第13話 フットサル①

しばらく、部屋で考えていたが、スマホの時計を見ると、19時30分を回っていた。僕はリビングに戻る。すると準備していた莉乃がいる。何やら、タオルや服など様々な物をピンク色のリュックに入れているようだった。


僕らは目が合うと


「そう言えば、フットサルってなんだろう?」


莉乃は問う


「うーん。確かミニサッカーみたいな、やつだったような…」


と僕は言う


「あー!サッカーか!授業でやったことあるよ!楽しいよね!昼休み校庭で男の子達がやってる!」


莉乃は明らかにワクワクしているようだった。


それに反して僕は嫌な予感みたいなものをしていた。


「うん、そうだね。でも、僕、体力無いから不安だよ」


と呟く


体力に自信がある妹は、目をギラギラと輝いていた。


「初めてだなぁ、夜スポーツするの、あと30分で迎えに来るんだね。すごく楽しみだなぁ」


「薫ちゃんのお父さんが来るんだし、あまり、失礼のないようにな」


「うん!」


妹は、元気よく返事をすると食べ終わった食器をキッチンまで持っていく


「ごちそうさま〜♫」


相当楽しみなのか、莉乃は食べるスピードがとても早く、水を流しスポンジに洗剤を着けて片付け始めた。


「僕がやるから、置いといていいよ?」


と言うと


「いいから、いいから」


と莉乃は言い出し、片付け出した。


僕はその行動に妹の『成長』を感じた。


その後、僕も食べ終わり食器を片付けをする。内心


(物足りないな…)


と思いつつ、フットサルに行く準備をした。


運動できるよう、黒のシャツと昔買ったスポーツが出来る半ズボン、体育館履きとタオルを入れる。


キッチンに戻り、黒色のリュックに水筒に麦茶を入れ、着替え用の服も用意をする。


時計を確認すると時刻は19時55分を指していた。


「莉乃、準備出来たか?」


「うん!」


すると、僕のスマホが鳴った。僕はバイブの音から電話であることがわかり、一旦自分の部屋に戻る。スマホを確認すると


『村石 薫』と表示されたその文字を確認して通話ボタンを押す。


『もしもし、ライト?』


『うん』


『もうすぐ、着くからよろしくね。下で待っててね。』


『わかった。』


そう言うと彼女から電話を切った。


莉乃は僕の部屋に来ると、ピンク色のリュックを持ってやってきた。莉乃もまたすぐに動けるように、運動出来る通気性の良いシャツに、ジャージのズボンを履いてやってきた。


莉乃はニコニコしながら


「お姉ちゃんから、電話だったの?」


「うん、薫ちゃんからだったよ」


「早く来ないかなぁ」


そう言うと、ワクワクしている気持ちが抑えきれなかったのか、部屋をランニングし始めた。


「莉乃、そんなに動いたら、疲れちゃうよ?」


「いーの!ウォーミングアップだよ!」


「やれやれ…」


はしゃく妹に少し呆れたが、玄関に向かっていった。靴を履いている間

莉乃も玄関で靴を履き、ドアを開けた。


エレベーターを使い、1階まで降りると、1台の車がタイミングよくやってきてライトを照らしながら白い車がやってきた。


その車はワゴン車で、僕らの前で止まり、助手席の左側の扉、つまり、僕らの目の前で窓が開く


「お待たせ!ライト!莉乃ちゃん!」


「う、うん。」


先程まで一緒だったはずなのに、何故か僕は照れた。


莉乃は僕のお尻をつね、痛みを感じた。


「こういう時、普通『待ってない』とか言うでしょ」


「だからって抓るなよ。痛いって」


車の中を覗くと、薫のお父さんと思われる人が運転席に座っていた。見た目は、なかなかカッコよく、短髪で座っていたのでよくわからないが、ガタイもよさそうだった。しかし斎藤先生のような厳しそうな顔をしていた。上下ジャージで身を包んでいた。

僕は、その姿を見て先生を思い出して緊張したが、挨拶をする


「こ、こんばんわ!初めまして!早弓と言います!き、今日はよろしくお願いします!」


すると、お父さんも挨拶してくれた。


「こんばんは、薫から話は聞いているよ。さぁ、二人とも遠慮せずに車に入りなさい。」


「は、はい!お邪魔します!」


そう言って僕ら二人は車に乗車させてもらった。


お父さんは車を発車させると、僕にこう言った。


「初めましてだね。ライトくん。娘がお世話になってるようで、君に会うの楽しみにしていたよ。」


「は、はい…」


すると、薫は僕の明らかに緊張している姿を見て、笑っていた。


「あははは、お父さんコワモテだから、怖いんでしょ?」


僕はそれを聞いて顔を赤くしながら否定する


「ち、違うよ!」


すると、お父さんはそんな薫の言葉を聞き


「コワモテって、お前な…」


と彼女の脇腹を突っついた。


「ヒャン!」


薫は変な声を出した。

薫は脇腹が弱く、凄くこそばゆかったみたいだ。


それを莉乃は見逃さずニヤニヤとしていた。


そして、莉乃も薫の右脇腹を攻撃する。


「えいっ!」ツンッ


「キャッフン!……って!莉乃ちゃんやめてよ!」


「あははははは!変な声、お姉ちゃんの弱点見つけちゃった!あははははは!」


莉乃は大声で出して笑っていた。


それを見て事故に遭わせてはいけないと思い僕は慌てて


「り、莉乃。やめなさい、危ないだろ」


と叱る。


すると、お父さんも笑いながら


「あはははは。こりゃ今日は楽しくなりそうだな。」


薫は恥ずかしそうに


「ほんと、やめて…」と下を向いた。


それから車内は、お父さん、莉乃、薫の3人で僕の赤面症の事や今日の出来事などで会話が弾む。

僕は恥ずかしさもあり、外を眺めていた。そして、考え事をする。


(フットサルか・・・一体どんな人がやってくるのだろう・・・怖い人、意地悪な人がいるのではないか・・・)


そんなことを考えていると、莉乃は僕の脇腹をつっつく


「えいっ!」ツン、ぽよん


「・・・」


「何、暗い顔してるの?キンドラ」


僕は莉乃の方に顔を向ける。腹を突っつかれたことで、内心イラッとしていた。

「お前な・・・贅肉つっつくなよ・・・」


「だって、柔らかくて気持ちいいんだもん。あれ?そういえば、キンドラも脇腹弱くなかったっけ?」


「いーや、別に」


再び僕は外を眺めていた。昔、お腹を突っつかれるとくすぐったかったが、今の僕には不快感でしかなかった。


その姿に、前列にいる二人も不機嫌になっている僕に気遣っている様子だった。


薫は


「ライト、何をそんな怒っているのよ」


問うと


「別に怒ってないよ・・・ただ・・・」


目線を、薫に向ける


「不安なんだ・・・どんな人が来るのかもわからないし、フットサル初めてやるし・・・」


そういうと彼女は微笑みをくれて、こう言った


「大丈夫だから、そんな怖いところにライト達を連れて行かないから、安心してよ」


お父さんも

「ライト君、私たちのことを信用出来ないかな?」


と問われる


「い、いえ・・・そういうわけじゃ・・・でも、僕、赤面症だし、コミュニケーションとか苦手でうまくやっていけるかわかりません・・・」


「あはははははは、大丈夫だよ。君たち、特に莉乃ちゃんは入ったら最年少記録更新になる。ほとんど、大人の集まりさ」


「えっ、大人の?」


「うん、だから、君をいじめるような人はいない、娘からも話は聞いている。私もおせっかいながら、手助けできたらと思っているよ。」


そう言われ僕は再び顔を赤くした。


20分ほど車を走らせると、車は前に僕らが通っていた小学校に入って行く。


「さぁ、着いたぞ」


お父さんがそう言うと、駐車場に車を止めた。


僕はその時、一つの疑問が浮かんでいた。


「あ、あのー」


「うん?どうしたんだい?ライトくん。」


お父さんが言う


「い、今更なんですが、ここって、利用料いくらなんですか?僕ら、そんなにお金持ってないんですけど…」


そう、お金の心配だった。


すると、お父さんは


「あー、気にしなくていいよ。大人は500円だけど、高校生以下は無料だから」


そのセリフを聞いて、僕はホッとする。


そして、体育館に入っていった。


まだ、卒業して5ヶ月しか経っていないのに、中に入るととても懐かしい気持ちになる。そして、どこか新鮮な気持ちになる。夜の体育館・・・初めて来たのだから・・・


「うわぁ、久しぶりだなぁ」


僕は呟くと妹は笑い


「久しぶりだよねぇ」と茶化してきた。


それを聞き僕は


「莉乃は、昨日来たばかりでしょ」


「えへへ、キンドラにつっこまれちゃった。」


体育館の中には老若男女、様々な人が準備運動や会話など、様々な人がいた。

中にはパス交換している人、思いっきりボールをゴールに蹴っている人もいた。


バコンッ!


ボールを蹴る音が体育館中に響き渡る。勢い良く鋭いボールがゴールネットに突き刺さる音がした。


そして、薫は


「おー、橋本さんすごいなぁ」とその男の人を見て感心していた。


その視線を感じてか、その橋本さんと言う人が僕らの方を見て声を掛けてくれた。


「おーい」


薫は笑顔で大きく手を振り


「こんばんは!橋本さん」


と大きな声で返す。


お父さんは会釈をし、僕らもそれにつられて、会釈をする


橋本さんは僕らの方に来て


「おー、君がカオの彼氏かぁ」と僕を見て言う。


どうやら、ここでは薫は『カオ』と言う呼び名らしく、後々分かることだけど、莉乃が来るまで体育館に来る最年少である為にかなり愛されキャラのようだった。


橋本さんは続けて僕に言う


「優しそうな彼氏だねぇ」


僕は顔を赤くしながら


「か、か、彼氏?!」と驚く


「ん?違うのかい?」


その会話に入って来るように。お父さんは


「ウチの将来の息子です。」と笑いながら冗談を言った。


僕と薫は顔を赤くして二人同時に言葉を発した。


『と、友達です!』


それを聞き、みんな笑っていた。それを見て僕の印象は変わった。


(良い雰囲気な場所だな、和気あいあいとして居心地が良さそうだ。)


僕ら兄弟はお父さんに体育館の中のロッカールームに案内される。

男女別々の更衣室があり、そのロッカールームにリュックを入れた。



そして、準備運動をしボールを使いパス交換をして練習する。


ここはどうやら、『サークル』と呼ばれる物らしく、紹介が無いと入れないようになっていた。そこで僕は一人運命的な人物に出会うことになる。


一人動きを見るだけでも素人の僕が見てもわかるくらいすごく、瞬発的に、そしてしなやかに、腕の筋肉を見ただけで筋肉質だとわかる高校生の男の人だった。

後に話を聞くと、彼はフットサル北海道選抜にも選ばれるエリート選手だと言う。


この時は、その出会いは全く意識が無く、ただただ、練習している姿を見て、『上手い人』の認識だけだった。


パス練習が始まると、和やかだった雰囲気が、ピリッとした空気に入れ替わる

早いパス、正確なトラップに対して僕は不安を感じていた。


(すごい・・・男性、女性、みんな上手い・・・この中で僕はできるのかな・・・)


素人の僕は、パスが来るもトラップをしても、なかなか収めることができない。そして、普段蹴っているサッカーボールとは違い、一回り小さく、そして重みを感じていた。


(こんなに、重たいのか…このボール)


そんなことを思いながら蹴っていた。


そんなプレーの姿を見て、一人の男性が僕に声を掛ける


「そういえば、お前、うちの近所の子だよな?」


その人は40代で白髪交じりの、強面の男性だった。


「お前どうして、ここにいるんだ?中学生でこんな遅くにきて大丈夫なのか?誰の紹介だ?」


その人の名前は、石川さんと言う方で、小学生の頃の僕をよく知る存在だった。

正直、僕は石川さんが苦手だった。小学生のころよく怒られていて、例えば、公園で遊んでいるだけでも、ボールが庭に入っただけで怒鳴ってくる。そんな人だった。


僕は、嫌な気持ちを隠すように、挨拶した。


「こんばんは・・・」


すると薫のお父さんが間に入る。


「石川さん、彼は私が連れてきたんですよ。」


「なるほどね・・・そういうことなら良いですが、あまりにもプレーが下手だったので、大丈夫なのかと心配になってね」


「あはははは、それは失礼しました。ライト君も莉乃ちゃんもサッカーもやったことがない子なので、どうかお手柔らかに」


「ふん・・・・仕方ないですね。」そう言うと僕らの前を後にした。


(石川さんにバカにされた気がする・・・悔しい・・・)


僕はどこか闘志が出ている気がした。


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