第7話 スタートライン
薄暗い部屋の中、アルバムに目を通すと、一枚の写真があった。
(ん?これは?)
僕は写真を手に取り、見つめていた。
(あぁ、そう言えば、この頃から君に『変えられた』んだよな、僕は…)
彼女は写真が好きだった。
何かある度にスマホで写メを撮り、赤面症の僕をよく困らせた。
(ふふふ…この頃の僕の顔、殴られて、腫れてる、そして、真っ赤だ)
その写真を見つめながら、思い出に浸る事にした。ブランデーを飲みながら…
……………………………………………
「ねぇ、ライト」
「う、うん」
「お祭りに行く前にさ、目標立てよう!」
僕は、その言葉に耳を傾ける。
「も、目標?」
僕は問う。
薄暗くなってきた公園で、彼女は真剣な眼差しで、僕を見てきた。
そして
「目標達成したら、あの…その…」
彼女は再び、モジモジと照れているようだ。
「な、なに?」
「私とファーストキスしよう!」
彼女の顔が真っ赤になって明らかに恥ずかしそうにしていた。
そして、このビックリ発言。僕の頭の中はパンク寸前だった。
「…えっ?ふぁ、ファーストキス…?!ぼ、僕と?」
そう言うと彼女は項垂れる。
「うん、だから…私が設定するからさ………頑張って!」
彼女は顔を上げ、顔を真っ赤にして右手で親指を立てた。『グー』のポーズだ。
ぼくは、それに対して一つの返事しか出来なかった。
「うん」
すると、彼女はホッとしたのか、胸を撫で下ろした。
「ふーよかった。断られたら、私、泣いてたよ?」
「えっ?な、なんで?」
「だって、私は『君』を変えたいんだ。変えられるんだ!」
真っ直ぐと見つめるその視線、僕は彼女が「真剣」である事を、確信した。
そして、僕は問う。
「も、目標ってなに?」
すると、彼女は考え出した。
「んー、まずね。」
そして、最初の彼女の発想がこれだった。
「『なるべく、夏休みは毎日、私と一緒に行動する』こと」
しばらく、その発言に沈黙した。
「へ?それだけ?」
ぼくは、明らかにもっと難しい難問を与えられると思っていた。
例えば、『痩せろ』とか『勉強しろ』と言うものである。でも、まさか、「目標」が『私と一緒に行動する』だなんて、容易い「目標」だ。
その時は、そんな風に軽く思っていた。
そして、彼女は笑顔を作り大きな声で
「うん!」
と返事をした。
「そ、そんなのぼくだって出来るさ」
そう言うと
「果たして、本当に出来るかな?」
ニヤっと笑う。ぼくは逆にそれが怖いと感じた。
「あははは!大丈夫だよ。焼いたり煮たり、死ぬわけじゃないからさ」
彼女は、そう言うとリュックの中に、サッカーボールを閉まった。
「じゃあさ、明日。私、10時頃ライトの家行くから」
さらっと言ったその発言、ぼくはとっさに
「あ、うん」
と、答えてしまった。
そして、彼女はスマホを取り出した。
この時は、一体、彼女は何をするのだろうかと不思議だったが、これが僕を変える一つのきっかけになった。
彼女はスマホのカメラ機能を使い、僕の頬に、頬を擦り付けた。
(お、女の子の顔がこんなに近くにあるなんて…ちょっと、痛いし、は、恥ずかしい)
カシャッ!
(えっ?)
そう、写真を撮り出したのだった。
「ライト!今日から君は生まれ変わるんだよ?だから、その『記念』だよ?」
「き、記念…」
そして、彼女はリュックを背負い自転車に乗った。
「じゃあね。私、帰るから」
そう言うと彼女は手を振り去って行った。
こうして、僕らは『スタートライン』に立ったのだった。
お祭りまで、残り40日…身長145センチ、体重55キロ。
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