ピエロ
「ハッ……」
失笑が漏れました。
人生初にしてもう二度と書くことは無いであろう『遺書』を書き終え、筆を置くと共に失笑が漏れてしまいました。
こんな時でさえ、ふざけずにはいられない自分の道化根性に対する、呆れと自嘲の失笑です。
一体いつからでしょうか。
人の顔色ばかり窺い、何事も穏便に済ませようと、へらへらとしたニヤケ面を顔面に貼り付けるようになったのは。
多分、きっかけは妹。
小さい頃、妹は、人見知りで、いつも仏頂面して、俺がどれだけギャグを言ってもどれだけくすぐっても笑いませんでした。
それなのに、初めて家族で遊園地に行ったとき、大道芸をするピエロメイクの男を見て「馬鹿みたい」と呟いてくすりと笑ったんです。俺にとってはそのピエロの見た目は鳥肌が立つほど怖いものだったのに。
でも、その時笑った妹の顔が忘れられなくて、もう一度笑わせたくて、その時から俺はピエロになろうと決めたんでした。しかし、未だに妹を本気で笑わせることはできていません。
ピエロにすら徹しきれない偽物のピエロ。それが俺なんです。
まあでも、俺のような小物の人生には、こんなふざけた遺書がお似合いなのかもしれません。
例え乾いた笑いでも、悲しむ顔をされるよりはいいですからね。
ピエロは人に笑われるのは好きだけど、憐れまれるのは苦手なんです。
せいぜい、人生の最後は、失笑で締めくくられることのないように、残り少ない余生を生きようと思います。
俺はしたためたその紙を雑に四つ折りにし、部屋の机の引き出しの中にしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます