第17話 秘密基地

午後


僕らは結局、お昼ご飯までお世話になった。メニューは、豆腐ハンバーグだった。莉乃はご飯付き、僕は薫から言われ、ご飯抜きだった。リビングで僕らは食事をすませると


莉乃は「おばさんの料理美味しかったぁ」と笑顔で満足していた。


それを見て僕は

「ちゃんと、お礼言ったか?」と問う。


「もちろん!」


すると、薫のお母さんはニコっと笑い片付けを始めようとしていた。


僕はそれを見て、椅子から立ち上がりキッチンに向かう。


「手伝わせて下さい」とお願いした。


「そんな、良いわよ。お客さんなんだから、ゆっくりして?」と言われる


「そ、そんな、せめて片付けくらいやらせてください。」


「うふふ、じゃあ、お皿拭いてくれる?」そう言うと布巾を渡してくれた。


その僕らの姿を見て、莉乃は


「私もやるー!」


と言ってやってきた。


結局、3人で一緒に皿洗いをやってると、階段を降りてくるズシッとした音が鳴る。


何かと僕は視線を向けると、大量の荷物を持った薫の姿だった。大きなリュックを背負い、両手に一個ずつ袋を持っている。


(すごい量の荷物…どうするつもりなんだろ?まさか…)


僕は嫌な予感がした。


「ライト…これ、めっちゃ重たい…」と言うと、右手に持っていた袋を僕に渡す。


その瞬間ズシッと凄い重みを感じる。それと同時に筋肉痛の部分に痛みが走る。


それを見て、お母さんは


「あらあら、またそんな大荷物抱えて、どこ行くの?」と問う。


「森に行くんだよ。」と薫は言うと、左手に持っていた大きめな袋を莉乃に渡す。


「わっ!」莉乃はびっくりして、袋を床に付けた。


「女の子だからって、軽い物、持たせるなんて甘いことしないよ?」と薫はニヤニヤしながら言う。


僕は「薫ちゃん…これ、何入ってるの?」と問うと


「ライトの袋には小型発電機とライトだったかな、ライトだけに」


(通りで重たいはずだ…)


続けて、薫は莉乃に言う


「莉乃ちゃんの方は色々入ってるよ。本とか、多分8キロくらいあるんじゃない?」


それを聞き莉乃は


「鬼だぁぁぁ」と叫ぶ。


「大丈夫だよ。自転車使うし、お母さん、お父さんの自転車と二人分、自転車貸して」と薫はお願いする。


「何するか知らないけど、薫、また危ない事しようとしてるでしょ?」どうやら、先程の『秘密基地』は耳に入っていなかったようだ。


「んーん、大丈夫だよ。」と薫は笑顔で答える。


「発電機まで持って、ちゃんと後で元に戻しておいてよ。」とお母さんは言うと


「はーい」と返事した。







僕らは外に出て、借りた自転車に荷物を乗せていく。


「よいしょっと!」薫は自転車のカゴにリュックに乗せると、かなり自転車はバランスを崩した。


(どんだけ、荷物入っているんだ…あのリュック…)


さらに、うまい具合に大きめのスコップを本来なら傘を入れる筒のような所にうまくはめた。


(す、すごいな…)


僕は初めて見るその自転車の姿に驚きを隠せなかった。


「お、お姉ちゃん、すごい…」莉乃も驚愕しているようだ


「さぁ、あの森、目掛けて行くよ!」と薫は元気よく右手人差し指を指す。そこは緑で生い茂る森だった。


見た目はまあまあ遠い所だった。


僕らは自転車を発進させると、徐々に森が近づいてくる。




そして




10分ほど自転車を漕いでいた時だった。


前から見覚えのある女の子が道路に立っていた。

僕はすぐにその女の子が誰だか分かった。

とっさに僕は、その女の子に声を掛ける。


「さ、佐々木さん?」


そう、僕の思い焦がれていた相手の佐々木愛美だった。


彼女は、暗そうな表情で僕らを見た。


「…」


無言で愛美は僕らをじーっと見る。


「こんにちわ、早弓君…」


彼女の声はどことなく元気が、無さそうだった。

僕は心配な気持ちになり、顔を真っ赤にしながらも問う。


「ど、どうしたの?こ、こんなところで」


「早弓君には関係ないよ」


と顔を背けた。


すると、薫はそれを見て


「あなた確かライトと同じクラスの佐々木さんだよね?」と問う。


彼女は薫を見て


「だとしたら、何?」と薫に聞いてきた。


明らかに薫を睨みつけているように見てきた。でも、そんなことお構い無しに、薫は


「なんか、あったの?」心配そうな顔を浮かべ、薫は問う。


すると、突然、不機嫌になり愛美は怒り出した。


「だから!あんた達には関係ないって言ってるでしょ!」


そう言うと彼女は走り去って行ってしまった。


「何よ。あの子、突然怒鳴りだして」


莉乃は不思議そうな顔の中に不快な気持ちを表面にした。


薫は、僕の顔をじーっと見つめ


「ライトくーん。何ぼーっとしてるのかなぁ?」と明らかに嫉妬した顔で見てきた。


「い、いやぁ…」僕は薫の顔が少し怖く、視線を逸らす


「まっ、あの人にも色々あるんでしょ」と、言うと薫は自転車を再び漕ぎ出した。


それにしても、とても自転車は重たく感じる。漕ぐ足にも力が入っていた。

僕は「んぐっ!」と言いながら、自転車を漕ぐ、少し進むと、惰走に入りようやく、普通に漕げるようになった。


しばらく、自転車を走らせる…僕は愛美のことを考えていた。


(前から思っていたけど、なんか様子がおかしい…何があったんだろ…)


貴志達と絡んでいることだけでも、僕は嫌な予感がしていたが、その『嫌な予感』は、後ほど当たることになる。


まさか、愛美があんな目に遭っていたなんて…この時の僕は予想だにもしていなかった。







しばらく、自転車を漕ぐ、だんだん緑に囲まれて、道路は土交じりになってきた。


傾斜も徐々に付いてきて、僕らは立ち漕ぎになる。すると、完全に道路から地面が土に変わっていった。


「うーわー。キツイよ!」


莉乃が叫ぶ


僕も息を切らして、なんとか立ち漕ぎをして、目的地まで辿り着いた。


「はぁ…はぁ…はぁ…ここは?」僕は大汗をかきタオルで、顔を拭きながら薫に問う。


「はぁ……はぁ……」あの薫が珍しく息を切らしていた。


(薫ちゃんもやっぱり人間なんだな…)


そんな失礼な事を思いつつ、僕らは目の前に2m四方の洞穴に到着した。


「はぁ…はぁ…お姉ちゃん、大丈夫?」と莉乃は問う。


「ふぅ…大丈夫だよ。」


すると、薫は表情をキリッとして





「ここを今日から私達の秘密基地とする!」





薫は無い胸を張りながら、宣言した。



「へ?ここを?」僕は言うと中を覗き見た。


緑で囲まれていて、中が真っ暗、一筋の光さえも入らない…闇に包まれていた。


(熊とか出てこないよな…)


僕は思った。


すると、薫はリュックの小さいチャックを開く、中から何かを取り出すと、

ジーンズのポケットからライターを取り出した。


なんと、それは爆竹だった。


僕はそれを見て驚いたが、薫はそんな事を気にせず、当たり前のように、爆竹の導火線に火を付けた。


「か、薫ちゃん!」


そう声をかけるも遅く、彼女は洞穴に、爆竹を放り投げた!




パンパンパンパンパン!




すると、中から黒い物体が大量に外に出てくる


「うわぁ!」


それは僕の目の前を通り過ぎ、腰を抜かして、地べたに座るような形になった。


「あははは!ライトビビりすぎ、たかがコウモリだよ?」


その姿を見た莉乃は


「お姉ちゃん…いや、薫さん…凄すぎる…」と唖然としていた。


薫は恐れを知らず、リュックから懐中電灯を取り出すと中に入って行った。


「ふーん。案外、綺麗なんだ?」


洞穴の中にどんどん、薫は入って行く


僕は「薫ちゃん!危ないって!」と制止しようとするも、薫は聞かない


それどころか、横にいた莉乃も両手で顔を叩き


「よしっ!行くぞ!」


と言って中に入って行った。


「り、莉乃!」


妹も中に入って行った。


僕も勇気を絞り出し、生唾を飲み込み、中に入る決心をした。


中に入ると、とても冷んやりとして涼しく感じた。まるでクーラーが効いているような、そんな感じがした。しかし、ところどころ見ると、蜘蛛くもやゲジゲジやムカデなどがいる。

僕は内心ビビりながら、奥に入っていく・・・


真っ暗な闇の中に、懐中電灯の光が当たっている。


すると…


「ライトーーーォ」


彼女は白目を剥き、僕の方を見て、懐中電灯を顔に当てた。


「うわぁ!」僕はビビってしまう。


すると、薫と莉乃は


『あはははははははは!』と大声で爆笑していた。その声は壁に反射してとても大きく聞こえた。


僕は一旦外に出ると、二人とも揃って外に出た。


「あはははははは、ライトの今の顔、すごい面白かった!『わぁ!』って、あはははははは!」


薫はまた大笑いをし、ツボ入ったようだ。


しばらく、二人は笑っていると僕は

「あんなの誰だってビビるだろ!」と怒った。


「ごめんごめん。でも、ライトのリアクションが…ひっ…ひっ…ぷっ、あはははははは」


彼女は僕のリアクションを思い出したのか、再び笑う。


僕は嫌な顔をした。


(調子に乗られてる・・・)


すると、莉乃はニヤリと笑みを浮かべ、薫の横腹を突っついた!


「ヒャン!」


薫は昨日の変な声を出す。


「ちょっ!やめてよ!」


「お兄ちゃんイジメちゃダメだよ。イジメたら、私、許さないよ?お姉ちゃん」


と、また彼女の横腹を突っつく。


「あっ、ヒャン!」


僕はそれを見て笑った。


「あはははははは!莉乃、もっとやっちゃえ!」


「ちょっと!ライトまで何言って…あっ!」


莉乃の突っつきに声が変わった。


(もしかして、今の声って・・・)


僕はその声を聞いて、どこか罪悪感を感じた。


彼女は顔を赤く染める。


莉乃は意味不明な顔をするが、僕らは明らかに『意識』していた。

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