第122頁目 料理が上手い高校生って闇感じる?
時は私がクロロさんからアニーさんの鞄を受け取った後の夜に戻ります。私達が案内された地下物置は脂を滲ませた松明で薄暗く照らされておりました。やるべくは香辛料の新しい用法の考案。まずは種類とそれがどういった物か把握する為に香辛料の確認をしているのです。
「フェッソッ!!」
「うわっ!? ちょっとルウィア! 危ないってば!」
「ご、ごめんなさい!」
「もし香辛料を撒き散らされたりなんてしたら私が窒息しかねません。(ですのでミィさん、もしもの時はお願い致しますよ。)」
「(守るのはいいけど、代わりに溺れるよ?)」
「(……お手柔らかにお願いします。)」
「(はいはい。)」
ルウィアさんの持ってきた香辛料はパリツィン、モッピィ、メガッサ、ハチュネの四種が大半を占めています。他の少量な香辛料の使い道を編み出してもそこまで意味がないので、この四種をどう使うか考えているのですが……結論から言えばアニーさんのメモに具体的な事は書かれていませんでした。
「……ヒントになりそうな事と言えばこれくらいですか。」
『香りは味と深く結びついています。つまり、香りにも味があると考えたほうがいいです。でも、香りも全ては味に集約するので味見をすれば何が余分で何が足りないのかわかると思います。もし味見をしても自信がなければお友達の方に味見して貰いましょう。』
『竜人種は嗅覚がとても優れている方が多いです。だからなのでしょうか。お鼻をイジめるのが好きな方も多く。辛味の刺激を娯楽として楽しむのだとか。ごめんなさい。私も竜人種の方からはしっかり意見を聞いた事がないんです。もし良ければお友達の方から好物を聞いていただけると嬉しいです。』
『暑い日には熱い料理を食べて汗で身体を冷やすという方法が不変種には伝わっているのですが、可変種には汗をかかない種族も多く。そのまま料理の温度を体内に取り込んでしまうので気をつけましょう。暑い日には素直に冷たい料理の方が喜ばれると思います。』
クロロさんに料理を作る事を考えて書いて下さった事がこんな所で役に立つとは……ありがたいですね。しかし、そうですか。香りにも味があり、竜人種は刺激的な味を好む訳ですね。そして、料理の温度を取り込むのであれば温かい料理が良さそうです。
「ここの村の方はどういった調理法が一般的なのでしょう。」
「そうね。熱した石を
「皆さんがそのように調理されているのです? この村は飛竜と
「そうね。
「石竈料理ですか。私が知っている
しかし、クロロさんは変な所に知識があったりするのですよね。以前私達に簡単な料理を振る舞ってくれたりもしましたし、ここは一応聞くだけ聞いてみましょうか。
とりあえず独り事を呟くふりをしてミィさんに語りかけます。今、ミィさんは私の身体にもついて体温の調節を行ってくれているのですから。
「(ミィさん、クロロさんに香辛料の使い方で何か思い当たらないか聞いて頂きたいのですが。)」
「(今? 別にいいけど、クロロがそんな事わかるかなぁ……。)」
ミィさんの分身はどのような魔法を使っているのか、クロロさんの傍にいる本体と連絡を取り合う事が可能です。つまり離れた場所であるここからクロロさんに助言を求められるのですよね。まぁ、助言があればの話ですけど。
*****
テレーゼァとマレフィムがアニーさんの鞄を持っていった夜。俺はすっかりその事も忘れウィールと共にテレーゼァ作の隠れ家の中で寝ていた。そこを突然ミィに起こされたのだ。理由はなんと香辛料の使い方で何か良い案はないか、という物だった。
「(んー……なんだよこんな深夜に……。)」
「(だから香辛料の使い方だってば。)」
「(そんな事言われてもよぉ……どんなのがあんの?)」
「(パリツィンとモッピィ、メガッサ、ハチュネ。使い方とか知ってる?)」
「(まぁーーーーーーーったくわからん。でも、どういう物か教えてくれたらちょっとは思いつくかも。)」
「(本当にぃ? あんまり適当な事言っちゃ駄目だよ?)」
「(言わねえよ。それに、ほら……。)」
「(あぁ、もしかして鞄の事? マレフィム怒らせちゃったもんね。)」
「(ま、まぁな。)」
俺はその日、アニーさんの鞄を少し雑に扱いマレフィムを怒らせていたのだった。マレフィムにとってアニーさんの鞄とは大事な物である。それを知っていながらあんな扱いをしていたのは……まぁ……反省するしかないだろう。その為にも自分が協力出来る事なら協力したいと思ったんだ。
だから、ウィールを起こさないよう声を小さくして相談に乗る。俺の前世の知識があれば少しくらいは助言出来るだろう。
「(香辛料を一つ一つ解説してくれ。)」
「(わかった。パリツィンは燃えるような辛味が特徴の香辛料だよ。旨味とかはあるのかな? 食べた事あるけど、殆ど辛さしかなかった……。私はあんまり好きじゃない。でも、張りのある香りが特徴で味を引き締めるのにも一役買うんだって。……味を引き締めるってどういう事だろう?)」
唐辛子……ってよりは胡椒みたいな物なのかな? 張りのある香りとかはよくわからないけど、味を引き締めるみたいな言い回しは胡椒とかでも聞いた事がある。でも、味見してないから辛味とかがわからないなぁ……。
「(へぇー。パリツィンの真っ赤な色は染色にも使うんだって。)」
唐辛子だな。うん。赤いなら唐辛子だろ。
「(それで、モッピィはなんか緑色で
緑で粒々? 鼻にくるって事は多分
「(メガッサはなんか不思議な香りがする薄い葉っぱだね。
燻製にした乾酪って要するにスモークチーズだよな。そんな変な臭いがする香辛料使い道が思いつかねえ。これはもう本来のお酒に漬け込むとかの用途で良いんじゃないかな。それかその香りが移った酒で酒蒸しとか。
「(ハチュネは私も知ってる。香りはあんまり強くないんだけど、昔から肉とか魚の臭みとりに使われてるんだよね。実には毒があるから皮だけ剥いてそれを干した物を使うの。そして、熱を通すとこれも辛みが出るんだよ。そんなに辛くないけどね。パリツィンより優しい感じの辛さかな。)」
ふんふん。また辛みか。本当に好きなんだな。んで、これ等をちょっとずつしか使わないから新しい用途を教えてあげたいと……。
「(何か思いつく?)」
「(まぁ待てって。多分良い案出せるぜ。)」
「(思いつきは駄目だよ?)」
「(わかってるよ。)」
前世を思い出せ。唐辛子と言えばなんだ? 七味、キムチ、ラー油……結構思いつくな。でも食べ物に限らなくてもいいなら、催涙スプレーに唐辛子風呂、虫除けにもなるんだっけ。これのどれかには使えるかもしれない。まぁ、
山葵はもう生魚と食べる事しか浮かばない。そんでスモークチーズもなぁ。酒を使うとしても酒料理なんてテレビでよく見た酒蒸ししか知らねえよ。後何? フランベ? あれって調理法だろ? あっ、酒と言えば消毒! って傷口に香り付けてどうすんだよ! うーん…………。
最後のに至っては用途しかわからん。魚と肉の臭みとりに使うってもうそれにしか使えないって事じゃんな?
そもそも竜人種って事は俺と同じような奴等って事だろ? なら、余計な小細工なんかせずバクバクと……。
「(……なぁ、竜人種ばかりの村って事は皆大食いって事だよな?)」
「(だろうね。)」
「(ならかなりの数の食料が何処かに保存してあるんじゃねえのか?)」
「(聞いてみる。)」
常識的に考えて毎回狩りに行ってはすぐに全部平らげるみたいな不安定な生き方はしていないはずだ。そりゃ狩ったばかりの獲物を食べる事もあるだろうが、少量だろう。大体は何らかの方法で保存して、いざ食事となった時にだけ食べる。それがもし予想通りならここでは伝統的な保存方法か何かがあるはずなんだ。それだけ教えてもらってそれとは違う方法を教えればいい。
「(うん。冷凍してあるベスの肉がいっぱいあるみたい。へぇ、魚も食べるんだね。肉ばっかりだと思ってた。)」
「(それ誰に聞いてるんだ?)」
「(マレフィムがテレーゼァに聞いてるんだよ。)」
「(あぁ、なるほどな。テレーゼァさんなら知ってて当然か。)」
テレーゼァさんがそこらの事情に詳しいならどういう使い方をしてるかもよく知ってそうだな。
「(結局何か思いつきそうなの?)」
「(あぁ、だから普段その香辛料をどんな使い方をしてるのか聞いてくれよ。)」
「(パリツィンは料理に使ったり、虫除けや暖もとれるんだってね。知らなかった。それとメガッサはお酒にしか使ってないって。あんな沢山の量漬け込むだけで使うの……? モッピィもパリツィンと同じく辛みを付ける為に使って、ハチュネは肉や魚の保存料になるんだとか。)」
「(ほうほう。)」
「(パリツィンやモッピィを使った料理ってどんなのだ?)」
「(えっと……普通に塩と混ぜて振りかけるだけみたいだよ?)」
「(それだけ?)」
「(焼く時は石竈に熱した石と肉を入れて焼くんだって。)」
おぉ……急に難しそうな調理法が出てきた。オーブンとかグリルの違いすらわからない俺に石竈はハードルが高い。酒蒸しって石窯で出来んのかな……? と、とにかく料理は香草焼きみたいなもんって事だよな。パリツィンだけは料理以外にも使われてるみたいだけど……。
「(これを明日の朝までにって中々難しくない?)」
「(明日の朝って?)」
「(明日の朝までに新しい方法を考えなきゃいけないの。)」
「はぁ!?」
っと……思わず大きい声を出してしまった。ウィールは……? 見た感じ起きてないな。良かった。
「(いやいやいやいや! 馬鹿じゃねえの!? 方法だけ伝える事も出来るけど試作しなきゃ駄目だろ! まずそっからどうにかしろぉ!)」
*****
「(どうにかと申されましても期限を伸ばせる程のカードなんてありませんよ!)」
「(でもクロロの言う通りじゃない? 言葉だけで説明して次の仕入れも増やしてくれるなんてありえる? してくれたとしてもそれって多分気を遣われてると思う。)」
「(それこそ気遣われところで取引が上手くいけばそれでいいとは思うのですが、次回は私達がいませんからね……万全にしないといけませんか。)」
しかし、既に限界近くまで我儘を聞いて下さった後なのです。これ以上後出しで要求を出そうものなら今後の関係に傷がついてもおかしくないかと思います。……どうしましょうか。
「やっぱり良い案は浮かばないのかしら。」
「すみません、テレーゼァ様。心配をお掛けしているようで……案は浮かびそうなのですが、説得の為にも試作品を作りたいと思いまして。それには時間が少々……。」
「何、そういうこと? それなら期限を伸ばさせればいいじゃない。」
「そうして頂きたいのは山々なのですが、既に多くの譲歩を頂いている状況で……。」
「さっきまであんな豪胆なやり取りをしていた貴方がそんな事を言うの? 面白い冗談ね。安心なさい。私が
「ぁー……その、心象だけは悪くしないようにお願いします。」
「それも大丈夫よ。悪くなるのはきっと私だけ。」
「そ、それもどうなんでしょうか……。」
少なくとも私達が吹き飛ばされるような
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