これがリアル

7時きっかりにセットした目覚まし時計で今朝は目が覚めた。最近残業が重なり、ろくに睡眠が取れてない。昨日も深夜に帰宅し、ワンルームのベットに直行。スーツから部屋着に着替えた記憶はあるが、それ以降の記憶が無かった。今日も忙しくなるかな。眠い目を擦りつつ、欠伸をしながら、重い身体を起こし洗面台に向かう。ああ、眠いな。

会社に行きたくない。行きたくない…。

朝は憂鬱になりがちなので、気分を入れ替えるために何も考えないようにしてるが、それは無理な話だ。シャワールームに行き、全ての負の感情と眠けを洗い流しつつ、今日の仕事のスケジュールに思いを巡らす。

今日もかわりばえしない一日の朝。普段と何も変わらない朝。私は昔から真面目でしっかりとした子だと言われ育ってきた。上と下に兄と弟がいるが、男兄弟に囲まれて育ってきたこともあって、割と男の子の趣味にも抵抗はなく馴染むことができた。そのこともあってか、男子と一緒に遊ぶことも結構あったのだ。遊び道具の玩具も兄の物を借りることが多かった。弟にはよく物を勝手に部屋から取られた。お下がりというやつか。

「姉ちゃん、可愛くねえ」

弟というのは、なぜいつの時代も生意気なのか。あんただって、可愛くないさ。当時中学の私はあまり目立たない風貌だった。いや、性格かな。学校では普通に授業を受け、お昼は決まった友人たちと食べ、放課後は塾があるため早めに帰った。まあ、よくいる地味な部類に入るやつ。まあ、あんまり目立ちたくなかったし、出る杭は打たれるというし、普通の良い子を演じていたのかもしれない。

そんな私を周囲も持て囃す。優等生、なんでも出来る子、無口だけど色々と考えてそう?笑

兎に角、地味な私を周囲は影で努力してる真面目な女の子と勝手に勘違いしていた。いや自意識過剰だろ?と思うかもしれないが、普通の私が生徒会とか、学級委員長とかになってることを鑑みれば、あながち間違いでもないだろう。


痛っ。

シャワーの柄を持つ右手を壁にぶつけた。

また余計なことを考えていた。新卒で入社した後一年経つが、最近色々と考え事が多い。職場の人間関係はそれほど悪いわけではないけど、なにせ仕事がキツイ。折角だから事業拡大傾向にある会社に入ろうとか、大したことも考えずに決めてしまったのがまずかった。

「女の子は安定が売りの会社に入って、いい男もらって、さっさと結婚しちゃえばいいのよ」

それがお婆ちゃんの口癖だった。私も男勝りの性格か、そんなのつまんないじゃないなどと変な気が立って、わざわざ田舎から都会へと一人出てきたのだ。うぅ…。とは言え、リアルの私はそれほど体力があるわけでもない。気合いは人並みか、それ以上あるが、その他は普通。学生の頃からあまり変わってない。色々と考えてる優等生?そんなわけないじゃない…!

シャワー室のドアを開け、時刻を確かめる。まずい、時間かけすぎた。急いで着替えて、出勤の準備をする。鞄にスマホにパソコンに。化粧良し。玄関で軽く靴を磨き、鏡で最終チェック。よし、行こう。

これが私のリアル。普通で従順な人となり。重い足を一歩踏み出す。

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