タマゴ/4

 変な夢を見たせいで体がすっげぇだるい。しかしその夢のおかげというか、せいというか、目覚ましがなる前に起きることができた。

 はぁ、と大きくため息をついて朝の準備を整えていく。まずは朝食、次にシャワーだ。そのあとは時間との勝負だ。髪をさっと整えて、今日の占いをチェックする。みずがめ座は一位だった。意外な出会いがあるかも! らしい。そりゃああるだろう。ナマコとの衝撃的な出会いだ。


「いってきまーす」


 家を出て、そういえばと思い出した。

 左腕に着けている端末をちらりと見る。昨日から鬱陶しいくらいに出てきたタマゴは出ていない。


「なんだ、空気読めるんだ」


 AIのくせに。それは口にはしないで、くすりと笑みを零した。

 朝の通学ではバスが一番の難題だが、今日は奇跡的に座ることができた。何人かのクラスメイトと話したが、話題はバースデーエッグのことばかりだった。

 同じ話題が繰り返されることに辟易しながら校舎に到着すると、正詠と遥香を見つけた。


「よっ、朝練お疲れ」

「おうナマコ帰宅部、お前は楽でいいな」

「全くだよナマコ帰宅部」

「お前らなぁ……」


 正詠は弓道部に、遥香はバレー部に所属している。互いに実力は折り紙付きで、今年はレギュラー入りらしい。絶対に口にはしないが、自慢の幼馴染だ。


「今日も一限目からバースデーエッグだな、ナマコ」

「それを言うなって、正詠」


 肩を落として教室に入ると、わっと盛り上がる。


「来たぞ来たぞ、太陽だ!」


 わいわいと皆が僕を取り囲んだ。


「お前のタマゴから何が産まれるかをみんなで考えてたんだよ!」

「お前の予想ではナマコなんだよな?」

「どうだ、ぬめぬめしてるか?」


 うわーこいつら最低やでー。


「うるせーうるせー!」


 クラスメイトの囲いを抜けて、自分の席に座る。しばらくはからかわれたが、それも鐘が鳴るまでだった。鐘が鳴ると、みんな期待に目を輝かせながら椅子に座った。そして担任の小玉先生が教室に入ってくると、こそこそと秘密話を始めた。


「あーまぁお前たちの期待はわかるが、とりあえず朝のホームルームを始めるぞ」


 とは言っても特に何もないのか、本日の教室掃除の件と今週にある全校集会の件についての話だった。


「えーでは、そのまま授業を始める。みんな相棒の様子はどうかな?」


 左腕を見る。昨日は教室でもタマゴでありながら表情豊かだったのに。


「そう、そろそろ孵化が始まるからね。彼らも少し緊張しているようだが、親となる君たちはどっしりと構えていなさい。親とはそういうもんさ」


 小玉先生は自分の腕にあるSHTITシュティットを見た。彼の相棒は現れないが、その表情は我が子を見るように穏やかで優しい。

 それから少しして、クラス全員の目の前にあのタマゴが現れる。様子は全員違うが、小刻みに揺れているのは一緒だ。


「うん、全員同じぐらいだな」


 遂に産まれるのか……僕の相棒が。人型のナマコが。

 ぴきりと、タマゴにひびが入った。


「まぁとりあえず……」


 頬杖を付いて、そのタマゴに語りかける。


「家に帰ったらサイダーやるからな?」


 ナマコだろうとなんだろうと、産まれてくるのは僕の相棒なんだから。

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