第19話父親

その後、僕ら3人は無言で洞穴にいた。


(まさか・・・親がここ使っていたなんて・・・)


漢字ドリルは、中学生の時のものだと中身を見て知った。つまり、今の僕らと同じころにいたことだと言うのを理解する。


その沈黙を破ったのは、薫だった。


「まさか、昔、ライトのお父さん達が使っていたなんて、まるで何かに導かれるような気分だね。」


確かに彼女の言う通りだった。


「菅原 類」僕は1日たりともその憎い名前を忘れた事がない。


離婚を理由に家を飛び出し、我が家を『破壊』した元凶の一人なのだから・・・


それ以来、電話の一本も入ったことがない


薫は続けて、言ってきた。


「行方不明になったって聞いたけど・・・離婚して、梨乃ちゃんの親権取ったなら、何故一緒に梨乃ちゃんがいるんだろ?」


すると、梨乃は突然、怒り出した


「お姉ちゃんには関係ないでしょ!」


すると、梨乃は飛び出すように洞穴を出た。


梨乃が怒るのも無理はない・・・梨乃が一番父親のことが好きだったのだから


僕は、そんな妹を追いかける事もできなかった。


「私、いけないこと言っちゃったね・・・」


僕は彼女の発言に頷いた。


彼女は真剣な表情で、僕に問う


「ライト・・・ごめん、公園で話は聞いていたけども・・・でも、もう少し詳しく教えてくれない?」


言おうかどうか、僕は躊躇とまどった・・・でも、薫が以前、勇気を出して、レイプされそうになったことを告白してくれたことを思い出し、僕はゆっくりと口を開く


「わかった・・・」


僕は岩に腰を掛ける





僕は、続けて小学校6年の春の日のことを思い出しながら話す。


「すべてはあの日から始まったんだよ・・・僕らが学校行っている時に、父親はうつ病で家に仕事から帰ってきたんだ。」


「うん・・・」薫も隣に座ってきた。


「そしたら、知らないおじさんと、裸で抱き合っている母親がいたらしい・・・」


彼女はゴクンッと唾を飲む


「それがきっかけで、父親はキレたらしく、母親をビンタした・・・知らないおじさんが止めに入ったみたいだけど、父親の方が力強かったみたいで、殴り合いの喧嘩になったらしい」


「それから、お父さん・・・いなくなったんだね?」


僕は頷いた。


すると彼女は僕の頭を胸に当てて、頭を撫でだした。


不思議と僕はその胸に引き寄せられるようになった。そこには恥ずかしい気持ちは不思議となく、寧ろ、どこか安心感が生まれた。


彼女は


「もっと吐き出していいよ・・・」と耳元で呟く


僕はその優しい声に、涙が浮かんだ。


「梨乃が先に、家に帰ってきたんだけど・・・梨乃が言うには、裸で呆然としている姿の母親がいたらしい、お父さんが言うには、おじさんは逃げたみたいで梨乃は何があったのか理解できていなかったみたいで、父親もそれっきり家に帰ってこなくなったんだ・・・」


「って言うことは、お父さんとはその後、会ったんだよね?」


「うん、裁判所で会ったよ。でも、親権は何故か梨乃の方を取ったみたいだけど、何故か梨乃を置いていった。」


その時の様子は、はっきりと覚えていた。父親は何も語らず振り返ることはなく、真っすぐと一人、夜の闇に消えて行った。僕ら3人は、『置き去りにされたのだ』と・・・僕は、『僕は捨てられた』と思っていた。







彼女は、何かを考えている・・・そして、閃いたようだ。


「まさかだと思うけど・・・お父さんいつか梨乃ちゃんを迎えに来るつもりじゃないかな?」


その言葉に僕はドキッとさせられる。


続けて、彼女は言ってきた。


「それとたぶん、お父さんはライトに『お母さんを守ってほしい』そんな願いがあったのかも・・・」


僕はそれを聞いてムッとした。


そして、僕は立ち上がり大声で





「なんで、あんな母親、守らなきゃいけないんだ!」





心配そうな顔で、彼女は僕を見る。






「毎日、どっかお酒飲みに行って帰ってこないし、どうせ、知らない男の人と一緒にいて、梨乃のこと僕に任せっきりで、僕は・・・僕は・・・」






僕は、自然と涙が頬を伝う・・・


薫は立ち上がった


そんな僕を見て、彼女は怒りの表情を浮かべ、ゆっくりと近づいてきた






バチンッ!





僕の頬に乾いた音がなる。僕は彼女にビンタされた。


そして、薫は大声で僕に言った。





「なんでもかんでも、一人で背負おうとしないでよ!!!」





その言葉が僕に突き刺さった




「あんたも私も!まだ子供なんだよ!そんなの一人で抱えられるわけないじゃない!」




僕はその言葉が胸に刺さった。


そして、僕は言う


「じゃあ・・・どうすればよかったんだよ・・・」


そして、彼女は強い口調で僕に言った








「私がいるじゃない!!!!」






彼女の見ると、ランタンのせいなのか、顔を真っ赤にして覚悟を決めたような顔をしていた。


手には思いっきり握り拳を作っていて、仁王立ちしているようだった。


「ライト、私になら何でも話していいんだよ?梨乃ちゃんも、ライトも私が守ってあげる・・・」


そういうと、彼女はビンタした頬を手でなぞってきた。


「ごめんね・・・いきなり殴って・・・」


「・・・」


僕は黙り込むと、彼女は優しく僕の体を包んでくれた。


「痛かったね・・・痛かったね・・・」


何故か薫も泣いてくれていた・・・僕は、ビンタされたにも関わらず、彼女の優しさに心から泣いていた。


昨日、公園で伝え切れなかったこと・・・ようやく吐き出せた・・・


しばらく、僕を抱きしめてくれた後、薫は泣き止み


後ろを振り返った。


「次は梨乃ちゃん、そこにいるのわかってるよ。あなたの番だよ?」


梨乃は入口に隠れていた。そして、モジモジと恥ずかしそうに顔を出すと


梨乃も涙を浮かべて仁王立ちしていた。


「おいで・・・」


薫はそういうと、梨乃はゆっくり歩きだし、彼女は梨乃を抱きしめた。


初めてかもしれない・・・まるで母親のように優しく抱きしめられ「私が守ってあげる・・・」なんて言われたのは・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




そして、僕らは洞穴の外に出る。


既に外は日が沈みかけ、夕日になっていた。


(今日は帰らなきゃな・・・)


僕はため息を付く


それを見て薫は


「いつまで、くよくよしてるの!ほら、暗くなる前に帰るよ!ライト!発電機持って!」


「えっ!持って帰るの!これ!」


「お母さんに怒られちゃうもん」


そう言って、彼女の持つ小型発電機は僕の使っている自転車の籠に乗せられた。


リュックなどはその場に置いて、洞穴は後日、改築していくことが決まっていた。







そして、僕ら兄妹は団地に戻る。すでに日が沈み、公園の電灯が辺りを包んでいた。


自転車は薫の家に返して、僕らは歩いて帰宅した。帰るとき、薫は何かを言いたそうにしているのを感じていたが、僕らは疲労のために、すぐ帰宅することにしていた。


玄関まで辿り付くと、梨乃は


「なんだか、汗かいて泣き笑い、忙しい1日だったね。お兄ちゃん


と言う。

その言葉に対して、僕は頷くと1日を回想していた。

(薫ちゃん・・・)

心の中でそう唱えていると僕は色々あった出来事を思い出す。



僕は玄関の扉を開ける・・・予想はしていたが、真っ暗な部屋になっていた。


(やっぱり、お母さん帰ってきてないか・・・)


「梨乃、僕は疲れたから、シャワー浴びて寝るよ・・・」


夕飯のことなど頭に無いくらい、疲れがあった。


梨乃も


「うん、そうだね・・・」


と言う、梨乃も食欲が無いくらい今日、遭った出来事には疲れているようだ。


僕らは、シャワーを浴び、服を着替えた。そして、お互いの別々の部屋に入った。


僕はいつものようにスマホにイヤホンを付け耳に付けると、ベッドに横になり一人の世界に浸る。


(薫ちゃん・・・優しいのか厳しいのかわからない・・・とにかく疲れたな・・・精神的にも体力的にも・・・でも・・・抱きしめてくれた。あの声も聞けちゃったし・・・)


そう思うと、僕は頬を赤く染め、疲れているはずなのに、股間が発っていた。


(こんな時・・・大人はどうやって気持ちを処理するんだろう・・・)


この頃の僕はまだ、処理の仕方を知らなかった。収まるまで、とにかく我慢しかないと思っていた。







しばらく、すると電話がかかってきた。


ビックリして、スマホの画面を見ると


薫からの電話だった。僕は電話に出る。








『もしもし、ライト?』


『うん・・・どうしたの?』


『ちゃんとご飯食べてるかな?と思って』


『今日は疲れすぎて、食べてないよ・・・』


『そうだよね・・・私も食欲無くてさ・・・あのね、ライト』


『ん?』


『あっ、その前に、今、梨乃ちゃんは?』


『莉乃の部屋にいるから大丈夫だよ?』


『そっか・・・それならさ、これから二人で会わない?』



僕は時計を見る、すると時刻は21時を過ぎていた。



『もう遅いし、お互い疲れてるし今日はやめておこうよ・・・』


『そっか・・・会って伝えたいことがあったんだけど・・・』


(伝えたいこと?なんだろう)


僕は思った



すると、彼女の口から


『明日は6時に団地前の公園に集合ね!』


突然、約束を取り交わされた。


『えっ?は、早くない?』


『早い方がいいの!動きやすい恰好で、軍手とビニール袋持ってきてね!あっ、梨乃ちゃんは起こさなくていいから』


僕は不思議に思った。


(なんで、そんな早い時間に?動きやすい恰好と軍手とビニール袋?ラジオ体操ってわけでもなさそうだし・・・一体なんだろう?)


『それじゃ、また明日ね。』


彼女はそういうと電話を切った。


(一体なんなんだよ・・・突然会おうとか・・・軍手用意しろとか・・・)



僕は再び、ベッドに横になり、イヤホンを耳にして、そのまま眠ってしまった。







この日も僕は夢を見る・・・


大きな草原に囲まれる夢だ。


誰もいない、莉乃も、薫も、貴志も、誰もいない・・・


不思議と草原にいても寂しい気持ちにならなかった。


寧ろ、わくわくする、そんな気持ちになっていた。


僕は草原を、走り回ったり、寝っ転がったりしている


すると、1匹の黒い子猫が出てきた。


その猫は僕に日本語で話しかける


「良いところでしょ?」


「うん!すごく良いところだね!」


僕は初めて見るはずのその子猫を知っているように見えた。


すると一本とても大きい階段が出てきた。


僕はびっくりする


「わあ!大きい!」


「この階段を登っていくとね。何があると思う?」


真っ白い、その階段を見て僕は


「天国かな?」


と答える


しかし、黒猫は


「んーん」


と答えた。


僕は何故か階段を登りたいという衝動に駆られ登ろうと試みる


黒猫はそれを見て


「いってらっしゃい」


と笑顔で言ってくれた。


とても不思議な夢だった。

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