シニガミ✟スタイル
エグニマ
プロローグ
お約束
ある朝、目が覚めるとそこは真っ暗な世界だった。
見渡す限り何もなく、自分が立っている場所以外は何も見えない漆黒の闇。
夏の夜、幽霊の出るという旧道のトンネルに肝試しで入って急に懐中電灯の明かりが消え、何も見えなくなったことはないだろうか?つまりそんな感じだ。
自分の身体は不思議と見えるが手を伸ばした先は、ただ闇が広がっている。
何もない頭上からスポットライトのような明かりが照らされたのはそんな時だった。
「……座れということか」
明かりが照らされた場所にはパイプ椅子が一つ、置かれている。
何者かは知らないが、ここに座って待てということなのだろう。
よくあるライトノベルの展開と一緒だ、つまり俺は……
「死んだ、もしくは死んだに近い状態になっている、そうだろう?」
音が出るくらい乱暴にパイプ椅子に腰をかける、軋む音がこの椅子の古さ加減を教えてくれている。
椅子に座ると同時に数メートル先が同じように上から明かりがつくと、そこには白い羽衣を纏った女性が同じように座っていた。
お偉い社長さん達が座りそうなふかふか椅子に座り、手に書類を持った女性は俺を一目見るなり小さく微笑んだ。
「私は女神ルーミア。
女神だと名乗る女性はルーミアと名乗った。テンプレのように死んだと述べ、哀悼の意を表している。となれば次に何を言うのか分かっている、だから先にこう切り出した。
「………なので、もし生き返りたいと望むなら……」
「『死神』」
「……はい?」
「職業は『死神』能力はそれっぽいので頼む。ノートに名前を書くと相手を殺せるとか持っている武器の真名を呼んでパワーアップする能力でも構わない」
「え、えぇ……」
彼が言った一言にポカンとした顔で生返事をしたルーミアは、目の前で腕を組みながら偉そうにしている死にたてほやほやの魂に困惑しながら書類をめくっていく。
所々書類には『カンペ1』と番号が振ってありそれに従って読んでいるようだった。
「さっさとしてくれないか?こう見えても生前はアニメやラノベを見たり読んだりしていた、異世界物も愛読の一つだった。故にこの先の展開も読める、テンプレのようなこと聞かせるくらいならさっさと能力を身に着けて異世界に送ってくれ」
ルーミアは笑顔を崩すことはなかったが、顔の一部が引きつっている辺り怒りを殺しているのが分かる。
「……ったく、物語には手順てものがあるのよ、これだから引きこもりは……」
などとブツブツ言いながら女性は胸元からトランプ程の大きさのカードを取り出すと、カードゲームの山札から目的の物を探す子どものように一枚一枚、横にスライドさせていく。
「死神なんて職業あったかしら……そんな奴今までいなかったし……あった」
女神は赤いカードを一枚引き抜いた。周りは全て無地の模様だがその一枚のみ真っ赤だった。
「(なんか見たこと無いけどいっか)……では、四季神 望さん。あなたはこれから行く先の世界での職業は『死神』になりますが、よろしいですか?」
「あぁ、早くしてくれ」
ルーミアはため息交じりに赤いカードに祈りを込めると、淡い光を放ちながらカードが粒子化し、望の身体に吸い込まれていく。
「……これであなたは新たな世界で『死神』として生きていくことになりました。それからスキルも使えるようになりました。説明は必要ですか?」
「いや、あとで分かればいいや」
「では、早速ですが……」
ルーミアは目を瞑ると右手を望に向かって突き出した。
望の周囲に魔法陣がいくつも現れ、それらは複雑に絡みあいながら一つの円を描いていく。
「あなたが困ったとき、心の中で私の名前を呼んで下さい。そうすれば私があなたに最低限のアドバイスを送ることができますから……」
「ん、分かった分かった」
「……では、いってらっしゃい。できれば二度と死なないでください、そして私以外の女神の元で生き返ってください」
軽い返事で返す望に、半ばやけくそ気味で言葉を投げるルーミア。
ゆっくりと望の身体が浮き上がると、一瞬にしてその姿が消えた。
「転送完了…と。あいつで今日の仕事は終わりね~帰ったら一杯飲もう、あんな可愛げのない奴を相手にするのは面倒くさいわ、マジで」
転送が終わると女神っぽい口調はどこかに消え、素の表情が現れた。女神の『め』の字もない。
大きく伸びをして椅子から立ち上がろうとした時にルーミアのポケットから可愛い音色が鳴り響く。音の元を取り出すとそれはスマホによく似た通信機器だ。
「はい、こちらルーミアよ。何かしら?転生魂の追加ならもういらないわよ?わたし、今日の業務を終わらせてあがる所だから……」
『ルーミアさんですか!?こちら女神転生派遣協会の者です』
ポケットから出したクッキーを口にくわえ、ダルそうな声で書類を適当に集め始めていたルーミアだが、連絡先が焦ったように言ってくるので何事か起きたのかと不安になった。
「はい、どうかしましたか?」
『それが、我々の方で管理していた危険度【SSS】の転生カードが一枚、転生女神の皆様の所に間違って送ってしまったみたいで、現在捜索を行っています!』
「カードの種類とか分かりますか?今手持ちのカードを見ているので分かれば……」
カードの束を一枚一枚確認するが、特に異常がありそうなカードはない。
電話の主は一呼吸おいてからルーミアに言った。
『カードの特徴はまず全体が赤いカードです。ぱっと見て分かるので、転生者には絶対に与えないでください!そのカードは変幻自在に姿を変え、転生者の身体に取り付き通常のカードを超える力を与えてしまい、その世界のバランスを壊しかねないほどの力を与えてしまうようですからを……もしもし?聞こえてますか!?』
ルーミアは話の内容を理解すると、頭の中が真っ白になった。
顔は蒼白、心臓から脳の方に血が送られなかったかのように真っ青になっている。
さっき赤いカードが自分の管理下にあった、その事実がルーミアを焦らせた。
「あれ……もしかして私……とんでもないことしちゃったかしら……?」
ルーミアが先ほど送り飛ばす為につかった魔法陣は静かに消えていき、転送物体が無事
*
後ほど女神会では大問題になった危険カード紛失事件、このとき紛失したカードというのが
『死に神』
こうして異常な力を宿した死神がファンタジーな異世界に着任することになるのだが、それを知るのは次のお話からになる……
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