ちいさな魔王様ー③


『射殺せ、絶対に殺す緋色の槍スカーレット・ギルティ


綺麗なフォームから放たれた一本の槍が身体の中心を貫いた。

呼吸するために必要な肺と気管を寸断されたらしく、息ができなく、とても苦しい……それ以前に刺さっている部分から伝わる激痛が全身を伝わる。


「何だよ……転生したって、チート能力も無いじゃないか……」


おそらく彼女たちには聞こえなかったであろう小さな声でつぶやいた。だんだんと視界が暗くなり、音も聞こえなくなる。

こうして俺の二回目の人生はたったの11分4秒で終わった……



と、思った。



『―――ここは?』


痛みや苦しみが消えると同時に俺は目を開いた。

そこには死ぬ寸前さきほどまで見ていた同じ光景が目の前にあった。


ひとつ違うのは、俺の隣に俺の死体があるということだ。


『え?何これ、幽体離脱って奴か?』


良く見ると体が半分透けて、反対側が見えるくらいに薄い……それに



『おお!自由に空も飛べる!これの方がよっぽど異能力っぽいぞ』



俺は自由に部屋を飛び回ると、あの積み上げられたソファーの上に座った。

俺を殺した赤いメイド服と銀髪の少女が喋っている……お、メイドが離れた行った。


何やら悲しげな表情を浮かべている……部下、私の、退屈……そんな単語が聞こえる。


……退屈、ね。


転生前の俺は退屈で仕方がなかった。

バイト、勉強、進路……何一つ楽しいことが無い。アニメとかは別だが……


いつしか俺は今の世界を捨て、違う世界で退屈を晴らしたいと考えていた。


そして、死神になり片っ端から人の人生を操りたいと、黒い欲望が体を支配していた。



『退屈は俺も嫌いだ、無力な気持ち、気だるい身体、何一ついいことは無い』



自分以外に労力をすることなんて今まで一度としてやってこなかった俺が、何故かこの時だけはなんとかしてやりたいと思った。



『だったら、俺が楽しませてやる。どんな形でも構わないのならな――ッ!?』



突然俺の前に一つの大きなパネルが現れる。

驚いたあまりにソファーから転げ落ちそうになった、まぁ今は幽霊なので関係ないのだが。


『【コンティニュー?】』


そのパネルにはそう書いてあった。

Yes:No、の二文字があり、前者は生き返ることができそうだが、後者は……考えないでおこう。


『……じゃあ、【Yes】で』


【OK!”RE*START”】


俺はパネルを触れると、変な電子音と共に透明だった身体は実体を取り戻したように色づき、全身に自然な重みを感じる。


『お、おぉ~……』


我ながら情けない声を出したと思う、だが聞かれていなければ問題ない。

そして言うのだ、絶対強者のような余裕を持った声で……。


『フハハ、何だから知らんがその願い聞き入れよう』




*





「という流れで俺は復活したのだ」

「なるほど。で、もう一度死にたいと?」

「何故そうなる!?」

「お嬢様に手を出した時点で殺すのみ。何度蘇ろうと、その都度始末するだけですが……何か?」


俺は驚く少女たちに紙芝居風の物で説明した。

この紙芝居は俺が念じると手元にポッと現れて、内容も俺が考えていたストーリーそのものだった。これも転生能力の一つなのだろう、勝手に解釈しておく


それよりも……

紙芝居が終わると同時にダガーナイフを服の袖からするっと出すこの赤服のメイド

は何なのだろう、心臓に悪いからやめてもらえないだろうか……


「ま、待て、ツクヨミよ!先ほどの無礼は確かに許しがたい、今はな。じゃが、こやつの不死の能力は面白い……いや!惜しい!今後の戦いで必要になるかもしれん」

「おい、今面白いとか言った……」

「お嬢様がお話し中です、静粛に」


音も無く忍び寄った赤服メイドが喉元にナイフの刃を当てる。……痛てて!これ絶対当ててるんじゃなく少しずつ切ってるよな!?


「……ツクヨミ」

「申し訳ありません」

「全く……えーっと、おぬし。名を何というのだ?」


銀髪の少女が少し睨みを利かせると、メイドはナイフを降ろし、一歩下がった。

どうやらこの少女はこの家(?)でかなりの地位を持つ人物だったようだ……あれ、もしかして俺はかなりやばいことをしたのでは?


「あ、俺は……ノゾムだ。なりたてほやほやの死神だ」

「死神か、我が軍うちにも何人かおったの、死神クラスは……で、おぬしの望みはなんだ?」

「望み?」

「あぁ、余の元に従うのだ、それなりの働きをした暁には報酬を与える。ゆえにおぬしは何を願う?」


死神って結構いるのか、そんなにポピュラーな職業じゃないってあの女神の奴も言ってたけどな。

願いか、願いはいくつかある。それらをまとめて言ってやろう。



「願いは……まずはお前を退屈させない努力をして笑顔になった際に俺の欲求をみたしてもらおう」

「ななな……!!」

「ギルティ……やっぱり殺します」



ん?やべぇ、これでは俺がロリコン変態野郎みたいな言いぐさではないか!

違う!俺の欲求は人の死を自由自在に操るということでな……



「審議、は要りません。判決ジャッジメント、お前には死がお似合いです」



ダガーナイフを捨てたツクヨミというメイドは再び手元に緋色の槍を持つと今度は直接突き刺してくる。

しかし、不思議なことに一回目の突きは簡単に避けることができた。


「ん?何だ、避けることできるじゃな――」

「チッ」


舌打ちをしたメイドが振り向きざまに斜め下から切り上げた槍が俺を切り裂く。



「あ、やっぱり無理なのか」



本日二度目の死は一回目よりも早かった。





続く

ノゾム死亡数:2回

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