39. ゴミで遊んで待ってるね




 夫がいない間に少し物の配置を変えた。少し場所が変わるだけでなんとなく部屋が広く見えたり気分が変わったりするから不思議。


「しかしこれどうにかしないとなぁ」


 我が家は物がない。本当に物がない。ファミリー向け賃貸もそう広い訳じゃないのに、ちいちゃんのおもちゃや私たちの荷物を乱雑に放置しても平気なくらい物がない。


 そんな部屋を唯一無駄なものが占拠するところがある。その正体は段ボールだ。


「荷物あれこれ片付けといたよ、段ボールにゴミまとめといたから!」


 あのときは全然怒らなかった。むしろ一人であれこれさせて申し訳ないとすら思った。


「そんなことないわ!箱からテレビ出すくらい楽勝!そのパッキンや段ボールを畳んだり荷札剥いだり何かと処理片付けする方がよっぽど重労働!!」


 気の向いたときやゴミ袋が少し余ったときに詰めてちょっとずつ片付けをしていたが、8月末になる今、秋冬に向けて雪国は早々に支度を始めた。


「よーしちいちゃん!今日は頑張っちゃうぞー!」

「ほー!」


 拳を上げたわたしの真似をするちいちゃんのなんとかわいいこと。


「ばっぶ、ばっぶ、ばっぶ、ばっぶ」

「ちいちゃーん、ゴミ袋ガサガサしないよー」


 パッキンや発泡スチロールの入ったゴミ袋はガサガサといい音をたてる。ちいちゃんにとってこれは宝の山なのだ。それを片付けるなん……いやいや、いいんだよ片付けよう!


 ハサミでテープを切って段ボールを開き、ビニール紐で括って再びひたすらパッキン集めをした。


「ふー!うー!……ふー!」

「ちいちゃんなんか楽しいん?」


 振り向くとちいちゃんは段ボールで滑り台をしていた。長い段ボールの間に小さい段ボールをたくさん挟んでくくったため、乗ると傾斜ができて、ゆるいすべり台のような形になったのだ。


「あっ、シュー!って言ってるつもりなのね!滑ってるもんね!」


 おしりを着き、あんよでよちよち少しずつ降りながら「シュー!」と言って滑ってるつもりなのだ。


「…愛しい!母ちゃん頑張る!」


 ちいちゃんは期待に応えるように、片付ける間ずっと「うー!ふー!」と言い「シュー!」の練習をしていた。

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