初戦/5
地下演習所から戻る途中、僕らのチームはやたらともみくちゃにされた。
「よくやったぞナマコの太陽チーム!」
「さっすがクラスのルールブレイカーズ!」
「かっこいいぞ、お前ら!」
軽く罵倒も混ぜながら、みんなが僕の頭を気安く叩いていく。ちなみに、この被害は遥香や正詠、日代や平和島にも拡大されていた。
「あぁもうやめろってばぁ! 私は太陽とは違うの!」
遥香はそれらの手を払い頬を膨らませる。
「やめろ馬鹿! あぁもう太陽! お前の普段の行いが悪いから!」
正詠は謂れのない誹謗を僕に浴びせる(謂れがないは言い過ぎかもしれないが)。
「やめ、やめて……ください……」
顔を真っ赤にして身を縮める平和島。
「触んな! 俺にも平和島にも!」
一見ナイトらしく振舞った日代だが、言動と謎の威圧感で僕らの周りから一瞬だけだが人を退かせた。本当に一瞬だけだが。
「あぁもう! 僕たちはこれからホトホトラビットに向かうんだから邪魔すんなっての!」
歓声と共に僕らは人波を掻き分けて校舎からようやく出ることができた。
「……太陽。私、アップルパイね」
遥香からの謎の要求はとりあえず無視した。
「俺はパンプキンケーキで頼む」
それに乗っかる正詠。残り二人は確実に面白半分で冗談を口にした。
「じゃあ俺はスーパーマーブルプリンだ」
「ふふ。私はショートケーキね」
「勘弁してくれよ……」
がっくりと項垂れた僕の肩から、ぴこん、という最近では聞き慣れてしまったあの音がする。
アッポーティーを要求します。
肩に視線をやると、白いドレスに身を包んでいるテラスがいた。また変な知識を収集してきて、英国の淑女的なアフタヌーンティーをイメージしているのだろう。どちらにせよしょーもないことに関しては仕事が早い。そこも僕の相棒らしいのだが。
「アッポーティーとかかぶれた言い方するなよ。ここは日本だから」
アッポーティー。
テラスは僕の言葉を無視してまたアッポーティーと表示する。ため息をついて、これ以上こいつには触れないようにした。
「しっかし、本当に勝っちまったなぁ」
ぼそりと僕が呟くと、残り四人が急に噴き出した。あまりにも予想外な反応に逆に驚く。
「あんたらの誇りは、僕らが継いでいく……ふふっ」
遥香が笑いを堪えながら、声真似をした。
急に恥ずかしくなって僕は腕を組んでみるものの、僕はちゃんと良いことを言ったのだと頷いてみる。それだけは間違いないし、馬鹿にされる謂れはない。
「僕たちの舞台に引きずり降ろしてやりますから……」
正詠の表情には少しだけからかいの色が見えていた。だけど、僕の無責任な発言を現実にするために考えているようにも見えた。
「とにかく勝って当たり前だ。俺のノクトがわざわざ優等生のことを庇ってやったんだからな」
鬼の首を取ったように日代は正詠に言ったのだが、当の本人は日代の言葉が耳に入っていないのか、返事もせずにぶつぶつと呟いていた。それに悪態をついた日代を見て、平和島はくすくすと笑っている。
「ってなわけで到着だな」
話していると十五分という距離はあっという間だった。ドアを押すと、あの上品な鈴の音がする。
ぴこん。
「ん?」
テラスから急に話しかけられることは日常茶飯事なのだが、あまりにも突拍子もなかったので、つい肩を見た。
おそらく手作りだと思われます。ネットで同型の商品なし。
「へぇ。誰に作ってもらったんだろ」
そんなことを言いながら店に入ると、カウンターに日代の親父さんがいた。
「聞いたぞ、お前ら。初勝利だって? 今日は全員好きなの一品おごってあるよ」
にかっと歯を見せて笑ったおっちゃんに、僕は胸を撫で下ろした。僕の財布が薄くなることはなさそうだ。これ以上薄くなりようもまぁないのだが。
各々が先程僕に要求したものを頼むと、いつもの角席に座る。
「紅茶で乾杯っていうのもなんだけどさ……」
みんながカップを持ち上げた。
「初勝利に乾杯!」
上品にカップを鳴らして、僕らはスイーツを頬張る。
「いやぁしかし日代かっこよかったじゃん!」
フォークを日代に向けて遥香は言うが、それを日代は鼻で笑った。
「ばーか。俺がかっこいいのは当然で、ノクトがかっこいいのも当たり前だ」
日代が珍しくナルシストっぽく言うものだから、正詠は肩を竦めた。
「相手のアビリティでびびってたやつがかっこいいんだとよ、ロビン」
テーブルの上でテラスをかまっていたロビンに、正詠は話しかけた。そしてロビンは正詠の言葉を聞いて、彼と同じように肩を竦めながらセレナと共にいるノクトを見ていた。
明らかに馬鹿にしている。
「ははっ、ノクト。笑ってやれよ。優等生は守られたことに不満らしい。負けてたほうが良かったんだとよ」
今度はノクトがロビンがしたように行動を真似る。
この二人と二体、絶対仲が良いに違いない。
「……まぁ、守られたのは確かだ。感謝してやる」
急にトーンを変えて正詠は日代の目を見た。
その真剣さを察しない日代ではない。「別に、勝つためだ」と簡単に彼は答えて、紅茶を一口飲んだ。
「正詠くん、次の相手ってどうなの?」
平和島はショートケーキのイチゴを頬張って問いかける。なるほど、平和島はイチゴを早めに食べてしまうタイプだったのか。
「あぁ……まぁ次は太陽のスキルと俺たちのアビリティがあれば確実に勝てるから、そのあとのことを考えるぞ」
意外と気楽な返答に、みんなが二度三度とまばたきをした。
「いや、正詠。ちゃんと説明してくれないと……」
さすがの僕もここまで適当にされては、問いたださずにはいられない。
「……んー。いや、説明とかなくても絶対勝てると思うんだよな」
正詠はむしろその根拠を探すのに悩んでいた。ミイラ取りがミイラになるというか、何と言うか。
「いいか、お前ら。来週は気楽にだ。たぶん、驚くほど……いや、引くほどに上手くいく」
良いことのはずなのに、正詠は苦笑いを浮かべていた。
「んだよ、気色悪い」
嫌味たっぷりにに日代は言うが、それに対して正詠は大きくため息をついた。
「お前もわかるって。終わった後に」
正詠の表情には、どこか落胆にも似たものが含まれていた。
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