45. あなたがいる夕方




 お盆ぶりに夫が帰宅した。


「ちいちゃーん!一緒にお風呂に入ろう!」

「んん!」


 ブンブンと首を横に振り、わたしに駆け寄る。いつものことだが、ちいちゃんは夫とのお風呂が嫌らしい。


「ほらほら、お風呂じゃぶーん!だよ、楽しいよ~」


 ちいちゃんはジト目で警戒しつつわたしの足にしがみつく。


「ちいちゃん、お風呂じゃぶんしたら、一緒に遊ぼ?その間にお片付けしとくからね」

「ん!」


 わたしの話に頷いたので、服を脱がしお風呂に連れていった。


「じゃ、またあとでね」

「ちいちゃん!一緒に入ろう!」


 パタンと戸が閉まり、母と離れると響き渡る泣き声に苦笑いした。夫は何度もちいちゃんと呼んで、おもちゃを手渡したりおしりを洗ったりしてるんだろうなぁ、とわかる声が聞こえてきた。


 でも泣いているのなんて初めだけで、あとはなだかんだ楽しく入っているのだ。時々「かかー」とわたしを呼ぶ声が聞こえるけれど、楽しそうに、一緒に遊ぼうとでもいう感じでほっとする。



「きゃっ、ははっ」

「おかえりー」


 しばらくするとバスタオルを頭からかぶって駆け寄ってきた。お風呂上がりでまだ少し濡れている小さな体がとても愛しい。普段ひとりで世話をし慌ただしく過ぎていく時間が、なんだか幸せの象徴のように一定の速度で流れる。


「ねぇねぇ、わたしたち、幸せかも」


 上がってきた夫に娘の頭を拭きながら声をかけた。


「幸せでしょ!」


 その自信はいったいどこからくるのか。でも今日はそれをくすっと笑えるくらいゆとりのある時間だった。

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