終章 反逆者――リベリオン

反逆者/1

 準決勝まで勝ち進んだ僕らは、クラスで今まで以上に話しかけられるようになった。温かい応援やからかい、何でもないこと、相棒のこと。沢山話しかけられる。

 そんな中でも日代に対する態度は特に顕著だった。準決勝以降はみんなが彼に抱く印象が変わったのか、男子からよく話しかけられ相棒の話で盛り上がっていた。


「太陽」


 正詠が僕の前の椅子に座った。


「なんだよ?」


 日代から視線を戻した。


「今日の放課後、王城先輩たちが戦う。観に行くぞ」

「おぉ。ようやっと僕らも観戦できるんだな」

「今まではかなり運が悪かったからな。次の対戦相手の試合のときは大体授業入ってたし」


 そうなんだよなぁ。何か変な因果が働いてのかと思うくらい、僕らは対戦相手の観戦ができなかったんだよなぁ。


「テラス、お前情報収集とかできねぇの?」


 机の上、刀を持って踊っているテラスは、僕に声をかけられて首を傾げた。


「いやお前さ、何してんの?」


 ぴこん。

 舞踊。


「いやお前さ、なんで?」


 ぴこん。

 これを観ました。

 テラスは動画を表示させた。再生ボタンを押してみると、巫女さんらしき人が刀を持って舞っている動画だった。


「お前さぁ……こういうの探すならもっと役に立つもの探してくれよ」


 ぷっくりと頬を膨らませるテラス。

 ぴこん。

 舞踊だって役に立つもん。


「お前のテラス、相変わらず何か可愛いな」


 正詠は頬杖をついて、テラスを指でつついた。

 きゅっと目を瞑るテラスは確かに可愛らしく、本当にこいつが僕の相棒なのか不安になってくる。子供の取り違いみたく、実は愛華に配布される予定とかだったのではなかろうか。


「あぁ! まぁた相棒いじめてんでしょ、あんたら!」


 うるさい遥香の声。その後ろではくすくすと平和島が笑っている。


「いじめてねぇって」


 呆れて払うように手を振った。

 僕の机の上に、リリィとセレナが乗った。テラスは二人を見ると満面の笑みを浮かべて、手を繋いでくるくると回っている。


「こいつらホントに仲良いな」


 いつの間にか日代は近くにいて、机の上の三人を見ていた。


「女同士気が合うんだろ。僕はすげぇ疎外感だよ」

「天広くんとテラスちゃんは良い仲だと思うよ」

「いや確かに仲悪くはないんだけどさ。なんつーの? 男と女の差っていうのかね。こいつさ、風呂入るときに毎回文句言うんだぜ。レディの前で着替えるなんて! ってさ」

「ふふ……そっか、テラスちゃんとお風呂入るのも大変だね」


 三人の相棒は僕と平和島の話を聞いてひそひそと何か話し始めた。

 そしてじっとりとした目で、三人は僕を見た。その瞳には非難の色がはっきりと見えていた。


「なんだよ、文句あるのかよ?」


 ぴこん。

 ぴこん。

 ぴこん。

 女の子の前で着替えるなんてデリカシーなさすぎ。最低。

 三人が同時に文句を言ってきた。


「ちょっ……やめてよ、笑わせないでよ」


 遥香は口を押えて笑った。


「お前最近ちょっと生意気だぞ」


 指で何度もテラスをつつくと、リリィとセレナが僕の指に攻撃を仕掛けてきた。痛くも痒くもないのだが、腹立つ。ちなみにテラスは頭を押さえて体を丸めていた。すごく悪いことをした気分になる。


「とりあえず地下演習場に放課後集合な。授業終わったらすぐに行かないと良い場所取れないぞ」


 正詠はため息をつきながら言った。


「いやぁ久々だなぁ……王城先輩のバディタクティクス。去年のはほっとんど覚えてないけど、胸糞は悪くなるだろうなぁ」

「ねぇ太陽。そんなに嫌な試合なの?」

「そっか、遥香はいなかったっけ」

「っていうかお前らだけかよ、知ってるの。てっきりメンヘラは観てると思ってたが」

「日代さ、次メンヘラって言ったらマジで殴るよ」

「なんだよメンヘラ、もう泣かないのか……ふごつ!」


 日代の脇腹に遥香の肘鉄が入った。油断しまくっていた日代にクリティカルヒット。


「とりあえず観ればわかる。嫌な思いもするだろうが、それ以上に……」


 正詠は言葉を一旦切って。


「実力差ってのがよくわかるはずだ」


 その一言は重く、僕らの胸に嫌な余韻を残すものだった。

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