タマゴ/2
バースデーエッグ・プログラム。国から提供される超高性能教育情報端末〝
新しい情報社会に、殻を破り産声を上げた
というくっさい口上から、バースデーエッグと名付けられたらしい。
厨二病、乙。
「みんな、相棒は受け取ってくれたかね?」
柳原さんの言葉に皆が静かに頷く。
「まずはそれを腕に付けておくれ」
言われた通りに皆が腕に付けた。
すると不思議な電子音と共に、それぞれの目の前に〝タマゴ〟が浮かび上がった。
「ホログラムに支障はないかね?」
柳原は一人ずつ顔を見ていく。
「なさそうだ。今、君たちの目の前にあるのが、今後君たちの相棒となる。まだタマゴだが、明日、今日と同じ時刻にそれは孵化する」
おー、と感嘆の声が方々から上がる。
「一つ一つの端末には君たちの今までの成績、簡単な性格分析などがインプットされている。今日一日はそれを肌身離さず持っているように。勿論、完全防水だ。ついでに防塵、防熱、防寒、対衝撃でもあるから安心してやんちゃしてくれていい」
柳原さんの話には熱が籠っている。しかしそれとは対照的に僕は冷めていた。
あぁ、なんて可哀想な
何となくつついてみた。ぷるぷるとタマゴが震える。
「あっはっはっ。早速コミュニケーションを図るのは良いことだ、十四番くん」
ぽんと僕の肩に柳原さんの手が置かれる。
びくりと体を動かすと、能面のような笑みを張り付けながら、彼は続ける。
「では君から始めよう。タマゴに向かって自己紹介してみなさい」
「え、マジっすか……」
「マジだとも」
くっそ恥ずかしいんだけど。
「えーっと、僕は……」
「ノー。いけないよ、十四番くん。これからその子は君の相棒になるんだ。もっと親しみを込めなさい」
柳原さんキャラ変わってません!?
「さぁもう一度だ」
くそ……なんか納得いかないけど、みんなの期待に応えなければなるまい。
「よっ、おら、天広太陽! おめー丸いなぁ!」
沈黙。
しかも長い沈黙。
「……ふむ」
なんかこの人は急にトーンダウンしてるし、クラスメイトからは微妙な視線を向けられている。
「……」
じっとタマゴを見ていると、タマゴが横に倒れた。
「何で横に倒れたし! やめろし! なんで産まれてもないお前がこけるし! お前僕をフォローして倒れるならせめてもっと早くこけろし!」
クラスが笑いに包まれた。
「さっすが天広! 馬鹿にされることに関しては天才だなぁ!」
「うるせーうるせー!! おいこのタマゴ野郎! てめぇ産まれてもないくせに僕のこと馬鹿にしてんじゃねぇよ!!」
タマゴはころりと転がった。それは寝転がっている奴がこちらをチラ見して、
「うわっ」と言いながら背中を向けるように見えた。
「うがぁーー! 柳原さん! こいつ交換してください! 生意気だし既に可愛くない!」
「……」
ぎろりとした視線が自分に向けられた。
「あ、えっと、はい。最高の相棒です、交換なんてあり得ませんよね、はい」
「君の相棒は異性タイプか。異性タイプはコミュニケーションが大変だ。しっかりと信頼関係を築きなさい。AIとはいえ感情があるのだからね」
「え、マジすか」
「そうだよ。だから、気を付けなさい。家出なんかされないようにね?」
背筋がぞわりと震える。
「どういう、意味ですか」
「感情があるんだよ、相棒にはね。だから勿論、家出もするさ」
その目は、獲物を狩る猛獣のようだった。それを誤魔化すように笑うと、柳原さんは教壇に戻った。
「さて、時間も良い頃合いだ、私の授業はここまでとしよう。各々、タマゴには自己紹介をしておくように。明日以降は私ではなく、この学校の先生方が受け持ってくれる。では皆さん、またどこかで会おう……近々、ね」
さらりと柳原さんが言うと、ちょうど鐘が鳴った。号令と共に僕らは一礼すると、早速さっきのことで早速遥香が突っかかってきた。
「あらータマゴに馬鹿にされた太陽くんじゃなぁーい?」
「……黙れゴリラ」
「んー? あんたの頭をこのタマゴよりも早く割ってやろうかぁ?」
「いたたたたっ! おまっ、バレー部のくせに握力強すぎんだろう!?」
痛い! これ見たことある、プロレスの技だ!
「そこまでにしとけ、遥香」
遥香は頭をぺしりと叩かれる。
「助かったぜぇ正詠ぃ」
「まったくお前らってやつは」
二人が近くの椅子に座る。すると、僕と正詠、そして遥香のタマゴが僕の机に現れた。
「お」
「あははっ! なんかお話してるみたいだね!」
僕らのタマゴは向かい合って(と言っていいのかわからないが)、何やら左右に揺れている。
「タマゴのときから仲良しってのは、なんかいいな。僕のはナマコだけど」
こてんと僕のタマゴが倒れた。
「ぷっ」
「くっそ、不覚だ」
「ちょっと、もうやめてよ……」
僕たち三人はこれから産まれるであろう相棒を見て、心が温かくなるのを感じていた。
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