーのスイッチを入れ髪に風を当てて乾かしていく。
「やっぱり、優しいな・・・・・・」
風の音でよく聞こえなかったが、何かを呟いたことは分かった。まぁ追求する必要はないだろう。
やがてか身を乾かし終えドライヤーを机の上に置く。コードを結んで机の中に仕舞おうとしたところで少し気になったことが出来た。
「部屋にドライヤー無かったっけ?」
「うん、無かったよ」
「じゃあこれ持っていっていいよ。俺基本的に自然乾燥だし」
「男の子も髪の毛のことちゃんと気にした方が良いよ。ほら、座って。やってあげるから」
「いや、別に良いって。そのうち乾くから」
「いいから・・・・・・!」
ベッドの上に座っていた俺の手を取り無理矢理椅子に座らせる。俺の後ろに沙織さんが立ち、ドライヤー之スイッチを入れて俺の頭に風を当て始めた。そのまま頭をわしゃわしゃとしながら、水気を飛ばしていく。
「ねえ、夕飯君が一人で用意したの?」
「君のお母さんにも同じこと聞かれた」
「美味しかったよ、御馳走様、ありがとう」
「・・・・・・別に」
「拓海くんって料理上手なんだね」
「一年以上やってれば誰だって出来るようになる」
「そっか・・・・・・羨ましいな、あんなに料理が出来て」
髪を乾かし終えたのか、コードを結んでこちらに手渡してくる。先程も言ったが俺は基本的にドライヤーは使わない、沙織さんに渡そうとしたら頑なにこちらに渡そうとして来たので結局俺のところに戻ってきた。
「それで、何か用事があってきたんじゃないの?」
「あ、うん、ええっと・・・・・・拓海くん明日時間あるかな?」
「明日?まぁ暇だけど。休日に遊ぶような知り合いはいない」
「明日、付き合って欲しいところがあるんだけど・・・・・・駄目かな?」
そこでなぜ頬を赤くしながら聞いてくる。断りたくても断りづらい状況にするな・・・・・・
「分かったよ・・・・・・」
「本当に?!」
なぜ驚いているのか分からないが、とりあえず首を縦に振っておく。
こちらに背中を向けて軽くガッツポーズをしている。こんなよくわからない行動とるような子なの?
「それだけ!じゃあ、お休み」
そういって部屋を出ていった。寄しくも出掛ける予定が入ってしまった。そのまま特にやることもなく漫画を読んで時間を潰し、日付が変わる頃に部屋の電気を消して目を閉じた。
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