第3話
「まあ、話すと、」
向かい側の席に、オレンジジュースを飲みながら、肩をくっつけて座っているゴンちゃんこと、石井ゴンザレスと、夏希こと、関夏希に、本日の事の経緯の説明を始めた。
☆☆☆
ゴンちゃんは、俗世間でいうところのオカマだった。ゴンちゃんはブラジル人の母親と日本人の父親を持つハーフだった。母親の持つぱっちりとした目と、父親の持つきりりとした眉毛を持っていた。だからこそ、春夏秋冬真っ黒な肌、男前な顔立ちとオネエさんなキャラクターが不釣り合いだった。加えて、身長も高かった。
そんな高身長であるにも関わらず、くねくねと可笑しな動きをし、女の子からは莫大な支持を集めていたゴンちゃんは、小中と同じクラスの男子からいじめに遭っていた。
真守とは高校二年の時、同じクラスになったことで出会った。ゴンちゃんは、小中の経験から本当の自分を隠し、なるべく目立たないように、なるべく人の逆鱗に触れないようにと、ひどく怯えた日々を送っていた。
真守がゴンちゃんと初めて話した時もそうだった、震えていた。真守は何とかしてゴンちゃんを助けたかった。毎日話しかけたし、休日になると、遊びに行こうと誘った。
日が経つにつれ、徐々にゴンちゃんは自我を出した。真守はゴンちゃんを自然と受け入れることができた。気持ち悪いとは思わなかったし、むしろゴンちゃんの独特なセンスと明るい人柄が、真守は面白くて大好きだった。
それから、クラスの人ともコミュニケーションを取ることがだんだんと可能になった。クラスメートはゴンちゃんの人柄に惹かれていった。やはり女子から支持を集めたので、それを良く思わない男子もやっぱりいて、軽いいじめのようなものにも遭ったが、ゴンちゃんは、負けなかったし、怯えなかった。ゴンちゃんは自分の個性を恐れないようになったのだ。
三年の時も同じクラスになり、その頃になるとゴンちゃんは、クラスの人気者になっていた。「おんなじ大学行こうぉ!!」(こんな感じだったっけ)、と誘ってくれた時は凄く嬉しかった。二人で目指そうと決めた一閃大学は偏差値が高く、進学するのが大変だったが、必死で勉強し、二人そろって入学の切符を掴むことができたのだった。
夏希とは、高校三年の時に同じクラスになり、話すようになった。夏希は校則など知ったものか、と言わんばかりの透き通る程の金髪だった。夏希は意志が強かったし、物事をはっきりと言った。そのくせ良く笑って人懐っこいところもあった。教師陣からは悪い意味で一目置かれていたが、クラスの誰も夏希のことを嫌わなかった。
「今、好きな人がいるんだよねぇ」と、ゴンちゃんが夏希の名前をあげて言ってきた時は、凄まじく驚いた。ゴンちゃんはオカマだったから、勝手にゲイだと思っていたからだ。でも、自慢の親友の恋なのだ。背中を押してあげたかったし、何より夏希は良い人だったから、真守は、ゴンちゃんにぴったりだなと感じた。
それから、三人でつるむようになった。三人でつるむと、いつも楽しくて笑顔が絶えなかった。真守から見ても、夏希とゴンちゃんはお互いに惹かれあっているように思えた。真守も二人と遊びながら、二人がくっつくように、ゴンちゃんに協力し続けた。
三人でつるむようになって、一か月半程が経った。いよいよゴンちゃんが告白する日がやってきた。放課後、ゴンちゃんは夏希を屋上に呼び出し、がちがちに緊張していた(その様子を何で知っているのかというと、ドアの影にカップル成立おめでとうクラッカーを持って待ち構えていたからだ)。
「ゴンちゃん?話って何?」
「えっと、そ、その、あ、あ、あの、う、うちは夏、夏希ちゃんが、、、!!―――」
パーーーンッッ!!!
真守は、すかさず自分が右手に握っていた紐を見た。どうやら引っぱってしまったようだった。クラッカーの先からは焦げ臭い匂いが漂い、色とりどりの細長い紙がぶら下がっていた。
ゴンちゃんと夏希も、今の音何?なんか爆発した?、へ、へぇぇ?!と辺りをキョロキョロ見ている。二人とも混乱している。
あー、終わった、死んだわ、と真守ははっきりと思った。真守の失態はこれだけではなかった。
ゴンちゃんの事を最大に祝福してあげたくて、クラスの皆に「クラッカーの音が聞こえたら、皆で屋上にあがってきて、盛大に二人を祝って!」とお願いしてあった。更に、吹奏楽部の人達には「木村カエラのButterflyを演奏して!」と頼んでおいていた。もちろん、ゴンちゃんには内緒だった。
クラッカーの音が聞こえたことで、階下から、待ってました!と構えていたクラスメートのドタドタと階段を上る足音が聞こえたかと思うと、動きを止めようとした真守の努力も虚しく、「二人ともおめでとう~~!!」とドアから飛び出してしまった。吹奏楽部の皆も三日三晩かけて練習したButterflyの演奏を始めてしまった。
何がおめでとうなのか、状況を理解できていない主役二人は、驚きを通り越して、固まっていた。
真守は、非常に非常に慌てた。人生で一番のやらかしだった。
「ゴンちゃん!ごめん!僕が間違えてクラッカー引いちゃって、その、、、」
おい、真守間違えたのか?、真守どういうことー?とクラスメートが口々に言った。
この騒々しい中、そんなことなど露知れず、吹奏楽部はButterflyを演奏し続けた。早く披露したくてたまらなかったのだろう。とても気持ちよさそうだった。
「ま、まもちゃん?こ、これは、、、」
混乱しすぎて、魂ここにあらずなゴンちゃんが真守に尋ねてきた。
「ごめん、、、ただただ、ごめん、ゴンちゃん。二人を祝福してあげたくて、こんなことに、、、」
とにかくどんちゃん騒ぎだった。カオス状態だった。何もかもがめちゃくちゃで収拾がつかない状態だった。
「ふふ、あはは、あっはっはっはっは」
夏希はこんなときに笑い出した。
クラスメートは、突然笑い出した夏希に気づいて騒ぐのをやめ、頭に?を浮かべていた。
そのうち、夏希は、お腹を抱え、涙を流しながら、地面に倒れむほど笑った。
その様子を見てゴンちゃんはわなわなとし始めた。
「夏希ちゃん、これはね、そのぉ、え、えーーっとね」
「あはは、ゴンちゃん、良いよ、全然平気!」
「へぇぇ?」と、ゴンちゃんは首を傾げた。
「これやろうって言いだしたの、真守ー?」夏希は腰に手を当てて、真守に聞いてきた。
「いや、夏希、その、これはね、その、、、」
「ありがとう!真守!」
満面の笑みだった。夏希は太陽のような笑顔をしていた。
「え、夏希?どういう―――」
「ゴンちゃん!」
「はいぃ!」と、夏希の呼びかけに急いで応答した。
「私、ゴンちゃんのことが好きです!ゴンちゃんの優しいところとか、面白いところとか、全部好きです!私と付き合って下さい!」
夏希はゴンちゃんの顔を見上げ、真っすぐに見つめた。
「、、、うん、ありがとう、ありがとう」ゴンちゃんは、ぐちゃぐちゃに泣き出してしまった。でも、すごく嬉しそうだった。
「もう、泣かないの。男でしょう?」と、言いつつも、夏希も涙目になっていた。
真守も、二人の幸せが自分のことのように嬉しく、皆には背を向けて泣いた
クラスメートも、皆一様に喜んでいた。男子はゴンちゃんを胴上げしたし、女子は夏希と一緒に泣いた。
屋上は興奮と歓喜にあふれていた。皆が皆幸せそうだった。
夏希は、見た目に反して頭が良かった。一閃大学へは推薦で入学することを決めた。
こうして、晴れて三人仲良く一閃大学へ進学した。
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