38. 来年度入園は絶望的!?




 この日、ついに第一希望のこども園へ見学に行った。生憎の雨だったが近いのであまり気にならずすぐに着いた。


「園見学をお願いしておりましたわたなべです」


 インターフォン越しにそう言うと解錠され自動ドアが開いた。二重扉の奥で受付をし、玄関を開けると明るく開放的な遊戯室が目に入った。


「本日担当させていただきます深山です」


 先生は細かく説明しながら、時にわたしやちいちゃんの様子にも気を配ってくれて、ますますこちらの園にお願いしたいと思った。


「来年度の入園をご希望なんですね、何歳児クラスになられますか?」

「2歳児です」


 あー、と少し困ったような顔をしたあと、「実は」と切り出した。


「2歳児さん、1枠なんです」

「えっ」


 1枠!?想像を絶する激戦…!前回の園交流会のとき知り合った同学年のママさんもここ第一希望だったよ!?一緒だといいですねーとか話してたのに!ていうか昨日行った別の園でも未満児カツカツだって言われたよ!?え!?


「そうなんです、1歳から2歳児さんは定員もあまり増えないのでほぼ持ち上がりになり、枠が少なくなってしまうんです」


 つまりどこの園もその状態だと…。


「もっと山側の方ですともう少し余裕があるんですけどね」


 山の方ってあれですよね、自衛隊が訓練に行くところですよね?奥に行くと熊が出るっていうあそこですよね?農業高校が田んぼしてるっていうあっちの方ですよね?


「家と方向真逆です…」

「そうですよね…」


 なんとなくがっくりとして帰路に着いた。



「………ということがありました、と、送信」


 園見学や予防接種などのときは前後報告が必須だ。ちいちゃんの様子や成長を伝えるルールは一緒に暮らす前から決まっていること。


『正直、家計のことを考えれば働いてほしいって思ってたけど、そこはきみが決めていいんだよ。


 そういう事情を含めて、3歳以上の方が定員が増えるならそっちにしてもいいと思う』



 ……来年度入園が崖っぷちな今、選択が迫られている。タイムリミットは10月。

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