死に神、デス・パレスに降り立つ!
ちいさな魔王様ー①
「魔王様、並びに竜騎士ドラゴ様のご帰還なり!整列!!」
二匹の
全身真っ黒な
飛龍が放つ、凄まじい風圧が着地地点に待機していた魔物たちが吹き飛ばされそうになるのを必死に
「出迎えご苦労、クラウス。余の留守中、異常は無かったか?」
部下の魔物たちが
ふわりと着地をすると、お召し物である黒いゴシックドレスが裾が舞い上がるが、特に気にすることなく出迎えの執事服の男に問いかけた。
クラウスと呼ばれた白髪頭の老人は丸メガネを片手で上げるとにこやかに答えた。
「はい、もちろん何事もございません……時に魔王様、
「またその話か、嫁の貰い手がいなくなると言うのであろう?そもそも我に見合った者がおらんではないか。クラウスの希望を叶えるのなら、それ相応の者を連れてくるのだな、そうしたら考えてもよいぞ」
「そうですな……でしたら、竜騎士殿はいかがでしょうか?文武両道、部下の信頼も厚く器量の大きい方ですが?」
真っ赤飛龍に乗っていた金色の騎士がさきほど同様飛び降りると、鎧の金属同士が擦れる音が辺りに響く。
かちゃかちゃと音を立てながら少女たちの元に歩みを進めながら言った。
「それは大変光栄至極に存じます、されど失礼を承知で申し上げますと魔王様はまだ成体になられておらず、それを待つのであれば数百年は待つ必要がございます。……いくら龍の血が流れる私でもその頃には年老いておりますゆえ、直ぐに旅立ってしまうと思うと魔王様には申し訳ありません。私のような者を推薦していただきありがたく思いますが、辞退させていただきます。」
ドラゴは静かに頭を下げる。
生まれ持ってのカリスマがなせることなのか、ひとつひとつの動きが丁寧でこの時代にマナー講習の本があれば彼はその表紙を飾っていただろう
「フフフ、ドラゴよ。相変わらず硬いの、色々とな。だが余としてはそなたのような臣下を持つことがこれほど幸せなことは無いぞ。それと、クラウス残念だ……これでしばらくは婚姻とは無縁になるの~あー残念残念~~。」
小さな少女は自分の長い銀髪をなびかせ、にやりと笑いながら言った。
やれやれと言わんばかりに肩をすくめながらクラウスが苦笑いしている所を見る限り、いつも通りのやり取りと言ったところなのが分かる。
「お二方共、遠距離の移動でお疲れでしょう。広間にてお茶のご用意をいたします故、その間にお着替えなどされてきてはいかがでしょうか?」
「うむ、そのつもりである。余も少々シャワーを浴びたいと思っていたのだ、思った以上にあの地域の陽ざしが強くてな……」
真っ黒なドレスの胸元をパタパタと動かす、今日は晴天で殆ど雲も見当たらない洗濯日和。
「では、私も場にふさわしくないこの鎧などを置いてくることにしましょう。魔王様、お部屋までお供しましょう。」
「いや、問題ない。お主はそのまま自室に向かうといい、余の共にはメイドにやらせよう」
「分かりました、ではまた後程……」
ドラゴは一礼すると、先にテラスから去って行った。
入れ替わりに人間のメイド二人がテラスに出てくる。
それから足早に少女の元に向かい一礼をする。二人の首には無骨な首輪がされており、服従者、呼び方を変えれば奴隷メイドと言ったところか。
「「おかえりなさいませ、魔王様」」
「うむ。では、クラウスまた後でな」
テラスから少女がメイドを従えて去っていく姿をクラウスは礼をしながら見送る。
姿が見えなくなるとクラウスは小さく息を吐くと呟いた。
「魔王様、できることならあなた様が大きくなられる前にこの世界を一つにされることを私は祈っております。先代の魔王様が成し遂げることが叶わなかった統一を……」
*
この世界は基本的に大きな二つの勢力に分かれていた。
『聖ヴァルキュリア連合』
戦の女神たるヴァルキュリアの子孫が創ったと言われている大きな連合国家。
いくつもの人間、エルフ、ドワーフと言った多種族の国が協力し合い「打倒魔王軍」の旗を掲げて各地で戦いを続けている。
『魔王ルシファニア帝国』
先代魔王ルシファーが建国し、現在は二代目となる娘である『ベリアル』皇帝が治め、悪魔、アンデット、魔獣から龍と言った種族を統率し彼らを【凶暴】【異質】と呼び、殲滅しようとする聖ヴァルキュリア連合と戦いの日々を送っている。
この二つの軍勢の間では既に500年以上の戦いが続いていた。
二つの勢力に属さない勢力もあるが、どちらの勢力と比べると焼け石に水程度の戦力しかないために攻撃をしかけることはない。
さきほどの
*
自室へ向かうベリアル、その後ろをついていくメイドたちは不安な顔を隠せずにいた。何故か?
廊下を歩く彼女は見た目こそ幼い女の子、だが。
『魔王様、ご機嫌いかがか?』
「うむ、苦しゅうない。そういうヌシこそどうだオーガよ、ここ連戦で疲れておる顔をしているぞ」
『なんと、これは失礼しました。顔に出るなんて私もまだまだですな!ははは!!』
真っ白い髪に筋骨隆々の
彼だけではない。すれ違う魔物たちはどれも前線にいるような下級ではなく部隊長、幹部クラスといった重鎮ばかり。それらが皆、目の前の少女に頭を下げ挨拶をしていくのだ。一般人であれば気を失っても仕方のない状況である。
「ん?なんじゃ、こやつら怖いのか?安心せい、余がいる限りそなた達が食べられたりすることはない」
後ろを歩く二人の顔色が悪いことに気が付いたベリアルは優しく説いた、年齢に見合った子供の声で話しかけるのは相手に安心感を与えるからだ。
そのようなやり取りを続けている内にベリアルの自室に着いた。
扉には『べりあるのへや』と書かれている。
その文字を見るとベリアルはしかめっ面で睨みつける、自分の部屋を分かりやすくしろとクラウスに命令したが、まさか子供のような扱いをされるとは思ってなかったからだ。
「クラウスの奴……異常大アリじゃないではないか……まぁ、よい。ではそなた達、余の湯浴み等をたのm」
どんがらがっしゃーん……
文字で表すとしたらこんな音がベリアルの部屋の中から聞こえた。
「な、何事!?」
ベリアルは小さな手で扉を開けると、テーブルやソファなど家具類が部屋の中心に集まり積み重なっていた。
その一番上にお気に入りの赤いソファが乗っかっている、そして……見知らぬ人物もまたその一番上にエラそうな姿勢で鎮座していた。
「誰だ、お前は!」
ベリアルは怒声で自室を荒らした(?)人物に怒りを表した。
……幼い子供が怒った声なのであまり怖くないが。。。
「……問おう」
「ん?」
メイドの二人は近くにある衛兵の詰所に侵入者を伝えに行くと、不審人物は片手で顔を覆うようにしながらベリアルに聞いた。
「……ここどこ?」
「は?」
何とも言えない空気が、ベリアルの部屋……デス・パレスの一室を通り抜けていくのだった。。。
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