第5話 ギルドの夜

 昨日は夕方にごたごたがあって、あまりギルドの様子を話せなくてごめんなさい。

今日は、がんばってウチを紹介するわ。


 夕方になると、討伐、採集に行っていたほとんどの人が帰って来て、ギルドがにぎわうという話はしたわね。

 その後は、食事をしたり、お酒を飲んだりすることが多いの。


 ギルドの受付がある部屋があるでしょ。

 そうそう、壁に依頼の紙が貼ってある部屋よ。


 あの部屋にいくつか置いてある丸テーブルで、皆が食事やお酒を飲むの。

 ちょっと冒険者たちの話を聞いてみましょうか。


「しかし、昨日のハゲは許せんかったよな」


「「「キャロちゃんイジメた!」」」


「二度とあんなことがねえように気をつけようぜ、みんな」


「「「おー!」」」


「ところで、お隣さん。

 今日の討伐はどうだった?」


「ああ、『ブレイブズ』の皆さんか。

 森の中で、ゴブリンの群れと遭遇しちまってよ。

 死ぬかと思ったぜ。

 あんたらの方は、どうだった?」


「もう、からっきしさ。

 俺たちゃワイバーンを探しに行ったんだが、一匹も見えねえから帰ってきたぜ。

 これじゃ、大赤字だ」


 テーブルに着いたパーティ同士で、その日の討伐を自慢し合ったり、情報を交換したりするのよ。

 これも、冒険者の大事な仕事なの。


「ワイバーン、本当にいるのかね」


「昨日、『ハピィフェロー』がダートンまでの街道沿いで一度に三匹も見たらしいぜ」


「かーっ!

 また、あいつらに先越されたか。

 例のゴブリンキング討伐から、あいつら調子づいてるな」


「まったくだ、俺たち『やさしい悪魔』もあやかりたいもんだぜ」


「そういや、例のルーキー、最近姿を見ねえけど、どうしたんだ?」


「ああ、お前らがちょうどダンジョンに遠征してた時、獣人国へ行ったぜ」


「へー、ってことは、ポータル潜ったんだな」


 この世界は、他の世界と『ポータル』っていう門のようなモノで繋がってるの。

 だから、それを使えば、他の世界へ移動することもできるのよ。


「ああ。

 冒険者になってそんなにたたねえのに、すげえ奴だよな」


「確かにな。

 それに奴は、ランクが上がっても偉ぶらねえからな」


「シローのやつ、女王陛下やリーヴァスさんとも知りあいだっていうぜ」


「リーヴァスさんか! 

 凄えな。

 お前ら、あの人が戦うところ見たことあるか?」


「いや。

 でも、お城勤めを辞めて、ギルドで指導役をするって聞いてるぜ」


「なにっ! 

 俺、絶対あの人と討伐行きたいよ」


「あんたなんかじゃ、まだまだ無理よ」


「リリー、そりゃねえだろ。

 こう見えて、俺、銀ランク長えんだぜ」


「私、一度リーヴァスさんが戦うところを見たことあるのよ」


「おいっ、本当か!?」


「そりゃ、凄え。

 で、どうだったい、あの人の戦いは?」


「どうだったもなにも……センライ地域知ってるでしょ」


「おサルさんが、いるところだろ?」


「ホワイトエイプね。

 あそこに盗賊団が現れたでしょ」


「そういや、三年程前に、そういうことがあったな」


「盗賊団のボスが騎士崩れでね。

 騎士団が何度か討伐に向かったんだけど、ボスが騎士の手口をよく知ってるから、なかなか討伐できなかったのよ」


「ああ、それは俺も聞いたことあるな」


「センライの隣にタリー高原あるでしょ。

 その日、私たちは、そこでコボルト討伐をして帰る途中だったの」


 部屋の皆がリリーさんの周りに集まってきたわ。冒険者は、話し上手が多いのよ。


「森から出てホッとしたから、油断したのね。

 木立に隠れてた盗賊団に囲まれちゃったのよ。

 敵は二十人以上、私たちは六人でしょ。

 もう絶対絶命。

 死を覚悟したわ」


 パーティは最低二人から組めるけど、役割分担があるから五人以上のものが多いわね。


「せめて何人か道づれにしてやろうと、剣を抜いた途端、盗賊が全員地面に転がってたのよ」


「魔術かい?」


「いえ、多分近接戦闘だと思う。

 リーヴァスさんが、二十人を一瞬で無力化したのよ」


「ホ、ホントかよ。

 こうして直に聞いても信じられねえぜ」


「ねえ、リーヴァスさんが剣を抜くところは見なかったの?」


「それが、私が見た時には、穏やかに微笑む彼が立ってるだけだったの」


「ひゃー、かっこいい!」

「あこがれちゃうな~」

「さすが『雷神リーヴァス』だな」


 その人が、迷子の私をこのギルドに紹介した方よ。

 私がここで大事にされてるのは、そういう理由もあるかもしれないわ。


「結局、私たちがしたのは、ロープで盗賊を縛るだけ。

 それなのに、私たちも一緒に盗賊を討伐したってことにしてくれたのよ」


「いいなー、私もそんな目に遭ってみたい」


「馬鹿ね。

 死にかけて本当に怖かったんだから」


「じゃ、パーティ『バラのとげ』は、大儲けだったな」


「ああ、その頃は、『白いウサギ』に入ってたから。

 皆、盗賊の懸賞金までもらってホクホクだったわ」


 冒険者は、様々な理由で所属パーティを変えることもあるの。

 ずっと一つのパーティにいる方が珍しいのよ。


「懸賞金って、いくらもらったんだ?」


「確か一人銀貨五十枚くらいだっけ」

(作者注:銀貨五十枚=約五十万円)


「はーっ! 

 なんだ、そりゃ。

 うらやましすぎるぜ」

「ああ、そん時知りあってたら、おごってもらえたのにな」


「馬鹿ね。

 銀貨五十枚なんか、装備一式交換してお終いよ」


 冒険者は、儲けも多いけれど出費も多いの。

 装備自体の費用はもちろん、そのメンテナンス、怪我をした時のポーション、宿泊代や食事代。

 きちんと考えてお金を使わない人には、続けられない仕事なの。

 だから、冒険者になる人は多いけれど、冒険者を続けられるのは、ほんの一握りね。


 今ここで、食べたり飲んだりしているのは、その一握りの人たちってわけ。

 あ、キッチンのカウンターからシェフが顔をのぞかせたわ。


「おーい、ラストオーダーだぜ」


「じゃ、俺、この酒もう一杯」

「私も、もう一杯もらおうかな」

「俺もー」


 私の故郷フェアリスのお酒に比べると、人族のお酒は今ひとつだけど、それなりには飲めるわね。

 私も時々飲むのよ? 

 え? 

 私の年? 

 お酒が飲める年だってことだけ教えとくわ。


「みなさん、聞いてね」


「お、キャロちゃん!」

「ギルマス!」

「天使ちゃん!」


「昨日は助けてくれてありがとう。

 最後の一杯は、私のおごりよ」


「やったー!」

「わーい!」

「だから、キャロちゃん好きー!」

「さすが、俺の天使、キャロちゃんだぜ」


 変な発言も混じってるけど、みんなが喜ぶなら安いものね。


「ギルマス、そいつら甘やかさないほうがいいですぜ」


 シェフが呆れ顔で忠告してくれるの。


「シェフはひっこんでろー」

「そうだそうだー」


「へいへい、どうせもう店じまいだよ」


 まあ、こういう感じでギルドの夜は更けていくの。

 どうだったかしら。

 ギルドの事が少しは分かってもらえたかしら。


 実は、ポータルズ世界のギルドにはまだまだ秘密があるのよ。

 でも、それはまた別の機会に。


 長いこと話を聞いてくれてありがとう。

 アリストに来ることがあったら、気軽にうちのギルドに立ちよってね。

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