第六章 揺らぐ心と試練が一つ
試練/1
木々のさざめきが、僅かな足音を消していた。しかし、獣のような息遣いははっきりと聞こえる矛盾。
――いいか太陽。お前は出来る限り目立って逃げろよ。
小枝を踏んで、周りを探る動作は大げさに音を立てながら。
――攻撃を仕掛けられたら、スキルを使え。そうすれば俺たちの勝ちだ。
ただ幼馴染の言葉を信じて。
僕とテラスは大げさに逃走劇を演じていた。
ぴりぴりとした殺気が漂っているのに、敵は一切攻撃を仕掛けてこない不気味。何度も大きな隙を見せているのに、何故誰も攻撃を仕掛けない? 何故張り詰めた殺気を放っているのに、〝仕掛けてこない〟?
慎重か? 恐怖か? それとも驕りか?
そのどれでもない。どの殺気を放つ者も、今か今かと機会を伺っている。武器を掴み、あと僅かなきっかけで全員が一斉に襲い掛かってくるというのに。
それなのに、彼らは一切仕掛けてこない。来る、と思った瞬間でも……仕留められるその瞬間でも、絶対に仕掛けてこない。逆に緊張しすぎで吐き出しそうになる。
「テラス、耐えられるか?」
何度目かの殺気を感じ取り、僕はテラスに話しかける。テラスは細く息を吐きながら、僕に笑みを向けた。
大丈夫。
その笑みは、相手を気遣う優しい笑みだ。
この笑顔は知っている。自分の気持ちも、何もかもを包み隠して向ける笑み。
「テラス。頼むからその顔はやめてくれないか」
辛くなるんだ。悲しくて、苦しくて……愛しすぎて胸が苦しくなるから。
テラスは不思議そうに首を傾げたが、少しして無理矢理納得したのか首を縦に振った。
「良い子だ」
がさり。
何度目かの相手の行動。しかし、今までとは違う。
――スキル、応援。ランクAが発動しました。リーダー・トウマの攻撃力を上昇させます。
――スキル、応援。ランクBが発動しました。リーダー・トウマの攻撃力を上昇させます。
――スキル、応援。ランクBが発動しました。リーダー・トウマの攻撃力を上昇させます。
――スキル、先手必勝。ランクAが発動しました。初手をトウマから仕掛けたことで、トウマの攻撃力が上昇し、防御力が低下します。
「取ったぞ! チーム太陽!!」
――攻撃を仕掛けられたら、スキルを使え。そうすれば俺たちの勝ちだ。
正詠の作戦を遂行しなくて何が仲間か!
「テラス、招集!」
――スキル、招集。ランクEXが発動しました。ロビン、リリィ、ノクト、セレナをリーダー・テラスの近くに呼び出します。
我らチーム太陽のメンバー全員が揃う。
「セレナ、ガートアップ!」
平和島の援護アビリティがノクトのステータスを上昇させる。
「ノクト、守れ!」
――スキル、守護。ランクCが発動しました。自相棒の超近距離にいる味方を対象、もしくは対象に含む攻撃を代わりに受けます。
ノクトは僕のテラスに向けられた攻撃を受け止めて、相手をぎろりと睨み付けた。
「こんなもんかよ、柔道部大将?」
がっしりと攻撃を受け止めたノクトは、返しの刃で相手に斬り付けた。
「ノクト、バスター!」
日代の攻撃に続き、全員で勝負を仕掛ける。
「ロビン、ブロークン!」
「リリィ、
「テラス、
「セレナ、アクアブラスト!」
日代の攻撃が当たったことで相手の態勢が崩れる。その隙に、前回も大活躍したアビリティを、全員で相手リーダーに打ち込んだ。
――トウマ、戦闘不能。よって、チーム・太陽の勝利です。
あまりにもあっさりと、勝負はついた。
「本当に勝っちまった……」
フルダイブから戻り、ヘルメットを外した。
正詠を見ると緊張がまだ残る笑みを僕に向けている。
『準決勝に駒を進めたのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 渾身の
わぁっと歓声が沸いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます