新しい家族はクラスメイト?
イワムラサトシ
第1話
俺の両親は俺が中学校を卒業したころに離婚をした。離婚の原因はよく分からない。ただ最初から両親は双方そこまで仲が良くなかったのだろう。両親が仲良く話している場面を俺が見たことはないし、家族ぐるみで出かけたことなんて一度だってない。
俺自身は両親と不仲だったわけではない。親父とも、お袋ともそれなりに良好な関係だったと思う。だから離婚の話を告げられた時は正直悲しかったんだと思う。思うと言っても、某ライトノベルのお兄様のように、感情が欠落しているわけではない。感情があまり表に出ず、激情にかられることが少ないし、いずれそうなることが分かっていたのかもしれない。
さて、現在俺は高校二年生。なぜ今更中学三年生の頃の話を思い出しているかって?これはただの現実逃避だ。今目の前で起こっている現象から、目を逸らしたいだけなのだ。
「拓海、今日から一緒に住むことになった佐藤さんとその娘の沙織さんだ。知っているだろうが、挨拶をしろ」
「沙織、貴女も挨拶をしなさい」
「ええっと……相馬君、いや、拓海君?これからよろしくね?」
頬を赤らめ俯きながらもじもじとしながらもきちんと挨拶をしてくる佐藤さんはやはり優等生なのだろう。クラスでも大体そんな感じだ。
「あ、あぁ……よろしく」
本当に、こんなライトノベルみたいな展開が現実に起こるとは、俺の人生まだ何があるか分からないものだ。
* * * * * * * * * *
親父の再婚相手が佐藤さんの母親、佐藤明乃さんだった。これが今回のことの顛末だ。
佐藤さんは小さい頃父親を交通事故で無くしており、ついこの間までは母子家庭だったのだ。ついこの間まで、というのは俺の親父と再婚をしたからだ。
佐藤さんと俺の親父が同じ職場で、親父が離婚した後に二人は仲良くなったらしい。これだけを聞くと親父が女を引っかけているクソ人間かと思われるが、親父は生来困っている人を放っておけない質なのだ。
恐らく母子家庭と知っていた佐藤さんの母親となにかあったのだろう。そして離婚した後に仲良くなって今に至るということは、単純に母子家庭の佐藤さん親子を放っておけなかったから、とか言いそうだな。離婚もしていて独身だったのも決め手だったのだろう。言い方が悪いが。
ちなみに佐藤さんの母親と俺の親父が同じ職場だったことは俺は全く知らない。親父は基本的に職場の話をしないからだ。
「これからいろいろと大変かもしれないが、今日から俺たちは家族なんだ。みんなで協力しよう」
居間のテーブルを囲ってる四人に親父がそう言い、佐藤さん親子が頷く。話が終わったと判断した俺は、この後も得に話すことはないだろうと判断し、自分の部屋に戻るために席を立とうとした所だった。
「拓海、沙織さんの荷物の整理手伝ってやってくれないか?出来る範囲で構わない。沙織さんも、拓海をこき使ってやってくれ」
はぁ?こういうのって普通一人でやらせるもんだろ?女子の荷物の整理、しかも同い年の異性に見られたくないような荷物だって結構あるはずだ。断る意思表示をしようとし振り返ろうとした瞬間だった。
「は、はい……そう、拓海君、手伝ってもらえる?少し重い荷物が多くて、私一人だと大変なんだ……」
上目遣いでこちらを見上げながら遠慮がちにお願いをしてくる佐藤さん。本当は断るべきなのだろうが、ここで断っていきなりギスギスした関係になるのは精神衛生上、余りよろしくないだろう。
「……分かった」
佐藤さんが立ち上がり、自分についてくることを確認しながらゆっくりと歩みを進める。幸い離婚した後も家の清掃は行き届いており、部屋もいくつか余っている為、誰かが急に来て宿泊するということになっても対応できるようにはなっている。まぁクラスに仲のいい人なんてほとんどいないから、そんな事態になることはあり得ないと思っていたんだがな。
俺の部屋の隣が佐藤さんの部屋だ。部屋には一切の装飾品は無く、学習机、備え付けのクローゼット、ベッド、それと佐藤さんの荷物であろう段ボール箱が複数。これだけだ。
先に佐藤さんが部屋に入り、俺はその後に続く。扉は閉めずに、その扉の前に俺は立った。
「それで、俺は一体何をすればいい?」
「……ねえ、少し話さない?」
「話す?一体何を?」
佐藤さんは俺の横を通り過ぎ、部屋の扉を閉める。おもむろに段ボールを開けたかと思うとクッションを取り出しそれを床に置く。佐藤さん自身はベッドに座り、クッションの方を指さす。そこに座れと言うことだろう。
遠慮しながらクッションの上に腰掛け、ベッドに座る佐藤さんの方を見上げる形になる。
「……君は私と、ううん……私とお母さんと一緒に暮らすことが嫌じゃないの?」
「別に。確かに少し驚きこそしたけど、嫌とは思わない。まぁ佐藤さんが良いなら――」
「沙織、そう呼んで。一応、家族なんだし……」
少し顔を赤くしながら、俺にそう言ってくる。
「……沙織さんが良いならいいんじゃない?俺には決定権も拒否権もないし。決めたのは親父だ」
「そっか……拓海君はどうしてクラスであんまり話さないの?」
「……それって、今話さなくちゃいけないこと?」
「うん」
「断言すんなよ……話す相手がいないから、それに話す用事も必要も無いからね」
「……そっか、うん、分かった。ごめんね、引き留めちゃって。あ、荷物の整理は私が自分でやるから大丈夫だよ」
単に少し話をするために呼んだのか……と少し嘆息しながら沙織さんの部屋から退出し、自分の部屋に入ってベッドにダイブする。特にすることも無いな、と思いながら部屋に備え付けられてる本棚からライトノベルを一冊抜き取りそのままペラペラと読み始めた。
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