タマゴ/5

 ぱきりぱきりと殻は零れていく。いくらかまで殻がなくなると、一気に弾け飛んだ。その瞬間教室中を光が包んだ。余りの眩さに瞼を閉じたが、その光はすぐに消えた。次に目を開けたときに見えたのは、僕にとっては予想外の結果だった。


「って、どうして僕のタマゴからは女の子が産まれるんだよ!?」


 姿は僕が心配しているようなナマコではなかった。むしろだったのだ。

 髪は黒くて長い。白と桃の着物を着ていた。こちらを見て、ふふふと笑みを浮かべていた。可愛すぎて胸がきゅんとする。


「うぉー! 天広のやつナマコじゃねーぞ!」


 そんな声に、僕の相棒がびくりと体を震わせると、僕を見て頬を膨らませた。


「悪かったって。本当にナマコが産まれると思ったんだよ。僕みたいな……才能のない奴のところに産まれるやつはさ」


 自分で言ってて悲しくなってきた。

 あぁしかし、我が天広家のDNAの奇跡がこのようなところで現れるとは。しかも全く関係のない、AIという人間性のかけらもないところで。


「さて、まずは名前を付けてみなさい。あーっと、そうだ。お前たち、席を立っても良いぞ。友達と相談しながらでもいいから、決めなさい」


 その担任の一言で、一部の生徒たちは席を立ち始めた。僕の周りには、正詠と遥香が来た。


「うわ、あんた女の子の相棒って、どうなの」


 遥香の肩には短い白髪、鼻の頭に絆創膏を貼っている女の子の相棒。服装は体のラインが出るシャツと短パンだ。遥香の相棒と呼ぶに相応しい。


「らしくないな、太陽」


 正詠の肩にはオールバックの黒髪、褐色の肌の男の相棒。アジアの民族衣装のようなものを羽織っており、顔にはニヒルな笑みを浮かべている。うむ、正詠の相棒に間違いない。

 正詠と遥香が椅子に座ると、二人の相棒は僕の机に降り立った。そして僕の相棒と三人で手を繋いでくるくる回り始める。


「やばい、可愛い」


 遥香が言いつつスマホで写真をめっちゃ撮りだした。確かに、この様は可愛らしい。


「お前たちは名前を決めたのか、太陽、遥香」


 ごほんと咳払いしながら正詠はそう聞いた。


「いやまだだけど……どうしよっかな。ナマコナマコ言ってたし、ナマコにしようかな」


 口を開けながら僕の相棒が絶望の表情を浮かべていた。そして、正詠と遥香の相棒は何とも形容しがたい表情で僕を睨み付けてきた。


「冗談だ、冗談。うーん……」


 ぱちんと、遥香が指を鳴らした。


「リリィ!」


 遥香の相棒、リリィはぱあっと〝花が咲いた〟ような笑顔を浮かべ彼女を見た。


「んー何となくロビンだな」


 肩を竦める正詠の相棒、ロビン。どうやらロビンという名前を気に入っているようだ。


「んー……あー……」


 二人が名前を決める中、決めあぐねる。


「この子、可愛いし女神みたいじゃん」

「太陽の相棒で女神。ならアマテラスってのはどうだ?」

「そんな仰々しい名前はこいつには似合わないなぁ……あぁ、でもその考えは有りだな。よし、少し貰ってテラス。お前はテラスだ!」


 僕の相棒、テラスは嬉しそうにその場をくるくると回り出した。それにリリィとロビンが拍手を送っている。


「よーし、次に相棒のステータスを表示しろー。彼らに表示するように言えばいいからな」


 ステータス?


「お前、少しは予習しとけよ。こいつらは〝学習〟を促すだけじゃないんだからな。ロビン、ステータスオープン」

「リリィ、ステータス見せて」


 二人とも手慣れている。


「えーっと、テラス。ステータス、開示」


 しかしテラスは首を傾げた。しかもクエスチョンマークを頭の上に浮かべている(決して比喩ではない、マジで表示されているのだ)。

 しかしこれは予想外ですよ。オープン、見せて、と来たら開示でもオーケーじゃないのですか、超高性能教育情報端末さん。


「テラスさん。ステータスを見せてくれると嬉しいんですけど、いかがでしょうか?」


 あぁ! と頷いて彼女は両手を前に出す。すると、そこから彼女のステータスというものが表示された。


 ・体力 C

 ・技力 C

 ・攻撃 D

 ・防御 D

 ・魔力 D

 ・機動 D


 ……全く勉強と関係ないものが羅列してるんだけど。


「これ、勉強と関係なくね?」

「そりゃあな。これは〝相棒バディゲーム〟で使うためのステータスだ」

「あぁ、そっか。そういやそんなのあったね」

「お前ゲームとか漫画とかアニメとか好きなのに、なんだその反応」


 相棒ゲーム。

 自分の相棒を使って行うゲームの総称だ。

 その中でも特に有名なのは、三人以上の相棒でチームを組み、バーチャルリアリティを用いて多様なフィールドで戦うシミュレーションゲーム。


「次はスキルの確認をしろよ」


 担任の声。

 あぁ、そうだスキルだ。


「テラスさん、次はスキルを見せてくれますか?」


 テラスは嬉しそうに微笑むと、先程と同じように両手をこちらに出した。


 ・招集

 ・他力本願


 ……あんだこれ。招集と他力本願って。なんか、あんまりにも他力本願じゃね?


「基礎の確認は終わったな。ではこれからは……」


 それから担任は、相棒の扱い方の説明を始めた。

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