秋
さっき、僕は彼岸花だった。
今、僕は彼岸花で死人花で、赤花で後家花で蛇百合で人形草で蘭の子供で火炎草で薬草で毒藤で墓場草で曼珠沙華で神輿草で仏草で忘草で赤子花で……いっぱいいっぱい名前がある。お星さまみたいだ。ひとつひとつを呼んでいったら、お星さまと同じくらいになるかもしれない。
「わしが祈って、おまえさんが死者を慈しんだからじゃ」
おじいさんは、そう言った。
おじいさんは、さっきの子が祈ったから生まれたらしい。祈ると生まれる。そうなんだ。
「でも、おじいさんは僕の名前が増えるように祈ってないよ」
「増えとらんのじゃよ。みんな元々、お前さんの名前じゃ。死者を慈しむよう祈ったのを、受けてくれたじゃろう」
死者。死んだ人。死人の花でシビトバナ。
「これまでに死んだ人が、彼岸花をそう呼んだんじゃよ。お前さんは、そのぶんまで受けてくれたんじゃのう」
いい子じゃの、って、おじいさんは笑う。僕は嬉しくなる。
「祈るって、どうやるの?」
祈ればおじいさんが生まれるし、祈れば名前が増え……えっと、いっぱいわかる。すごい。あの子も、このおじいさんも、やり方を知ってるんだ。僕にも教えてほしい。
名前はたくさんわかったけど、祈り方は分からなかった。分からない……というより、名前と一緒に分かった祈り方は、風みたいに見えなくて、どこかに行ってしまって、どこに行ったかわからなくなるような祈りだった。あの子とおじいさんみたいに、並んで話せるような祈り方は、僕には分からなかった。
「望みと信仰かの」
「のぞみとしんこう」
「こうじゃと信じる。こうあれと望む。それが祈りじゃ」
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