3. ホームルームはしっかり聞きましょう!

「オハヨウゴザイマス。ガクセイショウヲスキャンシテクダサイ」

「おはようございます!今日も相変わらずお肌つるつるピカピカですね。流石、紙やすりでスキンケアをしている男は違う!」


 明堂学園のビルの自動ドアを通り抜け、中のエントランスに入ると、この学園のマスコット兼受付のセキュリティを担っている「ミョードーくん2号」が出迎えてくれます。ミョードーくん2号は、鉄人28号のような見た目のロボに、サングラスと黒ネクタイをつけた、なんとも屈強なボディガードを連想させるいかつい見た目にデザインされています。このロボは、監視カメラ、録音機能の他、学生証を目元に翳すと……


「シラトリカズトクンデスネ。2-Bノキョウシツハ、6カイデス」


 ―と、このように、学園のデータバンクへとアクセスし、その日生徒が向かう場所を教えてくれる超ハイテクロボさんなのです。

 ちなみに俺はいつも彼に話しかけていますが、会話機能はありません。あと、何故彼が2号なのかといいますと、数年前に1号は何者かによって破壊されるという悲しい事件があったそうです。南無。


「最初見た時はビビったけど、2年目となるとこのロボも見飽きたな。ロケットパンチもできないし、アタッチメントでドリルも取り付けられないなんてガッカリだぜ……」

「そんな小学生男子の夢みたいなこと言ってもミョードーくんが不憫っすよ。彼は彼なりに頑張ってくれてるんですから」

「せめて自爆機能でもあれば面白かったのになあ」

「いや、せめても何も一番あっちゃいけない機能でしょ!面白いという理由だけで自爆させられる彼の身にもなってくださいよ」


 ガッカリなんて言われて、ミョードーくん2号もひょっとしたらサングラスの中で、瞳を涙で濡らしているかも知れません。かわいそうに……

 いや、そんなわけないですけどね。1年も毎朝挨拶してるとなんだか愛着がわいてくるものです。


「さてと、今日から6階に上がるみたいだな。ボサっとしてないで急ごうぜ」

「大丈夫、今からエレベーターに乗れば大体ホームルームの40から46秒前に教室に到着しますよ」

「……なんだそれ、どういう計算?」

「計算ですか?1年のときエレベーターに乗り込んでから4階の教室にたどりつくまでにかかった時間が平均36秒でした。すると、このビルの高さからして6階までにかかる時間は40秒程度です。朝この時間はエレベーターが各階で止まる確率も低く、俺の計算だと12、8……」

「……あーもうわかったわかった。お前相変わらずそういう無駄なこまっかい計算好きだな。聞いてるだけで頭痛くなるわ」

「……すいません」


 えー、このように、無駄だと言われ、うざがれることがほとんどですし、ボディガードとしても何の役にも立ちませんが、俺は昔から少しだけ暗算が得意なのです。いくつかの数字を見ると、意識せずとも頭の中に足した数やかけた数がフラッシュのように浮かんできます。昔医者に教えてもらいましたが、どうやらなんちゃら症候群とかいう病気のようなものらしいです。


「1カイデス。ウエヘマイリマス」

「へいへい」


 学生証をスキャンし終えた俺と翔平くんは、すぐにエントランス脇にあるエレベーターに乗り込みました。


「お、今年から9階に牛丼屋できるみたいだな」


 翔平くんがエレベーター内に掲示してある施設内マップを見ながら言いました。

 明堂学園は、地上14階、地下3階の全17階で造られており、地上高65メートルほどの高層ビルとなっています。1階にあるのはエントランスと売店。2階から8階までが各教室。9階と10階はレストランや有名チェーン店などが出店しているテナントスペース。それより上は学生が泊まるための寮やシャワールーム、コインランドリーなどがあるスペースとなっています。そして地下にあるのが、様々な訓練施設です。


「牛丼いいっすね!訓練終わりにでも食べにいきましょうか」

「そうだな。でも一斗、1年の最初の頃は、訓練終わりなんて食い物喉に通らないーって死にそうな顔して言ってたよな」

「……そういえばそうですね」

「2年からはまた一段ときつくなるらしいぞ」

「ちょっと!新学期初日からビビらせるのやめてくださいよ!」


 そうこうしているうちに6階のランプが点灯し、「6カイデス」とミョードーくんの声でアナウンスが聞こえました。

 俺たちの教室は2-B。 黒を基調とした壁やカーペットが敷いてあるホテルのような小綺麗な廊下を通り抜け、俺たち二人は目的の教室までやってきました。



「おはよーう!」


 翔平くんが元気よく挨拶しながら教室に入っていき、俺もそれに続いて挨拶しながら教室に入りました。

 室内には、見知ったクラスメイトの顔ぶれが並んでいました。というのも、クラスメイトは1年の時から変わっていません。

 浮足立った空気の中、それぞれ楽しそうに雑談しています。

 そう、1年間の厳しい訓練を切磋琢磨しながら乗り切り、時に支えあい、時に叱り合いながら生活を共にしてきた俺たちは、言わばソウルメイトです。

 春休みぶりに会う皆は、優しく俺を出迎えてくれるに違いありません。

 いいですね!新学期の最初の挨拶は気持ちよくいきましょう!


「チッ……相変わらず気色悪いニヤケヅラの奴が入ってきたな。新学期早々気分が悪い。どうして貴様のような奴がこの学校にいるのか僕には理解できん」


 はい。このようにね。

 俺のクラスメイトは冗談を交えながら暖かく俺を迎えてくれました。

 感動で涙が出そうです。


「貴様程度の実力でよく進級できたものだ」

「はは……」


 朝からユニークな冗談を飛ばしてくるこのフランクな彼は天堂哲典よしのりくん。

 1年での実技成績は2位、学科試験の成績は1位でこの学年トップの成績を修めています。天堂家は護身術で有名な家系で、この学校から彼の家の道場に通っている人間は数多くいます。護身術で彼の右に出るものはおりません。

 教官曰く、「彼の技術は長い英才教育の賜物」だそうです。実際組手の訓練で彼が誰かに敗北しているところは見たことがありません。


「ははっ、確かにな。俺もまさか一斗が2年に上がれるとは思ってなかったわ」

「どんな姑息な手段を使ったのか知らないが、貴様のような輩がいるとクラス全体の指揮が下がる。腐ったミカンは早めにいなくなって貰いたいものだな」

「わーお……新学期初日からここまで風当りが強いとは思ってなかったっす……。まあ実際俺も自分が進級できたことには驚きしかないですけど」


 天堂くんや翔平くんが言っていることは御尤もです。俺より成績の良かった人間が何人も落とされていたのに、なぜか俺は進級できました。

 運が良かったとしか思えません。


「大体、どうして貴様のような人間がボディガードを目指しているのかわからない。組手の訓練を見れば才能が無いのは明らかだ。悪いことは言わない。格闘技術が必要ない他の職種を探したほうがいい」

「……ええ、自分でも時々そう思うんですけどね……。」


 こうも正論を言われると笑うしかできない。実際俺に才能が無いことは俺が一番よく分かっています。


「気負うことはないよ一斗。きっと一斗が人一倍努力していたことに教官も気づいていたんだろう」

「あ、瀬戸さんおはようございます」

「おーハルカっちじゃーん!相変わらず今日もかわいいなあ」

「おはようみんな。進級おめでとう」

「瀬戸、お前も白鳥みたいな落ちこぼれと関わっていたら家の看板に傷をつけるぞ。凡人が努力するのは当たり前だ。努力してようやく俺たちのようなエリートの足元にすがりつけるのだからな」

「そんなことはないよ。一斗が頑張っているところを見ると私も頑張ろうって思えるからね。ま、進級できたのには私も驚いたけど」

「ええ、まあ自分でも分かってはいましたけど、そう何度も言われるとグサりときますねグサりと」


 後ろから声をかけてきてくれた彼女は瀬戸春佳さん。綺麗な黒髪を後ろで結った姿はスラリとした体格に何ともお似合いで、その端正な顔立ちと相まって、とても凛々しくかっこいい見た目をしています。

女がボディーガード?なんてお思いかもしれませんが、現在女性のボディガードなんて珍しくもなんともありません。

 未だ比率で言えば男性の方が圧倒的に多いですが、年々需要が高まってきていて、女性ボディガードの存在は増加傾向にあります。このクラスでも2割ほどは女子生徒です。まあ1年の頃はこの3倍近くおりましたが。男子生徒に求められるハードルよりは低いハードルが設けられてるはずですが、それでもボディガードになるのは険しい道ってことですね。

 専属のボディガードとなる場合、要人とボディガードは身の回りの生活を共にする時間が必然的に多くなります。

 男性嫌いの女性の要人や、年端もいかぬ少女、あるいは女好きのお金持ちなどがプリンシパルとなる場合、女性のボディガードを雇うケースが多いです。

 まして瀬戸さんのような優秀な成績の生徒なら将来も引く手数多でしょう。彼女は男子生徒含め、実技成績7位、学科試験成績2位という驚異的な成績です。女子生徒内ではずば抜けた成績と言ってよいでしょう。


「なんにせよ、また1年間君たちと一緒に学べることをうれしく思う。これからもよろしく頼むよ」


 そう言って儚げに笑みを浮かべる瀬戸さん。それはまるでコンクリートに咲く一輪の花のようです。


「瀬戸、そんな顔を見せるから色んな男子に言い寄られるんだ」

「そんな顔?私はただ普通に挨拶しただけだろう?」

「いやー、ハルカっち、その微笑みは男子なら皆一コロだって。ただでさえ他の女子はゴリラみたいn……いや、なんでもない」


 翔平くんがゴリラみたいと言いかけたところで、他の女子生徒達の禍々しい殺気のようなものを感じました。なんと恐れ多いことを言いかけてるんでしょうかこの子は。

 そりゃうちの訓練に耐えられる生徒は体格もごつくもなりますって。


「一コロ?何の話だ?」

「自覚が無いのも考えものだな」

「まあ、そこがハルカっちいいとこでもあるんだけどねー」


 そう。彼女に言い寄る男子はこれまでも数多くいました。そしてその度屍が増えていきました。1年の頃、彼女を無理やり押し倒そうとした無謀な男子生徒がいたそうですが、その後彼は、全治数か月の入院となり、行方不明になったとの噂です。

 彼女の訓練での実技成績は7位ですが、これは飽くまで「素手」での話です。

獲物ありでの評価の場合、話は違ってきます。瀬戸家は剣道で日本一有名な家系なのです。彼女が竹刀を握った場合、天堂くんでも勝てるかどうか分からないと仰っていました。


「それより、いよいよ今年から決まるな。楽しみだ」


翔平くんが言いました。


「そのことか。まあ、僕は一流の資産家に決まっているだろうがな」

「ああ、いつ発表されるのだろう?私はどんなプリンシパルでも構わないが、できればやりがいのある職場がいい」

「え?何の話ですか」


 俺がそう問うと、3人は少し呆れたようにこちらを見てきました。あ、天堂くんにいたっては呆れるどころかゴミを見るような目です。


「まじか一斗、今教室内でもその話で持ち切りだぜ?」

「フン、これだから愚民は困る。決まっているだろう。今年から誰の護衛になるかが決まるんだ。貴様のような落ちこぼれには関係の無い話だったかもしれんがな」

「あー、そうか。雇われ先の話ですか」

「雇われ先?それは少し違うよ一斗。正確に言えば私達は雇われるわけではないだろう?給与をもらうわけでも、保障がつくわけでもないんだからね」

「そういえばそうでしたね」

「正しい言い方をするなら『研修』と呼ぶべきだろう。私たちはこれからリネアリスのお嬢様の元で現場のボディガードというものを学びにいくんだ」

「ま、研修と言っても履歴書には残るから結構重要なんだけどな。俺はできればかわいくて巨乳のお嬢様に選ばれるといいなー」

「朝比奈、貴様ボディガードをなんだと思っている。プリンシパルとの恋愛はご法度だぞ」

「分かってるってー。でも夢ぐらい見させてくれてもいいだろ。お前らだって一度は憧れたことあるだろ?リネアリスのお嬢様達との恋愛!な、一斗」


 俺に振られても困ります。翔平くんはこんな風に言っていますが、庶民の俺にとってはお嬢様との恋愛なんぞ恐れ多くて考えられません。ええ、無理です。無理。

 それにもしそんな事がバレれば、場合によっては、解雇や謹慎処分だけでは済まされないことになるかもしれません。相手は通帳を見れば目玉が飛び出るほどの資産家たちです。海に沈められる覚悟が無いと恋愛なんてできません。


「いや、流石に恋愛は無理っすよ。それに俺はあなた達とは違って庶民の家の出なんで、格というもんがありません」

「なんだよつまんねーなー。お前はどうなんだよ天堂」

「考えられるわけないだろ。僕は天堂家として、ボディガードという仕事に誇りを持っているんだ。浮ついた気持ちは一切ない」

「ふーん。ま、本音はどうだかな」

「朝比奈、私からも忠告しておくよ。そのようなことは決して研修先では言わない方がいい。お嬢様はともかく、その親御さん達を敵に回せば大変なことになる。言動にはくれぐれも気を付けることだ」

「ですね……」

「ま、分かってるさ。一応俺には現場での経験があるからな。しちゃいけないことぐらい心得てる」

「そういえばそうだったな。ならば僕のように誇り高く振舞うことだ」


 自分で言ってて恥ずかしくないのかとツッコミを入れたいけど相手が天堂くんなのでやめておきました。

 彼はプライドが高いのでツッコミ一つでも気を使わねばなりません。


「まあ、強いて僕の希望を挙げるとしたら九条家の玲奈お嬢様だ。決してやましい気持ちは無いが九条家は格式も高いし品がある。天堂の人間が仕えるにふさわしい家柄だ」

「あーあのお嬢様か、確かにすげー可愛いもんな」

「やましい気持ちは無いと言っているだろう。僕らボディガードの価値は要人の資産価値とイコールの関係で結ばれている。九条家での護衛経験があれば僕の大きなステータスになるはずだ」

「俺は第一希望は一之瀬のお嬢様かな。武術の名家だし、こないだ訓練帰りにすれ違ったことがあるんだけどすんげー可愛かったし。あといい匂いした」

「私も一之瀬家のお嬢様には仕えてみたいと思っていた。あそこの道場の師範代は私の父とも面識があってな。是非一度手合わせ願いたい」

「いやーすばらしい!皆ちゃんと考えてるんすね。さすが我らが明堂の優等生!」

「で、お前は?」

「へ?」

「一斗は誰の護衛やりたいんだ?まさか何も考えてなかったのか?」

「こいつに聞くだけ無駄だ朝比奈。そもそも白鳥のような落ちこぼれを拾ってくれるお嬢様がいるわけなかろう」

「あー……」


 どうしよう。そもそもリネアリスにいるお嬢様の名前とか全然知らないんですが。彼らは知ってて当然のように話していますが、俺にはその辺の情報は全くと言っていいほどありません。

やはり彼らはエリート家系で育った身。庶民の俺とは立場が違うようです。


「おっと、雑談はこれくらいだ。新担任のお出ましだぜ」

「フン、ようやくか。5分も遅刻じゃないか」


 廊下に教官が歩いているのが見え、俺達は速やかに自分の席に座りました。

 ざわめいていた教室が一転してシンと静まり返り、皆背筋を伸ばしています。俺達は1年で教官が好む立ち回りは身に付いていました。


「遅れてすまない。全員揃っているな。それではホームルームを始める!」


 いかつい。第一印象でそう思ってしまいました。

 背筋を伸ばし、きっちりとスーツを着こなしているが、肩回りや腕から発達した筋肉がこれでもかと主張している。大きなアゴと突出した眉骨は荒々しさをイメージさせる。

バン!と極め付けはこれです。教壇を拳で叩きつけ生徒を威圧する様はどう見てもスパルタ教師でした。


「進級おめでとう諸君!1年の教官からは今年は豊作だと聞き及んでいる。私も君たちの優秀な力を考慮し、より一層厳しく指導していこうと思う!」


 余計なこと言いやがってくれましたね。あのヒゲ教官。今年も一筋縄ではいかなそうです。


「みな、重々承知しているとは思うが、今年からは現地でボディガードとして実践経験を積んでもらう!来週の月曜にリネアリスに通うお嬢様達から指名が届くことになっている。既に諸君らの成績と評価は漏れなく送信済みだ。お嬢様方とその家の方たちが実際に目を通し、護衛してほしい生徒を選ぶことになっている!なお、指名されたボディガードの能力とプリンシパルの危険度を考慮し、学園側である程度の選別を行っている!」


 まるでカタログから商品を選ぶ通販みたいだな、と思っていしまいました。実際お嬢様達からしてみればそれに近い感覚なのでしょう。

 少し癪ですが、俺達は自分の商品としての価値を高めていかなければなりません。


「指名の無かった生徒に関しては、学園側で護衛対象を決定する。ただし、この場合名家のプリンシパルの護衛につくことはないだろう。中流家系のお嬢様など比較的危険度の低い人物の護衛につくことになる!」


 なるほど。俺のような落ちこぼれでも行く当てが無いってことにはならないようですね。

 やはり2年に進級できたというだけで、ある程度実力が認められているというわけです。

 一先ずちょっと安心。


「つまり、来週からの2年間は全員お嬢様の専属ボディガードとして働いて貰うということだ!この2年間、努力を怠ることなくボディガードとしての資質を高めていって欲しい。この期間で実力が認められれば、そのまま専属のボディガードとして雇ってもらえる場合もある。さらにこの期間でのキャリアは、ボディガードとしての生涯に大きな社会的価値が認められる!」


 教壇をバンバン叩きながら続けます。


「諸君らには明堂の生徒として恥じない力を発揮してほしい!知っての通り、この学校がリネアリスの隣に存在しているのは、悪質な誘拐犯やテロリストからお嬢様達に手出しさせないためでもある!つまり、我々はお嬢様達を護るために存在していると言っても過言ではない!治安の悪化が社会問題として取り上げられるようになった現在では、我々の職業を社会が必要としている!時に銃弾を防ぐ盾となり、時に敵を組み伏せる剣となる。そして、自らの命をかけてでもプリンシパルの安全を確保しなければならない。それがボディガードという職業だ!」


 教官はさらにバン!と教壇を叩いて一呼吸おいてから続けました。

 まるで教壇を叩くのが息継ぎのタイミングだと言わんばかりの叩きっぷりです。


「いいか。もう一度言うぞ!我々は自らの命をかけてでもプリンシパルの安全を確保しなければならない!白鳥!復唱してみろ!」

「!」


 い、いきなり指名されて心臓が跳ねあがりました。よ、よし落ち着け。言ったことを復唱するだけだ。大丈夫だ。記憶力には自信がある。

 もはや気分的には椅子から5メートルぐらい飛び上がったような感じでしたが、俺は教官の指示どおり一言一句違わずイントネーションまで真似て復唱を始めました。


「進級おめでとう諸君!1年の教官からは今年は豊作だと聞き及んでいる。私も君たちの優秀な力を考慮し、より一層厳しく指導していこうと思う!みな、重々承知しているとは思うが、今年からは現地でボ……」


「ちょ、ちょっとまて白鳥!誰が最初から復唱しろと言った!それから言い方まで真似せんでいい!もういい下がっとれ!」

「はい!すみません!!」


 俺は少ししゃくれながら机をバン!と叩き謝り、着席しました。

 ああ!そうか。最後の一文だけでよかったんですか。失敗失敗。


 こちらを見ながら翔平くんが笑いをこらえているのが見えました。

 天堂くんは小声で「やはり頭のネジが飛んでいるようだな」と俺を見て呟きました。

 こういう緊張感のある場では、俺の道化根性が無意識的に発揮されてしまうのかもしれません。


「諸君!少し気が緩んでいるようだが、いいか、今は真面目な話をしているんだ!それからその記憶力は他に生かせ白鳥!」


 驚きました。てっきり頭ごなしに叱られると思っていましたが、教官は俺の能力を他に生かせと仰ってくださいました。少しだけ嬉しいです。


「去年もたくさんの生徒がふるいにかけられ、学園が求める基準を満たせず落とされていった生徒は数多くいるだろう!それは今年からも変わらない!進級できたことを喜ぶのも今日までだ!これからは自身の実力を驕らず、しがみつく気持ちで訓練に励んでもらう!差し当たって、今週の訓練は来週から始まる現場仕事の大切な準備期間となる。地獄を覚悟しておけ!」


 地獄……。

 基礎体力だけはそこそこ自身はついてきましたが、念のためゲロ袋は多めに用意しておきましょう。去年も最初の頃は何度もお世話になった必須ツールです。一家に一台ゲロ袋です。


「20分後、地下訓練施設で組手の訓練を行う!各自運動着に着替え準備しておけ!それでは以上でホームルームを終了する!」


 こうして新学期初日のホームルームは終了しました。

 来週に護衛対象が決まるみたいですが、正直俺には実感がありません。

 ただ、できれば護衛するのは昼間だけで残業とかも無いようなホワイトな職場を希望します!

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