第18話 洞穴の秘密

あの声から、どれくらい経っただろうか…僕らは無口になり、当事者の莉乃も空気を読んでか、あまり、話さなくなった。鳥のさえずりが聞こえ、近くに川があるのか、川の音がする。辺りは自然の音で包まれた。


(き、気まずいな…この空気。)


僕はそう思うと、気を使いこう話した。


「あ、あのさ。喉乾かない?」


薫はそれを聞くと、顔を赤くして


「う、う、うん!の、喉乾いたかな!お茶持ってきてないし、近くに綺麗な川があるから、そこに行こうか!」


(お茶、忘れてたのか…)


僕は少し呆れた。


綺麗だけども、川の水でも飲むのかと少し抵抗があった。


莉乃は


「川の水って大丈夫なの?」


と不安になっていた。


「ある方法を使えば、川の水も飲めるんだよ?」と言い、リュックから大きめの水筒を出した。そして、川のある方に足を向けた。




サーーーッ




歩いて2、3分ほどで川に着く


とても透き通っていて、上を向けば鳥達がいて、川魚が遊んでいる様子もはっきりと見えていた。


(いくら、綺麗でも、そのまま飲むのは抵抗あるな・・・)


と思った時だった。


薫は水筒を取り出し、川の水を入れる。


「うーん。冷たくて気持ちいいなぁ」


彼女は、そう言うと満タンになるまで、川の水を入れた。


「これでよしっと」


キャップを閉めて、僕を見た。


(ん?)


すると、彼女はさっきの事を気にしているようで、顔を赤くし恥ずかしそうに視線を逸らす。そして、彼女は言葉を発した。


「ら、ライトさ…ちょっと後で話いい?」


「う、うん…」


莉乃はその会話を聞いてか、一人で洞穴に戻っていった。


「あ、莉乃!一人じゃ危ないって!」


僕は制止しようとすると、薫は僕の左腕を掴んだ。


「莉乃ちゃんなら、そんなに心配しなくても大丈夫だから…それよりさ…」


「う、うん」


彼女は耳打ちをしてきた。


「さ、さっきの恥ずかしい声、聞こえた?」


僕はドキッとした。


どう返事をすればいいのか、わからなくなり、僕は耳まで真っ赤になった。そして、僕は気持ちを素直に口にした。


「う…うん」


すると、彼女はため息をつき、顔を下げて両手を顔に当てしゃがみこんだ。


「恥ずかしい・・・」


そう言われると僕は


「か、薫ちゃん、ごめん…僕が調子に乗ったから…」


と謝る。


薫はしゃがみながら、顔を見せないような形を崩さずに、横目でチラリと僕を見た。


そして、立ち上がり、僕に顔を近づけた。


「ライト…じゃあ、責任取ってよ」


「えっ、せ、責任?!」


「莉乃ちゃんは、ライトの妹なんだから、ライトのミスでしょ?」


と、頬を赤く染めて小悪魔な微笑みを浮かべる。


(い、嫌な予感がする…)


僕は直感でそう思った。


すると、彼女は覗き込むように僕を見てこう言った。


「私ね…今、すごくドキドキしてるの…」


そう言うと、僕の両腕を掴んで近づいてきた。


(この展開…まさか…だ、ダメだよ!薫ちゃん!莉乃もいるし!)


僕は内心、凄くドキドキしていた。


どんどん、彼女が近づいてくる


(んーーー!)


僕は心の中で叫び、覚悟した。








(キスされる!)









そう思った時だった。









「えいっ!」




(えっ?)



僕は目を開けると宙を舞った。


そして、思いっきり地面に叩きつけられた。


かなり僕は驚いた。



「ったく、ライトってやっぱり、すけべなんだから」



そう、彼女は一本背負いをした。


僕は後から来るその痛みに背中に手を当て悶絶した。


「いってぇぇぇぇえ!」


以前、体育の時間で柔道を習ったのを生かし、自然と受身は取れていたが


敷き詰められている石が僕の背中にダメージを与える。



倒れて悶絶している僕を見て彼女は怒った表情で


「ライト、罰として、トイレ作ってもらうから!」


と言うと彼女は振り返り、洞穴に戻っていった。


(お、女の子って難しいなぁ)


僕は立ち上がり洞穴に戻って行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


戻った僕は、薫からスコップを渡される。表情は先ほどと打って変わって普通の状態に戻っていた。


「じゃ、行くよ」


そう言うとそこは、草木をかき分けていく、洞穴から10mくらい離れたところに着くと


「ライト、ここ掘って」


と、薫が指示を出し、片手で持っていた非常用トイレの袋を渡してきた、そして、無表情で洞穴に戻って行った。


僕は黙って指示に従った。


(さっき、あんな声、聞いちゃったんだから、仕方ないか・・・)


思い出すと耳が赤くなり、僕の股間がふっくらと盛り上がる。正直、彼女のあの声に興奮していた。


(また、薫ちゃんにぶん投げられる・・・だめだ、こんなこと考えてちゃ)


しかし、そこはやはり、男の子・・・どうしても、頭の中でリピートされてしまう。


(さ、作業に集中しなきゃ・・・)


湿った土は重たくて、かなりの重労働だった。その為か、いつの間にあの声のことを忘れて夢中で掘り進めて行った。


非常用のトイレを置きながら、試行錯誤していた。


念を押してさらに掘り進めビニールのトイレを設置すると


洞穴に戻ることにした。


(そんなことより、薫ちゃんの機嫌…なんとかしなきゃな…)


そう思って戻ると、ガスコンロに火をつけて、鍋に先ほどの水を入れ沸騰させてる二人の姿が見えた。


薫は「これで、後はコーヒーのやつで、ろ過させて、冷ませば飲めるよ。」と莉乃に言う。


莉乃は「へー」と言うと鍋掴みを使い、洞穴の中に運んで行った。


僕は先ほどの事を気にして、薫の前に立つと、薫はこちらを見てきた。

僕は真顔の薫を見て


「さっきはごめん…」


と謝った。


すると、薫はガスコンロを片付け始めると、僕にこう言った。


「もう、気にしてないからいいよ。」


僕は左手で後頭部辺りを掻きながら、困った顔をする。


それを見た薫は


「まぁ、ライトも普通の男の子だもんね……」と呆れた顔をする。


そして


「ねぇ?聞いていい?」


と僕に問いかけた。


「えっ?何?」と返すと、彼女は恥ずかしそうに


「男の子ってさ、あんな声出されると…その…興奮しちゃうんでしょ?」


と、彼女は僕の股間を見て言ってきた。


僕は物凄く恥ずかしくなって股間を両手で抑えた。僕は先ほどの声を思い出し、少し膨らんでいた。


「ちょっと!薫ちゃん!」


その仕草に薫は


「あはははははは!」


と爆笑していた。


僕は耳まで真っ赤になり、視線を逸らす。


すると、彼女は立ち上がり、頬を染めると、僕に近寄ってまた耳打ちをした。







「もうちょっと大人になってからね」







(えっ!!!)


僕はかなり驚いて何も言い返せなくなっていた。


すると、そこに莉乃が鍋を手にして戻ってきた。


「懐中電灯無いと、どこ置けばいいかわからないんだけど…」



すると薫は


「あぁ!ごめん!」


と言い、袋から発電機を出そうとした。小型発電機を、薫は一人で持ち上げようとしていて、僕は急いで向かった。


「薫ちゃん。一人じゃ無理だって」


僕は片方を持ち、二人で洞穴に持っていった。


そして、中に入ると発電機を一旦起き、薫は再び戻ってリュックから、LEDランタンの灯りを点け、洞穴の中に入って行った。僕は後に続くと


初めて気がつく


洞穴はそれほど深く無く、以前、人が使われていた形跡があり、酒瓶やタバコの跡、ガスコンロ、セクシーな本やテーブルなどが無残に置いてあった。


セクシーな本の表紙を見ると、かなり昔の芸能人であることがわかった。


(この人、昔、グラビアやってたんだ。)


僕はジーッと見ていると、後ろから鍋を発電機の上に置いた莉乃が声を出す。


「お兄ちゃん!エッチな本、ジーッと見てないでよ!」


「わぁ!」


その声に僕はビックリして、足が前に向かって動き出し、石に躓いて前に転んだ。


「いたたたたたっ」


思いっきり膝をぶつけ痛がると

メガネが落ち、メガネを探した。

すると岩に触れ何か異変を感じる。


近くに落ちてたメガネを取って、それを見た。岩にはナイフで、削られた後があり、よく見ると名前が彫ってあった。


僕ら3人は覗き込むように、その文字を読む。


「類 康子」と傘マークの中に名前が書かれていた。


莉乃はそれを見て


「お父さんとお母さんの名前と同じだ…」と呟く


僕は「あはははは、まさか…」と笑った。


薫はキョロキョロと周りを見渡すと何かを発見したようで



「その『まさか』かもよ?」と言う。



ランタンを、全体が見えるように照らした。



明らかに『生活』していた後がある…古い漫画や、雑誌、日記、そして漢字ドリルや動かなくなった置き時計があった。


僕は漢字ドリルを手に取る。


そこには、名前が書いてあった。


『1年3組 菅原 類』


父親の名前だった。


僕はジーッとその名前を見つめると、莉乃も横から入ってくるように見て考え深そうな表情を浮かべる。


「お父さん・・・だよね・・・」


莉乃はそう呟くと…莉乃の目には涙が浮かんでいた。


薫は莉乃のか細い声が聞こえたみたいで、父親が行方不明になっていることを知る薫は、莉乃を後ろから、ギュッと抱きしめた。


そして、僕は複雑な気持ちだった。








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