世界が知りたくて

曇天下、スーツを身に纏い、周囲に目を配りながら、駅までのいつもの道を歩く。

喫茶店、コンビニ、ラーメン屋、ファミレス。アジア系の店員さん、喫煙スペースで煙草を吸うサラリーマン、お洒落して楽しげに会話している二人の女の子。

いつもと同じ道がそこにはあるのに、登場人物が変われば景色は一変する。全く同じ瞬間がここには存在しない。皆、何かを思い日々を生きている。

改札前は毎回出勤の人だかりで混んでいる。今日は少し遅刻だ。Suicaを改札に通し、無事満員電車に乗車。この時間は少々苦痛だ。煙草や香水の匂い。色々な人の、これまで生きてきた証が、狭い箱の中で飛び交っているように息苦しさを覚える。

狭い範囲内の見知った空間でさえ、常識が存在し、様々な情報を細分化すれば、それは天文学的な情報量となる。人が成長するにつれて、行動範囲も広がり、世界は無数に広がっていく。関わる人間も変われば、その度に情報の密度、種類が変わっていく。そういった世界に私は生きている。

いつからか、全ては私にとって、作業的な意味合いしか持てなくなってしまっていた。形あるものが、全く意味を持たないものとして認識するだけとなってしまう。機械的な、無機質な固まりとして私が存在しているかのように。その意味では兄弟に言われた「可愛くない」という言葉も間違いではないのかもしれない。その言葉を否定したくて、認めたくなくて、私は新しい世界を、刺激を求めていきたかった。ガトさんとの出会いもその最中だった。

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