ちいさな魔王様ー④

「簡単に死んでいるように見えるが、痛みはあるんだからな!」



開口、生き返ったばかりの俺は恨めし気にツクヨミを睨んだ。

人間は完全に死ぬまでは痛みがあるものだ、よくドラマや映画で拳銃自殺をするシーンがあると思うが、あんなにも簡単に死ねない。


身体こそ動かないが、完全に死ぬまで数秒はかかる。

つまり、数秒間はものすごく痛い。


俺に至っては死ぬまでに数十秒はかかっているので、とてつもないほどの痛みの中を死んでは生き返っているのだ。



「失礼しました。なにやら生前のあなたが我々の耳を疑うことを口にしておりました故につい、手が滑りました」


「あんたは手が滑ると槍を振り回すのか、今後は気を付けてほしいな」


「それはあなた次第では?変態死神殿」



ぐぬぬ……と、ばかりに俺は唇を噛んだ。

このツクヨミというメイドはどうやらこの赤いメイド服部隊の隊長らしく、後ろに控える三人は直属の部下とのこと。魔王直属のメイドにして親衛隊……これは後から聞いた話だ。


それでその魔王とやらは……



「ツクヨミ、今日は悪さが過ぎるようだな……よって、今日は暇を命じる。余の警護は緋色のメイドスカーレット隊の者とする、以上」


「そ、そんな……ベリアルお嬢様、私はお嬢様を思って……」


「ふん……」



あそこで赤いメイド体調を叱っている銀髪のロリっ子がどうやら魔王様のようだ。

人は見かけによらないと言うが、まさにその通りだと思った。


「ノゾムよ、臣下の者が無礼を働いた、すまぬ」


「……いや、俺のニュアンスというか言い方に問題もあったしな」


「そそそうだぞ!まだ幼体であるこのわた……余を使って欲求を満たそうなど片腹いたいわ!……そういうのは大人になってからだろうに」


顔真っ赤にしながら言う魔王様ことベリアル。

最後の方はなんて言ってたのかは聞き取れなかったが、おそらく遺憾の意とかそんな感じだろう。



「ともかく、まずはこの部屋の惨状をどうにかせんとな、メイド達を呼び集めよ」

「「「ハッ!!」」」



ベリアルの号令を受けた仮面をつけた緋色のメイドスカーレット隊は音も無く部屋から出ていった。

それからツクヨミもいつの間にか出ていったらしくいない、また顔を合わせることもあると思うが、その都度殺されそうで困る。



「ノゾムよ、どうして余の部屋にいたのか後ほど包み隠さず教えよ」

「ん?あぁ、それは構わないが……」

「ツクヨミのことだろう?心配するな、あやつはどうにもおぬしを目の敵にしているようじゃからの、話が進まなくなると困る。今日は暇を与えた、だから問題ない」



改めてベリアルと話すと分かるが、彼女は俺より遥かに大人だ。

容姿こそ子供だが、話す言葉一つ一つに重みがあり自分の立場を上にしながらも相手を気遣う……現代社会でも稀な理想の上司像そのものだ。





*




部屋の整頓と掃除が終わるとベリアルの部屋に招かれた。

俺がさっきまで座っていたソファーも本来あるべき場所に戻されており、再び俺がそこに腰を降ろす。



「給仕のメイドのみを残し、他は外で待機させておいた。さぁ、思う存分に言うが良い」

「そうだな、まずは……」




*




「こことは違う世界から、そして一度死んで不思議な力を身につけた、か……にわかに信じがたい話じゃな」


「だろうな、俺がお前さんの立場なら『何言ってんだコイツ』くらいのことを言ってる」


ベリアルはテーブルに置かれているシルバートレイからクッキーを取ると口に放り込んだ。

それから小さな口をもぐもぐと動かしながらこう言った。


「いや、信じがたい話になっておっただろうと思ってな」


「事例?」


「あぁ、以前この城の近くで人間を捕まえたことがある。この城は普通の人間には入ってくることが難しいのでな、奴ら聖ヴァル連合のスパイかと思って尋問をかけた……そしたらその者は何と言ったと思う?『僕は違う世界から転生してきた』とな」


俺はあまり驚きはしなかった、若くして死ぬのは俺だけじゃないはずだし。

そもそも、あの時の女神の口ぶりからするに多くの人間を異世界に送っている感じだったしな。


「その者は最終的に我らの城から逃走を図ったきり行方不明じゃ、おおよそどこかでのたれ死んだと思うがな。それともうひとつ」


「ん?まだあるのか」


「あぁ、おぬしが話した内容『女神』『特殊能力を与える』この二つの事実が余の疑念を確信へと変えることができたのだ……【聖ヴァルキュリア連合】、我らと戦っている相手なのだが、奴らにはと呼ばれる戦闘能力の高い者たちが何人もおる」


「あ――何となく察した」



にやりベリアルが笑う。



「うむ、奴らもまたノゾムと同じく転生してきた者たちじゃ」



つまりこんな感じだ


俺→転生するが職業と思想がアレだったせいか魔王軍へ

その他→正義やらなんやらで聖ヴァルキュリア連合へ


ってことだ、いやあくまで俺の勝手な憶測だが



「つまりはノゾムは我々にとっての勇者様ってわけじゃな、はっはっは」


「正直俺はそんな役じゃないと思うんだがな……」



陽気に笑うベリアルを苦笑いしながら見つめる。

まぁ、なんだ……とりあえず、面倒くさいことに巻き込まれたのは事実だが、やれるだけやってみるか。


「そうなれば明日、ツクヨミを呼んで能力の解放の訓練をするので逃げるでないぞ?」


「逃げたくても逃げられない、だろ」


「はっはっは、賢いのノゾムは……そうじゃ!今晩おぬしの泊まる部屋を決めておらんかったのだが、今夜は余の部屋に泊まると良い!もっとおぬしのいた世界を余に教えるのだ♪」


「おう……今何て言った?」



俺は思わず二度見をしてしまっていた。

『異世界の話~♪』と楽しそうに鼻歌混じりに歌っているベリアル、今お前は大変なことをさらっと言ったのだぞ?


ベリアルが宣言したと同時に部屋の外から、メイド隊長の叫び声とそれを止めているメイドたちの声、何度も衝撃音が聞こえてきたのは言うまでもない。

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